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『もの食う人びと』

日本が飽食の国と言われるようになったのは、いつからでしょうか?

──と、朝食べたドーナツ風パン(売れ残りのため 5 個で 100 円の安売り)を思い出しながら、何となく考えるのでした。自分が幼い頃(1970 年代)は、ひもじい思いをすることが多かったです。三食の内、一食が「レタスだけ」だったり。──あ、それって自分の家が貧乏だっただけか……。

しかし、そんな自分の貧しかった時代なんかより、もっと餓えている人々が世の中にはたくさんいることを、『もの食う人びと』で改めて知りました。この本は、著者が世界中を周り、体当たりで知った「食」の現実が書き記されています。

決して「グルメ本」の類ではなく、貧しい国に住む人たちの食生活が中止です。しかし、よくある「だから、もっと私たちは食べ物を大事にしましょう」というような意見が書いていないのがよかったです。──まぁ、この本を読んで、それで何も感じないような人間にはなりたくないな、と。

「ネスカフェ」好きの先住民

悲劇といえば悲劇なのですが、ちょっとおかしかったのがこちら。

ピナトゥポ山中で焼き畑農業に従事していたフィリピン先住民アエタ族の長老格、マガアブ・カバリクは、このところすっかり「ネスカフェ」のファンになってしまったそうだ。(……)

一九九一年のピナトゥポ大噴火で、山の生活を捨て、下界に下りてきたアエタ族は、たぐいまれな野外生活の達人(……)ところが、ほぼ二年間の下界の生活で、彼らの食文化は明らかに混乱をきたした。

「下界の味」を覚え始めたのである。同時に、失われゆく山の幸の本物の味を、遠くピナトゥポ山を眺めながら、心から懐かしんでもいた。

痛ましいほどの味覚の葛藤がそこにあった。

『もの食う人びと』 p.30-p.31

その「下界」の食生活も、始めは戸惑ったそうです。加工食品を自分たちの生活に取り入れるか、アエタの人々の中で議論があったり。

しかし、自分たちが住んでいた山の食べ物についてマガアブ・カバリクに聞くと、「嘘のない味」(p.34)で、やはりそれがいいとのこと。そして、元々アエタでは酒を飲む習慣がなかったのに、若者を中心にジンやビールを飲み始めたのを、こう嘆くのです。

「酔って考えることと、さめて考えることがちがうなんておかしなことだ」(p.36)

──当たり前のことですが、なかなかこう考える人は「下界」にはいませんよね(糸井重里さんが言いそうだけど)。酒の席で何かを決断したり、勢いに任せて何かすることは、避けた方がいいでしょう。

猫と猫の缶詰を作る人

タイ、というと漠然と「華やかな人たちが行き交う町並み」をイメージする、「地理・2(赤点ギリギリ)」の自分。どうやらそんな、TV のバラエティ番組に出てくるところばかりではないようです。

著者の取材当時、90 年代の話ですが、「日本の猫缶輸入量(推定、年間四万数千トン)のほぼすべてをまかなう」のがバンコク周辺の缶詰工場とのこと(p.56)。そこで働く労働者の平均月収が、日本円にして一万五千円ほど。著者の飼い猫が食べる猫缶は、月に五千円ほどかかっていたそうです。

そして、猫缶の工場での仕事は、立ちっぱなしの単純作業──。

──なんだかネコとヒトとの立場が逆転したような、狂った構図のように思い、偽善的な感情を抱いてしまいます。しかし、だからといって日本にいる猫の飼い主が「よし、そういうことなら猫には猫缶なんて贅沢なものはあげないでおこう」なんて思うと、猫缶工場で働く何万人もの労働者達が失業してしまいます。猫にとっても飼い主にとっても、知らずに猫缶を消費する方が、色々と幸せなんでしょうね……(そもそも猫は立場なんて考えないだろうし)。

採れたてのコーヒー

コーヒーは炒りたてが美味い、というのは常識ですが、さらに「採れたて」だともっと美味しそう。

おじいちゃんの肌と同じ色のそれをおそるおそる口に含んで驚いた。まろやかで、混ぜもののみじんもない、純粋なモカの味なのだった。

ひなたくささがかえってコーヒーそのものの味を引き立てている。

砂糖もミルクもなしの褐色の熱い液が、喉に胃袋に心地よくしみた。小川の土混じりの水で沸かした傑作コーヒー。魔法のようだ。二杯お代わりした。

『もの食う人びと』 p.207

魔法のコーヒーを飲んだ場所は、「コーヒー発祥の地」といわれる、エチオピアのカファ州。なにしろ、コーヒーを「カファ州の人々は朝、昼、晩三杯、計九杯も飲む(p.207)」そうです。

「小川の土混じりの水」はちょっと勘弁して欲しいですが、一度、本物の味を現地で味わってみたいです。

あと、「塩コーヒー」や「バターコーヒー」(!)の話も面白いです。とくに、バターの方は凄い破壊力だったそうですよ……。

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