『文学部唯野教授』
これは凄まじい一冊です。
タイトル通り、大学教授の唯野(ただの)が主人公。彼が大学に内緒で小説を書いていることや、親友が海外出張費を不正に使用したことが、後になって問題になってくる。大学内の利権争いや、いくつかの事件が絡み合い、最後は(いつものように)ドタバタに──。
というのが大きなあらすじですが、何といっても、話の合間に挿入される「文芸批評論」の講義が圧巻。
唯野が講義を進めて行く場面が、何ページにもわたって書かれています。小説自体が全部で 9 章あり、講義の数も 9 つ。全部通して読むと、批評論についてよくわかる、気がします。
- 文学部唯野教授 (岩波現代文庫―文芸)
- 筒井 康隆
- 岩波書店 2000-01
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by G-Tools , 2007/07/28
本当に大学?
もう一つの特徴が、唯野以外の教授達が、ほぼ全員おかしな人たちなこと。
幼児臭かったり、常識がなかったり、何を話しているかわからなかったり──。おおよそ、大学人とは思えない、いや、大人には見えない人ばかり。途中、急に SF やファンタジィものに変わらないか、魔界の住人や魑魅魍魎が出てこないか、冷や冷やしました。それくらい、「異形の物」のような人物描写です。
これは、筒井氏ならではの大学批判なのか──、と思わせる書き方です(たぶん、半分以上はその通り)。
受けたくなる講義
そんな中、唯野だけがまともに講義を行っています。
講義内容は著者が調べ上げたらしく、かなり高度。しかも後書きを読む限り、大きな間違いは無いそうです。
唯野の口調が面白く、こんな講義なら聞いてみたい、と思いました。
その昔、『i-D Japan』という雑誌で、読者が他の大学の講義に潜入する、という企画を連載していました。たしか、Disk を回す DJ(ディスク・ジョッキィ)に対して、大学教授は「知」を回すナントカ・ジョッキィと称していたような……。
当時の自分は勉強嫌いだったので、なんでわざわざ講義なんて聴きに行くんだ、と不思議でした。いまなら、その気持ちがわかります。大人になって、いやいや勉強しなくてもよくなると、勉強したくなるよね?
いまとなってはかなりレアな、森 博嗣さんの講義を受けてみたい……(たまにやっているらしい)。
ヒロインは?
ヒロインの榎本 奈美子が謎。
突然、唯野の講義に現れ、唯野が小説家でもあることを解き明かしてします。当然、この謎が今後の話の中心になると思いきや──。
最後に彼女が登場する場面も謎めいていて、なるほど、彼女は何かの象徴として書いてあるのだな、と想像します。
やはり、講義の部分が面白くても理解ができない所が多く、再読したくなる作品でした。再読の際、ヒロインの言動の謎に注目したいです。