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『SKET DANCE(スケット・ダンス)』 第 5 巻「スイッチ・オフ」

笑える話が多かった前半に比べ、後半は重い。スイッチの過去を通して、きょうだいや家族について考えさせられる。

30 年以上も一人っ子をやっていると、「きょうだいのヤツには敵わない」と思うことがある。きょうだいがいる人は、自然に気配りができる人物になる。──とは限らないけど、「これだけ他人に目が行き届くのなら、きょうだいが いるのだろう」と自分は勝手に思ってしまう。その結果、日に日に「脳内・きょうだい持ち」が増えていくのである。

──そうか、自分が心遣いのできない原因は、一人っ子だからかも。ということで、どなたか自分の妹になってくれないだろうか(最低のオチ)。

第 41 話「兄・弟」

振蔵の格好良さが味わえる話だ。彼に弟がいる、というのは後付けの設定だけど、素直に納得できた。弟に自分の背中を見せるために、彼は強くなったのだろう。

いつもと違ったスイッチの様子に、読者はすぐに気が付いたはずだ。「弟」の話を振蔵が話し始めた場面で、スイッチの表情が描かれる。この 1 コマがうまい。まったく普段と同じようなスイッチの顔──つまりは無表情なのに、何か心に秘めたものを感じる。なぜだろうか。

振蔵に対してスイッチは言う。

「本当に弟を思う気持ちがあるのならば その場で伝えるべきだ 時を逸してからでは遅いのだから」

いつになく真剣な感じだ。この場面は、まるでスイッチの口から発したかのように「聞こえた」。ここで、いまさらのように「なぜスイッチはしゃべらないのか」と「彼に弟はいるのか」とが気になってくる。

この回は、作者自身が「ぶっちゃけ繋ぎの回」と語っている。それにしては、武光兄弟とスイッチの熱い思いが伝わってくる、いい話だ。いつもの作品の雰囲気と異なるのも、目新しくて良い。

そしてまさかの「スイッチ 14 歳」が描かれるのだった──。

第 42 話「スイッチ・オフ 前編」

第 43 話「スイッチ・オフ 中編」

第 44 話「スイッチ・オフ 後編」

この 3 話は切り離して語れない。まとめて感想を書く。非常に書きにくいのだが……。

「スイッチ」と「兄ちゃん(あんちゃん)」、そして山内沙羽(やまうち さわ)の三角関係は、創作でも現実でも非常によく見るパターンだ。「出来の良い弟」も「劣等感を持つ兄」も「幼なじみ」も、ありがちと言える。「後編」の冒頭は、某・有名マンガのセリフが浮かんだ人も多いだろう。

しかし、この作品でこういった話を見ることになるとは……。とくに「後編」を初めて読んだときは、ちょっと正常な状態で見られなかった。本当に、この作品とスイッチが好きなのだな、と再認識した。

作者は「叙述トリック」が得意だ。この 3 話に仕掛けられたワナは、純粋に「トリック」として見れば、非常に完成度が高い。まさか、こんなタイミングで仕掛けてくるとは、思わなかった。

いつもなら、優れたトリックには「チクショウ! またやられた !!」と言いながら満面の笑みを浮かべるミステリィファンの自分だ。ただ、今回は素直に喜べなかった。ファンなら分かるだろう。

自分の口で話すスイッチ。号泣するスイッチ。告白するスイッチ。──どれも、いつものスイッチらしくない。ファンとしては、見たかったような、見たくなかったような……。でも、どれもスイッチなのだ。

今回で、スイッチがしゃべらなくなった理由が語られた。だが、まだ「救いの手が差し伸べられる」ところは描かれていない。これも大胆な決断だ。連載時は、このまま終わるのではないか、と心配になった。

この話で一番驚いたことは、トリックのほかにもある。なんと、連載を開始する前からこの話を考えていたとのこと。キャラクタを肉付けするために、あとから考えた──のではないのだ! 何回も煮込み直したような、怨念のこもった話だ。スタイリッシュ(笑)な戦闘と後付け設定(親も死神)ばかり描いているマンガは、見習って欲しい。

番外編 1「パペット・ダンス」

「アタシが直したるわ」のコマがエロい。当然、そんな展開にはならず。

人形劇にメタな概念を持ち込む、というシュールなネタは、それだけで作品が作れそうだ。実際にあるかもしれない。

指人形なのにスイッチのセリフは「ゴンセーオウセー」の効果になっている。これなんて、二重三重にメタな構造で面白い。

番外編 2「リゾート・ダンス」

「何で言うたん !!?」というヒメコのツッコミが最高だった。もちろん、直前の丹生のボケも。ボケなのか素で計算して言っているのか、あいまいなところも良い。

ほかのキャラが女の子らしく花をあしらっているのに、ロマンはビーチでもベレー帽なのか。そう思っていたら、彼女なら花も自力で出せるという見事なオチ。ナイスバディ合戦が繰り広げられる中、ロマンは控えめのが「作者、分かっているな」と独りで大喜びした。

表紙の折り返し部分に、ボッスンと安形・椿(らしき記号)がいる。椿の赤面しているような表現は、p.168 の「部室トーク」もあわせて読もう。椿、ウブなのかムッツリなのか……。

まとめ

つらい過去は人を変える。日本で「プロファイリング」という言葉が聞かれ始めたころ(90 年代?)は、「凶悪犯が生まれるのは家庭環境が原因」と安易に語り人が多かったように記憶している。いまも変わらないだろうか。そういった側面はあるが、家庭や過去だけで人生が決まるものでもないだろう──と信じたい。

はたしてスイッチの変化は、良かったのか悪かったのか──。

スイッチが普通に高校生活を送っていられるのは、なぜだろう。ボッスンたちと一緒にスケット団を結成したのは、どんな理由なのか。それはまだ明かされていない。これからも描かれないのかも。どちらでも良い。想像するか、知るか、どちらかが楽しめる。

作者に言われてみて気が付いた。そういえば、作品内の時間は止まったままだ。このままでいて欲しいような、進級のあとも見てみたいような。これも、どっちも面白く描いてくれるだろう。

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