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『バクマン。』 12 ページ 「10 と 2」 (週刊少年ジャンプ 2008 年 49 号)

今回は、服部の活躍が見どころだ。暴走、と言ったほうが正しいかもしれないが。

いつもの自分なら、見吉の「H」をもっと大々的に取り上げ、数回に渡り特集するところである。サイコーとシュージンと見吉との三角関係、とかも。しかし──これを書いている翌朝には引っ越しなのだ。しばらくネットが使えない。残念!

川口たろう先生に、あるマンガ家の姿が色濃く見えてきた。さらには、原作者の大場つぐみ先生も……。実際は、どうなんだろう。

面白くない

マンガは面白ければいいんだと語る編集長は、続けてサイコーとシュージンの作品を面白くないと切り捨てた。

ここまでハッキリとダメ出しされたのは、二人にとってショックだっただろう。ただ、初めて持ち込みに来たときの無意味な緊張感はない。すぐに欠点を聞き出すサイコーの目に揺らぎはない。内容を批判されたシュージンは、少しダメージが大きそうだが、すぐに立ち直った。

よく、「こんなマンガだったら自分のほうが面白い話を作れる」と素人考えを思いつく人がいる。そんな人は、ヒット作を生み出すまでに何本ものボツがあることを知らないのだろう。どんなに天才でも、売れるまでには数々の失敗作を描いてしまう。そこで諦めるか次の作品を描くか──その違いが大きい。

編集長の語り口は厳しいが、目には優しさを感じる。語る内容も、二人にとっては前進する糧(かて)になった。さらに、面白いものは連載されるという言葉は、川口たろうが語っていたことが分かる。編集長がどういう気持ちで成長したサイコーを見たのか、気になるところだ。

戦力外通告

川口たろうに対して「戦力外通告」を言い渡したのは、現在の編集長だった。さらに編集長は、ジャンプの年俸制度について語る。

『バクマン。』名物・ジャンプ暴露話のコーナーが来た。

ジャンプの契約料・原稿料は年俸制、というは意外だった。いろいろなところで、小説もマンガも「1 枚いくら」で報酬を得ていると聞いた。年間の契約料で支払うのは、ジャンプだけなのだろうか。

下世話な話だが、今週号でさっそく打ち切られたマンガ家も、年俸制で報酬をもらっているのだろうか。そして、彼も戦力外通告を受けたのではないか……。

読者からしてみれば、面白くないマンガが載っているくらいなら、早めに切って次の作品を読みたい。そう思っていたが、『バクマン。』で舞台裏を見てしまうと、ちょっと悲しく感じた。

契約を切られたあとも「気が楽になった」と言って再出発する川口たろうの背中が寂しい。この後ろ姿は、「誰か」のイメージなのだろうか。

マンガ好き

サイコー・シュージンと、新妻エイジとの差は何か──。問われた編集長は「マンガをどれだけ愛しているか」と答える。

新妻エイジが突出しているのは、なぜか。天才だから、と片付けない形でもっと単純な答えが用意してあった。描き続けること──たしかに、それ以外にマンガが上達する方法はない。

内容が深い

編集長は意外なことに、エイジは当分一番には なれないと分析している。その理由を聞いた服部は、エイジとシュージンとでは話作りに差があることを力説した。

自分は服部ウォッチャだ。今週も服部の登場を楽しみに待っていた。そして、彼を見直した。ひょっとしたら服部は、スゴいヤツかもしれない。

サイコー・シュージンのマンガの良さを、編集長に面と向かって説く服部が熱い。すぐに冷静なツッコミを編集長から受けたのに、気にせずサイコーとシュージンに次回作の案を出す。原稿ではなくネームで持ってこい、という方針を一方的に出し、最終的には編集長に認めさせた。

たんに社風の違いと言われたら終わりだが──自分の会社ではこんなことは考えられない。

自分の会社では、何をするにも上司の許可がいる。なくても自分ひとりで話を進めることはできるが、あとあと痛い目に合うことが多い。ほかの人に迷惑がかかることもある。世間では賛否両論あるが、報告・連絡・相談が重要だ。

川口たろうが死の間際まで持ち込みを続けていたことを、編集長は人から聞いている。そこから察するに、今回のようにデビュー前の作家の作品を編集長が目を通すことは、通常あり得ないのだろう。ここで、前回の「二人を放置してたばこを吸う服部」が仕込みを入れていた──というオチだったら、もっと服部の評価が上がっていた。たぶん、偶然だろう。でも、二人には良い傾向だ。

変な事

仕事場に着いたサイコーは、シュージン以外に見吉がいることを知る。見吉を通じて亜豆に仕事場のことを知られたくないサイコーの気分は複雑だ。

二人きりだからって変なことしてないよ」と見吉は語る。だが──その T シャツに書いてある文字は何だー! (大きく「H」と書いてあり、しかもバストによって湾曲している)

さらに妄想は加速する。仕事部屋に入った瞬間のサイコーが──「なに、そのドロボー猫 !?」と言っているみたいだ。いや、「そういう」展開じゃないのは分かるけど(ベーコン? レタス? 何のことです?)。でも──男のほうが嫉妬深いものだ。あくまでも「見吉が亜豆に仕事場をバラす」危険性についてサイコーとシュージンの間で通じている。ただ、根本的には「二人の聖域」に他人が入ったこと、そのものがサイコーには不快なのだろう。

そのあとも空気を読まない言動の見吉に、ちょっとイライラした。それほど嫌がっていないサイコーは、心が広いのだろうか。それとも、興味がある女子は亜豆だけなのかもしれない。──シュージンのおかげで成績も伸びて、目指すモノがあるサイコーは、もっとモテていいと思うのだが。

厨房カップルならべたべたしても仕方ないが、はたしてこのマンガ的に見吉が出てきた意味は? 答えはどうも、見吉が亜豆の情報を仕入れてくる役だから、のようだ。高校に入ったら、サイコーは亜豆に会えない。見吉の情報が頼りになるのだろう。

──と思ったけど、サイコーと亜豆はメールでやり取りするんじゃなかったっけ? さらに、見吉と亜豆は高校が違うのだから、たまに会って話す程度だろう。──うーん、見吉は作品の華やかさ担当、ということか。

面白くない

キャラクタの弱さを指摘された二人は、ジャンプらしい主人公を考える。主人公のカットとネームを仕上げた二人は、服部から意外な反応を受けた。

いままでも、ジャンプらしくない話がシュージンの持ち味と言いつつ、ジャンプらしい主人公じゃないと魅力がない、とやや矛盾したことを服部は言ってきた。そこは服部の編集者としての力量不足──と思っていたが、これは誰でも迷うだろう。今回でハッキリと、二人には王道が向いていないことが分かった。言葉だけではなく描いた物を見なければ、判断できなかったのだろう。

自分の非をすぐに認めて、的確な分析と方針を示す服部は、やはり信頼できる編集者だ。服部が二人の足を引っ張るのでは、と心配していたが、これで安心できた。

10 人のうち 2 人

ジャンプの読者アンケート──ジャンプの熱心な読者なら、あるウワサを誰でも聞いたことがある。アンケートによってマンガの順位が決まる──それは事実である。服部は、さらに興味深い数字を二人に話す。

ジャンプのアンケートで 10 人のうち 2 人が入れてくれたら人気マンガになる、と服部は語る。タイトルの「10 と 2」はここから来ている──が、大場先生、それを言うなら「8 と 2」では……? 8 と 2 といえば、パレートの法則。

パレートの法則 - Wikipedia

この数字を聞いて、多くの読者と未来の作家は、服部がいう「王道」の考えを持つだろう。大勢にウケる作品を描いて、そのうち 2 割の支持を受ける。たしかに、それが手堅い。

それにしても、アンケートはがきを出す時点で「一般的な読者」ではない。そういうマニアックな読者の出す票で左右されるランク付けが、どこまで有効なのか疑問を持った。まぁ、全盛期は過ぎても王者のジャンプがやっていることなので、大きく間違ってないのだろう。

一か八か

新妻エイジが「王道」を行くなら、サイコーとシュージンは「邪道」を行く。これが、服部が勧める一か八かの博打マンガだ。

いまさらながら、タイトルの『バクマン。』の意味が分かった。これまでにも、マンガ家は博打(ばくち)打ちというセリフは あった。だが、今回は積極的に博打を打ちに行く作戦であり、今までとはニュアンスが異なる。

編集部の暴露だけではなく、「赤マルでやれば周りがベタでくるから余計いい」という皮肉を、服部の口を通して言う作者がスゴい。

シュージンが考え、サイコーも好きだという作品のタイトルは『この世は金と知恵』という。服部も「何それ いいな ひどいなそれ もっと詳しく!」と絶賛だ(?)。

この場面は、ガモウ──大場つぐみ先生が、ジャンプ編集部へ『DEATH NOTE』の話を持ち込んだ時の再現ではないか、と思ってしまった。あの作品も、編集部の後押しがなければ、ジャンプ誌上に載ることはなかっただろう。

いま思うと、『DEATH NOTE』はどう見ても「邪道」マンガだ。それでも読者の 2 割だけを狙いに行ったとは、どうも思えない。当時のジャンプで、8 割──いや、たとえば半数の読者が「デスノは面白くない」と評価していた、とは考えられないのだ。それは、自分がファンのマンガだからだろうか。

正直、『バクマン。』は面白がらない読者は多いと思う。雑誌が雑誌だけに、こんなマニア向けな作品が長続きするのだろうか、と初めのころから不安だった。しかし、少なくとも読者の 2 割は支持するだろう。突然の打ち切り、にはならないと安心した。

まとめ

現実の厳しさを思い知り、数字のマジックに驚く回だった。

冷静に考えれば、アンケートの 2 割を取れなくても、連載は切られないはず。そうじゃないと、単純計算で連載が 5 本しかなくなる。あくまでも人気マンガのボーダが 2 割、なのだろう。

そうなると、はがきの 1 票って、結構重いんだろうな。本当に好きな作品があるなら、アンケートで支持するのが一番ということか。うう、面白いのに「あのマンガ」、最近うしろのほうに載っている……。はがき、出そうかな。

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