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『バクマン。』 23 ページ 「天狗と親切」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 10 号)

broken glass (best large)

悪い男はモテると聞く。本当だろうか。

亜豆の母親も「女の子って 少し悪いくらいの 男の子の方が 気になるものよ」と語っていた。うなずく女子も多いだろう。

しかし、イマドキは盗んだバイクで走り出すなんてハヤらないし、暴力事件を繰り返す男に惚れるのは、一部の女性だけだ。あと、「掲示板に○○予告を書き込み」などという行為は、「悪(ワル)」じゃなくて「頭が悪い」だけなので勘違いしないように。

ようするに、程度の問題である。しかし、その「ほどほどのワル」に振る舞える器用さって、頭が良い人間しかできない気がするのだが……。これだけで面白い記事が書けそうだが、不良の方面にはウトいので、誰かに任せよう。

さて、女性の「いつまでも夢を追いかける男性はステキ」なんて言葉も要注意だ。万年平社員が「いまでもパイロットになる夢を捨てきれない」などと言いだしたら、ちょっと精密な健康診断に行かされるだろう。これまた、程度と「誰の発言か」が重要である。

そう考えると、女性が男性に持って欲しい夢って「ワタシを満足させる・楽しませる・養うことができる夢」ということだろうか。「都内に一戸建て」みたいな。

『バクマン。』には夢を持った若者たちが何人も出てくる。そんな中で、中井は浮いて見えるのだが、少しだけ彼の存在について考えてみた。

一緒にジャンプ誌上で

サイコーがエイジの仕事場に来て、思わぬライバルが増えた。どちらかというとヨコシマな目標だったジャンプ誌上で連載する夢も、少年マンガの主人公らしく「ライバルと競いたい」という方向になっている。良い傾向だ。

そうなると、中井という人物がここにいる理由が読者にとって分からなくなる。

先週号の最後で若き才能たちについていけない中井を見て、読者の心境を中井に代弁されているのか、と思っていた。いわば、バトルマンガによくいる解説役だ。あまりにも強すぎるキャラ同士の戦いでは、何が起こっているのか分からない。そこで、やたらと絶叫する解説者が必要になってくる。何とも報われないキャラだが、欠かせない存在でもある。

──違った。中井は説明係ではないようだ。格下と思われた中井の、意外な才能が後半で見られた。

耐えられなくなって……

第三者から見れば、急成長を遂げて前途洋々なサイコーとシュージンだが、本人たちはスランプのように感じている。だからこそサイコーはシュージンのためにエイジの仕事場に来た。絶対に何か得るものがあるはずだ、と。

そんなサイコーでなければ、この中井のグチはキツいだろう。夢が破れた者から発する負の意識は、他人を巻き込む。中井は、自分でも知らないうちに、多くのアシスタントたちから夢をあきらめさせたのでは、と少し思った。考えすぎであれば幸いである。

それにしても──オレ、中井より年上なのか……。

ラストスリー

さて、たっぷりと中井の負のオーラを浴びて、いい加減に読者はウザく感じたことだろう。かなわない夢を追いかけているダメなオッサン、と思った人もいるだろう。

しかし、背景を仕上げる中井のテクニックを見て、サイコーは驚く。そう、今週号の中盤で中井が自分で言っている。アシスタントとしての能力に絶対の自信を持っているから、福田に何を言われても残っているのだ。

どんな物・場所でも あらゆるアングルから資料無しで描ける 効果線・ベタフラ・トーンフラ・ 速さじゃ誰にも負けない

──これ、よく考えるとスゴい発言だ。まったく背景を描いた経験がない自分だが、どれだけ貴重な能力かが分かる。

そうなのだ。いくらこの仕事場に才能が集まっていても、一番どこでも通用する能力を持っているのは、中井だと思う。マンガは水物、と繰り返し本編に出てくるが、アシスタントの能力はどんな現場でも重宝する。仮に王道マンガが流行しなくなっても、素早く背景を描ける人物は仕事に困らない。

小畑健先生が一番欲しがっている人材が中井なのでは、と思った。アシスタントの仕事をキチンとこなし、仕事場のやり方に文句を言わず、言い方は悪いが野心を持たない──いや、「持てない」。どの職場でも、いい待遇で迎えられるはずだ。

プロアシ・プロのアシスタントになりきってしまえば気が楽なのに、それでもマンガ家のデビューをあきらめられない。中井もまた、自分自身と戦っているのだ。

──でも、女がいないのは、連載できないのとは関係ないぞ……。

描き直してます

この気合いの入った仕事場に、眠たい表情で入ってくる雄二郎が憎たらしい。なんだその寝ぐせ頭は! ──って、いつもの髪型か……。

雄二郎がエイジのネームを見て、面白がる。それを見て小さくガッツポーズをする福田が格好いい。「それ、オレたちが手伝ったんスよ」などとは言わないのだ。渋い。

かなり驚いたのが、エイジの土下座(?)だった。とくに横柄な態度でもなかったし、つねに丁寧語だったエイジは、自らを「天狗になってた かもです」と評している。

たしかに、打合せもネームもイヤだ、というのはプロ失格かもしれない。しかし──それを許していた雄二郎にも責任の一端があると思う。それなのに、エイジは雄二郎に対して全面的に謝罪している。

どんだけ素直で性格いいんだよ、エイジ!

何となく、「悪い大人たち」に利用されるエイジ少年、という図が頭に浮かんでしまった。

エイジから盗んで帰る

ラストのコマは、サイコーの真骨頂が見られた。

先週号・今週号と振り返ると、この仕事場にいる全員に得るものがあった。一番得たものが多いのはエイジだろう。福田とサイコーのアドバイスでマンガの内容も良くなり、背景を中井に任せて話作りに時間を多くの割けるようになった。手助けするアシスタントの 3 人にも実りある職場になったはずだ。

その状況をサイコーも望んでいた。しかし、ほかの人とは違う方向で。

シュージンのため、と言いながら自分のためにも、他人を利用する。それでこそサイコーだ。すこし印象が悪いが、ほかのジャンプ主人公にない性格なのが良い。実際にこんな高校生がいたら知り合いになりたくないけど、キャラクタとしては面白い。マンガのキャラは性格が悪い方が好きだ。

エイジから盗めるものは「マンガを連載する感覚」と読んだが、本当のところはどうだろうか。次回も気になる!

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