『バクマン。』 28 ページ 「協力と条件」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 15 号)

blade (by Deltasly) (by Deltasly)

サイコーとシュージンは、たった一か月でコンビ解消から再結成になった。早すぎる展開にも見える。

しかし、この年ごろの一か月は、われわれオトナが想像する以上に長い。その半分もあれば、ガラッと変わってしまう。

茨木のり子さんの『詩のこころを読む』の一節を思い出した。

少女時代「あなたが側(そば)に来ると、さあさあと血の流れる音まで聞こえてくるようだ」と老いた人に言われ、なにを寝ぼけたことをと聞き流してしまったのですが、いまや、若い人と話をしていると、新品のポンプでたえず汲みあげられる新しい血の流れ、とどこおりなく駆けめぐっている潺々(せんせん)の音が聞こえるようになりました。

詩のこころを読む (岩波ジュニア新書)』 p.171

安西均の詩・「新しい刃」に言及した言葉である。「詩のこころ」はサッパリ分からない自分だが、この新しい血の流れという感覚は何となく分かる。──そういうトシになってきた、ということか……。

子どものころの自分は、何時間でも好きなことに没頭していたし、面白い物を求めて歩き回っていた。熱しやすく冷めやすい性格のためか、好きな物もコロコロと変わる。

その頃の自分だったら、邪道の SF 物から王道バトルに変更し、また王道の推理物へと変わる──という 2 人の感覚にもついて行けたはずだ。しかし、今の自分には「──すごいなぁ」という、ため息混じりの感想しか出てこない。

けど 難しいぞ これは……

マンガ雑誌に連載する前であれば、描くマンガの題材をいくらでも変えることができる。シュージンのように何本もネームを書いてきた人間なら、たまたま傑作の卵を思いつくこともある。

しかし、思いついた題材を連載するとなると、話が違ってくる。どんなに面白いテーマを考えても、何十話も続けないと成功とは言えないのだ。

とくにジャンプは、10 週分あたりで終了すれば「打ち切り」と言われ続ける。──小説の世界なら、1 冊で完結している名作がたくさんあるというのに。少なくとも週刊少年ジャンプでは、「初めからコミックス 1 冊分で完結する予定の新連載」は できないのか? (探せば過去にあったような気もするが)

サイコーのキャラクタデザイン案を 1 ページ見ただけで、シュージンは面白いが難しいと言っている。自分自身も推理物のネームを描き続けているからこそ、面白いまま連載を続けることの難しさが肌で分かるのだ。

レベルE』という(個人的に)成功例があるのだから、コミックス数冊分でまとめ上げる作品も、たまには見てみたい。──ただ、たぶん、それだと「ほかの作品で食えている作家」じゃないと、できないのだろうな……。

詐欺師なんだから

サイコーは、「赤マルジャンプ」に掲載された作品が知人も含めた読者に読まれ、ほかにもマンガ作品を何本も描き上げている。それなのに、シュージンにネームを読まれるのは恥ずかしい──というサイコーが面白い。でも、よく分かる。

読者からすると、シュージンが描くヘタな絵のネームのほうが、人に見せることが恥ずかしいと思う。サイコーのネームのほうが、しっかりした絵に見えるのだ。

しかし、ネームはネーム──話の骨格だけであって、絵の善し悪しは関係ない。サイコーは(少し不思議だが)初めから話作りは放棄している。自分の畑違いの分野で描いた物を、専門家に見せるから、恥ずかしいのだ。

シュージンが提案する主人公像は、かなり面白そうだ。マンガに向いている。というか、マンガ・アニメ向きで実写では ほぼ確実にコケそうな感じ。

実写で変装ものといえば──と書こうと思ったが、ネタバレになるので避ける。自分が真っ先に思い浮かぶのは、あのシリーズ物のホラー映画だ。このサイトに昔から通っている読者であれば、すぐ分かるはずだ。

「まさかとは思いますが、この『読者』とは、あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか」

【1087】家の中にストーカーがいます

6 箱!

いくらシュージンが「超高校生級」(古語)とはいえ、読者を 驚かすくらいの 詐欺・トラップを毎週のように思いつけるのか、という疑問がある。

マンガなのだから、天才・シュージンがスラスラと面白いアイデアを連発すればよい──という読者は少ないはずだ。そこで作者は、ちゃんとリアリティの材料を用意していた。

新妻エイジのためにマンションを用意したり、シュージンのために小説と DVD を用意したり、ジャンプ編集部はデビュー直後・直前の新人に対して、至れり尽くせりだ。この作品で、現実味を一番問われる部分かもしれない。

どうなんですか?>ジャンプの中の人

普通に考えると、入賞経験もなく、「赤マル」に読み切りが 1 回載っただけの高校生に、集英社が経費で何かを提供するとは考えにくい。

──ひょっとして、シュージンへの郵送物は、服部が自腹で買ったのだろうか。ダンボール 6 箱分の本と DVD って、何万・何十万もするのでは……。

どこまでも男前だぜ! 服部 !!

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