『バクマン。』 41 ページ 「テコと我慢」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 29 号)

森と山 (by jasohill) (by jasohill)

集英社・週刊少年ジャンプの編集者がマンガ作家と対面する際には、特有の接し方があるのだろうか。

そういえば、いつもは福田に押されがちな雄二郎も、福田の意見の弱い部分を付く場合には「独特な空気」があった。

つまりは、「適度にビジネスライク」な感じがする。

普段は、個人的な見解も交えつつ、マンガ家の意見を尊重して聞く。しかし、ある一線からは、個人的な感情を抑えて、「集英社の社員」として振る舞う。そんな印象を受けた。

──これまた「編集者は冷たい」と言っているように聞こえるだろうが、半分はその通り。しかし、その冷たさと、マンガに対する情熱との、2 つのバランスが編集者には要求されるのだろう。

今週号の港浦を見ると、そのバランスが身についてきたようである。

やっぱり凄く面白いです

『疑探偵 TRAP』は「ジャンプ」っぽくなくて いい、と無邪気にエイジは言う。じつに彼らしい言葉だ。──まさかこれが重要なセリフになるとは、この時点では思いも寄らなかった……。

亜城木夢叶の初掲載作品である『この世は金と知恵』を、僕の頭じゃ 思いつかないからエイジは評価していた。『ラッコ 11 号』のストーリィも面白がっていたし、王道よりもユニークな作品が好きなのだろう。

しかし、エイジの言葉を聞いたサイコーには、違和感が残った。それはそうだろう。自分たちは「王道のマンガ」を描いているはずなのに、ジャンプらしくないと言われたのだから……。

サイコーは その違和感をそのまま伝えずに、シュージンへは単純な「ほめ言葉」として話す。これは、シュージンを不安がらせないためだとすると、エラい! すっかり消極的になっているシュージンに余計なことを言うと、ヘンに「ジャンプらしい話」を考え出すだろう。

サイコーとシュージン・福田・中井・エイジ──それぞれの『TRAP』に対する思いはバラバラだ。不安がっていたり、面白がったり──。この短い電話の間に、そんなことを描いているのだ。人物を描くこととは、視点を変えて物を見ることである。

エイジからすると、亜城木先生が『TRAP』の行く末について悩んでいるなんて、想像も付かない。探偵──もとい詐欺師が、次回はどんなワナを仕掛けるのか、ワクワクと想像しながら待っている。エイジくらい素直な心でマンガを読むことができれば、どんなに楽しいだろう。

下手に動いたら 失敗する

シュージンはもっと順位を 上げたいと港浦に伝える。亜城木夢叶としては、当然のことを言っているまでだ。

港浦は生意気 言うなと返す。かなり感情を抑えた描写になっているが、それだけに迫力がある。思わず 2 人の背筋が伸びた。

今までの打合せのフンイキとも、港浦が編集部にいる時とも、まるで態度が違う。この場面を始めて読んだ時は、何が起こっているのか、頭がついていかなかった。5 ページくらい途中で抜けているのか、と思ったりして。

今は我慢の時だ

昨日は、雄二郎や吉田の意見に振り回されて(瓶子にはツッコミを入れて)、港浦はオロオロしていた。その港浦が、今日はサイコーとシュージンに対してビクビク するな!とカツを入れている。

『バクマン。』の事をなにも知らない人が今週号だけを見たら、編集部内と打合せとでは、港浦が同じ人物には見えないだろう。または、「人物が描けていない」などという評価を下すかもしれない

いったい、この港浦の変化は何だろうか?

──編集者として作家に会う際の「仕事の顔」を港浦は しているのだ。

ここで、数ページ前に戻ってみよう。港浦は、あたふたした態度を作家の前で取るなよと瓶子から言われている。そのときには、分かっていると港浦は答えた。これはいい加減な生返事ではなく、本当に編集者としての態度を理解していたのだ。

さらに、今回の打合せでは、港浦に服部が乗り移っている──ように見えた。服部と港浦との関係は「先輩・後輩」としか分からないが、師弟関係のように港浦が師事したのだろうか。それくらい、港浦の提案の仕方は、服部に似ている。

服部と比べると不安・不満が出てくる港浦だが、ここに来て急成長したように見えた。サイコー・シュージンだけではなく、港浦も成長している途中なのだ。

人気を取って上位を狙うマンガではない、という港浦の意見も納得ができる。人気を取りに行って成功する作品もあれば、失敗する作品もあるのだ。

──というか、テコ入れの方向が間違っている作品が、いちばん痛々しい……。

分かりやすい(?)例: 「あててんのよっ」→(一部で)大人気!→森でバトル!→打ち切り……

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アンケート結果なんて

アンケートの結果は気にするな、と港浦は言う。たしかに、そのほうが良い。

しかし、まったくアンケートを意識しないのは、ムリである。

なにしろ、アンケートの順位でマンガの掲載順も変わってくるのだ。自分のマンガが後ろのほうに掲載されているのを見て、それでも平常心で面白いマンガを描けるのだろうか……。

そんなことができる人は、ある意味では天才だ。そして、本当に天才であれば、そもそも後ろには載らない気もする。──いや、あまりにも芸術性が高すぎて評価されない作品もあるはずだ。『カラフジカル』がそれに当たるのかもしれない。

思ってない

今のネームのままで人気が取れるとは思っていない、と港浦は簡単に言う。港浦の言い切り方には、ある種のスガスガしさすら感じる。しかし、シュージンが怒るのも当然だろう。

港浦の言葉を聞いて「開いた口がふさがらない」状態のシュージンが笑える。彼のこんな顔は、二度と見られないはずだ。──まぁ、本人からしたら、笑い事ではないのだが……。

なぜ亜城木夢叶が人気マンガ家を目指しているのか、そこまで順位にこだわっているのか、港浦は知らない。だからこそ、このマンガのためにも 2 人のためにも、連載した以上 1 回でも長くやるべきだとアドバイスできるのだ。

まぁ、「じつはアニメ化したらカノジョと結婚できるんで、あせってるんすよ~><。手っ取り早く人気が取れる方法を教えてくださいよぅ~~~」「お、そうか! 早く言えよ!! だったらテコ入れだな wwwww」みたいな展開には ならないと思うが。

それ以前に、「18 歳までにアニメ化(結婚)」という目標は、サイコーの中で まだ有効なのだろうか。

──けっこう自分は古くさい考えをしている。なので、上のような目標・夢は「ロマンチック」ではなく、「不純だ!」とずっと思っているのだ。だってさぁー、「○○したら結婚」って、おかしいじゃないですかぁー。(「ボクって、ほら、着やせするタイプじゃないですかぁ」みたいな口調で)(オメェのことなんて誰も知らねェよ!)

その夢物語は厨房(中学生)のタワゴトとして胸にしまって、今はマンガ家としての実力を付けるべきだと思う。

そんな夢のことは知らずに、2 人の将来と『TRAP』のことを思う港浦の目は、燃えている。かつて、「邪道」路線を勧める服部へ、「王道」のネームを突きつけたサイコー・シュージンを思い出す──。

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