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『脳ミソを哲学する』 筒井康隆・著

salted fish guts (烏賊の塩辛) #7925 (by Nemo's great uncle)
(脳ミソっぽい──イカ)

ホリプロ所属(!)の小説家・筒井康隆さんが、科学者たちと一対一で対談する──という内容です。

「科学者たち」と乱暴にまとめましたが、動物行動学者もいればイカ学者・解剖学者や評論家もいる。いろんなジャンルの人たちが登場します。

インタビュア役の筒井さんを含めた、10 人が 10 人とも一流の聞き手・話し手のため、快適に読めました。「専門家の話」というと、専門用語ばかりが出てきて分かりにくいのでは──という心配はご無用ですよ。

自分が読んだ文庫版は、1995 年に出版された『脳ミソを哲学する [単行本]』が元になっています。対談の内容は、ほぼそのままのハズ。

それにもかかわらず、本書には次の一文が出てきました。

ところで、いま、若者の科学離れということが言われます。

脳ミソを哲学する (講談社プラスアルファ文庫) [文庫]』 p.21

おお、これぞ、最近になって言われている、「若者の○○離れ」ではないですか! なんという、時代を先取りした書籍でしょう……!

ということではなく──、これはただ単に、

マスコミは、いつまでも同じことを言っている

と受け取るべきでしょう。やれやれだぜ……。

エエカゲン数学者

対談者の 9 人の中でも、京都弁バリバリの数学者・森毅さんの話が面白かった。

森毅 - Wikipedia

まずは、コンピュータのプログラムには必ず悪い虫(バグ)がいる──という話です。

森:
(……)いいプログラムとはどんなものかを考えてみると、それは虫がいないプログラムじゃない。虫がいるのはもう仕方ないから。ただね、どこかで虫が発生しても、その虫がそこら辺で気持ちよく住んでいてくれたらいい(笑)。遠くへ行ったら困るんや。
(……)なにかわからないうちに白アリみたいに食われるというのがいちばん怖い。コンピュータにおける虫のエコロジーやね。
筒井:
エコロジーね(笑)。

脳ミソを哲学する (講談社プラスアルファ文庫) [文庫]』 p.150

よく考えると、「虫のエコロジィ」ってなんやネン! ──という感じですが、会話の中で出てくると、スンナリ納得ができる。

こういう言葉の選び方が、数学者は上手なのです。

数学者である藤原正彦さんが、彼の恩師と対談する『世にも美しい日本語入門』も素晴らしかった……!

そういえば、藤原さんも恋愛について語っていました。『脳ミソ──』でも、次のような会話が出てきます。答えを出すまでに 1 週間もかかるような、ややこしい計算がある──という話から始まりました。

森:
(……)家にこもって一週間もとりつかれているとだいたい神経がおかしくなる。僕が若いころ、一週間考えていたら幻聴が出てきましたね。
筒井:
ああ、やっぱりね。雑念の入らないのめり込みというのは明らかにそのようになるでしょうね。
森:
そうでしょうね、失恋といっしょですから。

脳ミソを哲学する (講談社プラスアルファ文庫) [文庫]』 p.151-152

この会話の前後で、別に恋愛の話なんてしていないんですよ。それなのに、サラッと失恋のことが出てくる。筒井さんも慣れたモノで、そこから

「それでは先生、何人くらい──」

と話をヘンにふくらませたり──はしない。

タイトルに偽りあり?

この本で気になるのは、タイトルです。「脳ミソを哲学する」ような内容は、どこにも書かれていない。

よくよく見直してみると、各章ごとに、対談をする人にあわせたサブタイトルがついています。解剖学者の養老孟司さんと話した際に、本の題名と同じサブタイトルでした。

養老孟司 - Wikipedia

しかし──、養老さんのお話を読んでも、「哲学」といった印象は残らないのです。どちらかと言うと、「解剖よもやま話」という感じ。

そして、本書を読んで初めて、養老さんが解剖学者と知りました……。

おそらく、インパクトを狙ったタイトルなのだと思います。それなら、『筒井康隆と 9 人のサムライ』といったほうが良かったのでは。自分がこの記事につけたタイトルなんて、ピッタリじゃないですか?

スミに置けない斬新な──イカ

この本を取り上げる時に、どうしても名前をお出ししたくなる人が──「イカ学者」の奥谷喬司さんです。はい、「医科学者」ではなく、あの食卓でよく見かける水生動物のほうですね。

奥谷さんの話を聞いていると、いかに(笑)イカが特殊な生きものなのか──が分かります。

イカの生殖行動の話は美しく、ぜひとも知って欲しい。また、タコとイカとでは、吐き出すスミの性質が異なる──という話も面白いです。

そして──、さんざんタメになるお話を聞いた最後には、やっぱりイカだけに──、

新鮮なイカソーメンっていくらでも食べられますよね!

という話で終わるのでした。

『脳ミソ──』を読んでイカに興味を持った人もそうでない人も、下の本は──なんというミリョク的なタイトルなんでしょうか……! 読みたい!!

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