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『美の壺』 - 編集: NHK「美の壺」制作班

Day 024
(羊羹にも──ツボがある?)

自分の人生からテレビ番組を見る習慣がなくなってから、もう何年にもなります。最近では、母親が観ているテレビの画面をぼんやりと、食事の時に眺めているくらいです(おもに録画してある「韓ドラ」)。

8時だョ!全員集合』を観るか『オレたちひょうきん族』にするか真剣に悩んでいた「あのころ」には、想像もつかない未来まで来てしまいました。

そんな現在の自分でも素晴らしいと思えるテレビ番組は、NHK テレビの『美の壺』です。「美術評論番組」という堅苦しい肩書を持っていますが、非常に分かりやすい。的を射たやさしい言葉で、美術品の味わい方(ツボ)を解説してくれる。

ナレーションと谷啓さんとのゆるふわ愛されトークが聞けなくなり、さみしい限りです。

美の壺 - Wikipedia

さて、その『美の壺』が単行本になって書店に並んでいました。初めて見た 1 冊は『根付』(ねつけ)です。もう、表紙の「仔犬」を見ただけで、かわいらしくて自然に笑みがこぼれてくる。中身の写真も素晴らしい!

日本の「わびさび」が好きな人はもちろん、マンガの『へうげもの』ファンにも楽しめる内容ですよ! 写真を眺めているだけで、うっとりしてきます。

今回は、『美の壺』・単行本の中から、上記の『根付』を始めとして、『アールヌーヴォーのガラス』『魯山人の器』『織部焼』『和菓子』を紹介します。BGM には『NHK「美の壺」ブルーノート・コレクション』をどうぞ──。

根付

たとえば、子どもから「ネツケってなーに?」と聞かれると、説明がむずかしい。「煙草入れ」やら「印籠」やらの言葉を使うと「インローって?」──となる(森博嗣さんの小説みたい)。

ところが今の世の中では、「(携帯電話の)ストラップみたいなモノ」で充分に伝わります。──じつは微妙にハンディ・ストラップとは用途が違う(煙草入れなどを帯に「引っ掛けておく」)ため、ネック・ストラップのほうが近いけれど。

根付 - Wikipedia

使い方から考えれば、根付の形は自動的に決まります。すなわち、「丸くて小さくて穴が開いている」。穴は、ヒモを通すためにあるのですね。だから、現代のハンディ・ストラップにも付けられるはず。

ギャラリーフェイク (17)』には、携帯電話のストラップを作っていたアーティストが根付に出会い、さらに才能を開花させる──という話が出てきます。実際に根付を見て、その精密さや題材の面白さ・素材の質感・謎解き要素まで盛り込まれていることに驚く人も多いのでは?

根付は、ほかの美術品ではあまり見られない「なれ」を楽しむ文化でもあります。そもそも根付は実用品であるため、使っていると表面の凹凸がなくなってたり丸くなったりする。これを「なれ」てくると言うそうです。

このジーンズで言うところの「縦落ち」現象を、わざと初めから加工した根付の彫り師がいるのでは──と推測する人までいて、ものすごく面白い! 根付に興味を持った人は、ぜひ下記のサイトをどうぞ。

根付のききて(ねつけ netsuke)

織部焼

我が家は親子そろって、瀬戸物(陶磁器)には無頓着です。「ガチャガチャと音が鳴る食器」は、すべて「瀬戸物」であ~る。我が県・三重県には、有名な「万古焼」(ばんこやき)もあるのに……。

萬古焼 - Wikipedia

それでも、織部焼(風)は見分けがつきそうです。まず、形の独特な物が多い。そして、「フリーダム」と呼ぶべき自由な模様が描かれている。生産技術も高いらしく、大量生産の過程でついた麻布のテクスチャも楽しい。

織部焼についてはぜひとも、マンガの『へうげもの』(Hyouge-mono)を読んで欲しいですね。古田左介が「古田織部」を名乗るまでのいきさつや、師匠である茶人・千利休と織部との師弟愛、織田信長が絶命する様などを、フィクションと史実とを織り交ぜながら描いています。

この国には、「たかが茶碗」に命を賭けた先人たちがいる──。「心に余裕(ヒマ)が ある生物 なんと すばらしい !!」(『寄生獣(完全版) (8)』)

魯山人の器

この本を読む前には、『織部焼』を先に目を通したほうが良いですね。北大路魯山人が焼いた器には、織部焼が多いからです。2 冊を比べると、違いが分かりやすい。

桃山時代の人たちが焼いた器と比べて、魯山人の陶器には「洗練」とも異なる「昇華」が見られます。彼の筆遣いが生きている。ほんのりとした色合いの絵が描かれていたり、サーッと皿をはみ出すほどの線が流れていたりします。

厳しい性格として有名な人だし、書も達筆だと名高い魯山人の筆には、不思議なことに力強さではなく──優しさを感じました。自分には、書にも絵にも器にも知識はありませんが、魯山人の手がけた作品の良さは、何となく分かる。それがすごい!

さて、北大路魯山人といえば思い出すのは、何と言っても『美味しんぼ』の海原雄山です(サラリと断言)。雄山のモデルは魯山人として知られている。その雄山が用意した食器と、魯山人の食器とが対決する『美味しんぼ (88)』は必見ですよ!

そう、魯山人が作ったのは「食器」なのです。食べ物──おいしい物を載せたときに真価を発揮する。いつかは、魯山人の「紅志野のジョッキ」でビールが飲みたい。

和菓子

このあたりで一服しましょう。和菓子をどうぞ──。

──とかんたんには安心できません。じつは和菓子には、名前や色形にさまざまな意味が込められています。根付と同様に、ちょっとした謎掛けがしてあったりする。

たとえば、「羊羹」には、どうして「羊」の字が使われているのか。「羹(あつもの)」とは「汁物」のことだけれど、何の関係がある? ──その疑問に本書は答えています。

ここでその答えを書いてドヤ顔をしようと思ったら──、昨日、宇多田ヒカルさんが正解を「つぶやいて」いたという……。絶望した! ブログ書きをつぶやいて潰す芸能人に絶望した!(『さよなら絶望先生』)

正解はこちら: Twitter / 宇多田ヒカル: 羊羹ってなんで「羊の羹(あつもの)」なのか調べたら… ...

食べ物だから当たり前かもしれませんが、和菓子は見ただけで甘さを感じる。そして、ここまで紹介した本からは「わびさび」ばかりではなく、やわらかな「円み(まろみ)」を感じます。

「和の心」とはすなわち、字のとおりに「和やか(なごやか)」であることなのでしょうね。他人の家の事情(と情事)に首を突っ込んだり、となりの国との文化の違いを笑ったり、悪いことを当然のようにしたり──、それは「和」ではない。

──とむずかしいことは考えずに、『和菓子』を目で見て味わいましょう。「初雪」をテーマにして老舗の和菓子屋で作ってもらう──という企画が面白かったです。3 種類とも「──なるほど」とうなりたくなる(うなっ!)。

そうそう、羊羹と言えば、猪本典子が書いたコラムが面白い。

コラムによると、羊羹の好きなフランス人がその原材料を聞いて、「野菜(小豆)に砂糖を使うなんて気持ちが悪い」と言ったそうです。「オレンジ・ソースを鴨肉にかける人種が何を言ってる」という感じですが、お国柄の違いでしょうね。

後日、そのフランス人は、やっぱりおいしそうに羊羹を食べていたそうです。異国の人をも魅了する和菓子は、こぢんまりとした外見からは想像できないほどの宇宙を中に包んでいる。

そうだ 京都、行こう。。でもその前に、コンビニで「みたらし団子」を買ってくるかな……。

アールヌーヴォーのガラス

たっぷりと日本人の心(らしきもの)をお伝えしてきましたが──、5 冊の中で一番心をひかれたのは、エミール・ガレが創り出したガラスの世界でした。

──まぁ、アール・ヌーヴォーは日本美術にも影響を受けているし、仲間と言うことで……。それに、ガレの作品は、どちらかと言うと「わびさび」よりかは「雅(みやび)」ですが、「円やかさ」も感じます。

アール・ヌーヴォー - Wikipedia

「ガレのガラス」を(高価な品として)耳にしたり、有名なトンボのモチーフを見たりした人は多いでしょう。でも、彼の作品の見どころがどこにあるのかは、知らないのでは?

ずばり、ガレの器は「素地」が最大の見どころです。これは遠くから眺めていても分からない。手にとって光にかざしたり、近づいて観察したりして、その素材感を鑑賞したいものです。

ところで、アール・ヌーヴォーと聞くと、すぐに思い浮かぶのは アルフォンス・ミュシャです。ミュシャの手がけた絵画やガレのガラス器は、日本のコミック・ゲーム文化で育てられた人には、なじみやすいでしょう。「それっぽいデザインのアイテム」もチラホラ見るし。

ガレの森美術館を紹介したサイトには、エミール・ガレの肖像写真が載っています。メガネを外した『エヴァ』の庵野秀明監督に似ている!(よね?)

それに連動してか、「鳴門ガレの森美術館」の専属アーティストは、「ロンギヌスの槍」をチタンで制作中とのこと──。狙ってるのかな?

鳴門ガレの森美術館

終わりに

単行本版・『美の壺』の写真を担当しているのは、写真家の鈴木心(すずき しん)さんです。彼のサイトを見ると、たしかに『美の壺』っぽい!

SUZUKI Shin

──でも、上のサイトは 1 ページに画像が何十・何百と貼ってあって、ブラクラ状態です。彼の写真は Flickr で公開されているため、こちらのほうがオススメですね。部屋に置いてある何気ない小物ですら、しっとりと輝いている。

Flickr: SUZUKI Shin's Photostream

蛇足のツボ

今回もタイトルは、ゲーテの言葉から借りました。

Twitter / ゲーテ名言集: 外国語を知らないものは、自分の国語についても何も知らない。

上の格言だけを聞くと、「え?」と疑問が出てきますよね。それをかみ砕いたのが、今回のタイトルです。

つまりは、外国の文化を知ることで、よりいっそう自国のことが分かる──と言いたかったのでしょう。普通は、外国語と自国語を逆にして言いますけどね。

ゲーテ:
「あ、それ、逆だったわー。メンゴメンゴ(笑)」

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