• 更新:
  • 投稿:
  • カテゴリィ:

『バンテージ・ポイント』 (Vantage Point)

2010-10-24_030236_Canon EOS 7D_28-75mm
(そんなにじっと見つめると──疲れるよ!)

リアルなアクションが見どころの映画です。

アメリカ合衆国大統領を護衛するシークレット・サービスのトーマス・バーンズ(デニス・クエイド)が主人公です。大統領がスペインで演説中に狙撃され、さて犯人は誰だ──という部分が大筋のストーリィになっている。

主人公の主観だけではなく、さまざまな人物の視点に切り替わるところが、この映画の大きな特徴です。大統領の狙撃される前後・数分から数十分の映像が、何回も視点を変えて映される。そのたびに、真実に近づいていく──という具合です。

DVD のパッケージには、「目を凝らせ――」とうたい文句が書いてある。上記のあらすじとあわせて考えると、「なるほど、かなり序盤で犯人グループの手がかりが出てくるのだな……」とミステリィ好きは思うことでしょう。

じつは、それこそがトリックだッ!(?)

何度も時間を巻き戻しながら少しずつ話が進んでいきますが、重要なことは後半にしか描かれていません。「目を凝ら」して観ると、(自分のように)非常に疲れるのでご注意ください!

先回りできない

上で書いたとおり、前半部分だけを観て事件の真相にたどり着くことは、かなりむずかしいです。むしろ、映像にヒントを求めるよりも、頭脳で推理する必要がありますね。でも、そこまで「意外な犯人」でもないし……。

この映画に、ミステリィ要素を求めてはダメだ──ということですね。

たとえば、テレビ局のプロデューサであるレックス・ブルックス(シガニー・ウィーバー)が、突然やって来たバーンズに、「偶然にも事件の様子を撮影したビデオ」を見せる場面が出てきます。ある場面を見たバーンズは、「なんてことだ……」と絶句する。

──この流れがすでにわざとらしい。

それに、肝心の「驚くようなシーン」は観客には見えないのです。何回も巻き戻したけれど、映っていない!シガニー・ウィーバーがいつものように「怒っているのかビックリしているのか分からない表情」で何を見たのか、後半までおあずけです。

バーンズが衝撃の事実を知る場面はもう一つあって、観光客が(またもや)「ビデオで偶然に撮ってしまった」犯人グループの行動を知った時も、1 回目は観客に見せない。

徹底してこんな調子で前半は過ぎ去っていきます。

視点が切り替わる面白さ

バツグンにうさん臭い刑事のエンリケ(エドゥアルド・ノリエガ)が、恋人のベロニカ(アイェレット・ゾラー)とほかの男との接触を目撃する場面では、視点切り替えの面白さが発揮されました。

知らない男と恋人が、親密そうに話しているように見えたけれど、じつは──という感じ。そこで思ったけれど、「視点の切り替え + 同じ場面を何度も再生」の手法は、人間の心理を描いたドラマに似合いそうです。サスペンスよりも。

この場面では、大統領が演説をする場に来た「自称・刑事」の男を、ろくにボディ・チェックもせずに通すか? ──という描写の甘さを感じました。けっこう、ほかにも抜けている部分が多いんだよなぁ……。

すばらしいアクション

ミステリィ・ファンとしては肩すかしを食らう部分の多い映画ですけれど、アクションは素晴らしかった!

元特殊部隊員・ハビエル(エドガー・ラミレス)は、研ぎ澄まされた感覚と経験に基づく動きで「自分の仕事」をこなしていく。ここは、ゾッとするくらいに現実味がある描き方でした。リアルすぎて、逆に「3D ゲームを見ている感じ」なのが面白い。

また、後半の迫力あるカー・アクションが見ものです!

この映画では、おそらく実写で撮影したのでと思いますが、こういう「人間の体や車体が悲鳴を上げるような」痛みを感じるアクションは、近い将来にはすべて CG で実現するのでしょうかね? それはそれで可能性が広がるけれど、味気ないような……。

「犯人」は彼だ!

さて、ここまでの感想で意図的に避けてきたのは、旅行者のハワード・ルイス(フォレスト・ウィテカー)です。彼の存在が、この視点シャッフルというワン・アイデアの映画を、ユニークな存在へ変えている。

大統領が狙撃される直前にルイスは、大勢の観衆の中でただひとりだけ、狙撃手がいると思われる方向を向いていました。どう考えても、あやしい! 体が不自由だと思われるからしかたがないのですが、挙動不審者だし。

大統領のシークレット・サービスであるバーンズは、上のような行動を取ったルイスをまったく不自然に思わずに、協力をお願いする。──いやいや、おかしいだろ!

このあともルイスは、自分自身では完全に善意の行動をしているつもりで、ビデオカメラ片手に走り回ります。そして彼の行くところに、わざわいが集中する……。

彼こそ、「悪」を超えた「最悪」です。

君こそ 真ノ邪悪ダ
君には「敵意」が ナイ(……)

君には 敵意もナケレバ 悪気もナイシ
誰にも迷惑ナンカ かけてナイと 思っテイル(……)

だが ソレコソ 悪より悪い 「最悪」と 呼バレルもの ものダ

ストーンオーシャン (3)』 p.109-110

──と書きましたが、彼を演じたフォレスト・ウィテカーもルイス自身も、嫌いなわけではありません。善悪の判断と好き嫌いは別です。

ルイスは、状況が良くなることを何もしていない。

「いやいや、少女を救ったじゃないか」と言う人には、こう聞きたいですね。──あの少女を、キケンな道路の近くへわざわざ連れていったのは、いったい誰だったか?

ルイスこそ、あの世界の「悪の象徴」だったりして。

だから最後には、ルイスの挙動不審な動作が急に直り、堂々と歩き始める──というような終わり方をして欲しかった。そう、あの映画(※クリックでタイトルのネタバレ)と同じですね。

蛇足

苦しみながら続けていますが──、今回もタイトルはゲーテの名言から借りました。

Twitter / ゲーテ名言集: 「吹くだけでは笛吹くことにならない。君たちは指を動かさねばならない」

この映画の場合は、タイトルのあとに「──君たちは頭を働かさねばならない」と続けたいところですね。

ああ、それは、どんな作品でも同じか……。

[2] このページの一番上へ戻る