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HUNTER×HUNTER No.313 「一言」 (週刊少年ジャンプ 2011 年 38 号)

Words have a power all their own
(膨大な書物よりも──ただの一言が世界を変える)

思い切り不安をあおるだけ あおって、前回は終わりました。それから 1 週間、あのあとの展開を何度も想像してみましたが、どうしてもイヤな映像しか頭に浮かばない──。

いやいや、主人公側のキャラクタではないけれど、ウェルフィンは登場回数も多いから、まさか、命を奪われたりは しないとは思いました。

(ヒント: ポックル・カイト・ヂートゥ)

さまざまな思いを胸にして、今週号の『H×H』のページを慎重に開いてみると──、

二度のビックリ

── 1 ページ目から「これ」だよ! しばらくの間、先のページへ進めなかった……。

この手法で、以前にも やられましたよね!

一番古くて印象的なのは、キルア 不戦勝の時です(『HUNTER×HUNTER (7)』)。『バガボンド』など、ほかのマンガでも見かけますが、何度やられても引っかかる。

そして今回は、助かったと思わせて──、「ウェルフィンは無事だった」と言えるのかなぁ……。容姿だけではなく、肉体年齢も老いたのでしょうかね? フル回転させた分、脳細胞も かなり死滅しているのでは……。

皮肉なことに、前回までは完全に「狼男」まる出しだったウェルフィンは、毛が抜けて年老いたおかげで、「人間──の おじいちゃん」に近くなりました。ある意味では、今回のラストとつながっています。人間の社会に溶け込みやすくなった──かも。

ひとこと

ウェルフィンが選ぶ「一言」は何か。

──これは、前回に出された「読者への宿題」でも あります。この答えも、「やられた!!」と思いました。

メタな視点から見れば、ウェルフィンが助かるには、コムギのことを話すしかありません。しかし、王とコムギとの関係も、王の記憶喪失も、何も彼は知らない。その情報がジャマをして、自分には「一言」が考えつきませんでした。

何かを「知っていること」は、必ずしも有利ではない。

これまた皮肉なことに、プフが余計なことを言わなければ、ウェルフィンは絶対に、コムギの名を思いつかなかった。「助けてくれ」と命乞いをするか、「ジャイローーー!」と叫ぶくらいでしょう。

たった一言で救われた者と、絶望した者──。

思いを共有

先週の感想では、プフには、王の考えなど まるで伝わっていない──などと語りました。タイトルにまで書いている。

HUNTER×HUNTER #312 「覚悟」 王の心 護衛軍知らず : 亜細亜ノ蛾

──まったく間違っていましたね! プフと王とは、シンクロ率 400%(懐かしいフレーズ)の異体同心でした。

こんな時は、自分の読解力の低さに自分で あきれてしまいます。「自分は本当に、この作品を『読んでいる』のだろうか」──と。

強烈な感情

たとえ今日が人類滅亡の日であろうとも、自分は自分だけに甘いので、先週の自分を弁護するような解釈をでっち上げてみましょう。

──前回までは、シャウアプフの考えを王が一方的に読むだけだった。ところが今回は、プフにも王の気持ちが共有できている。それほどまでに、メルエムがコムギを思う感情は強かったのだ──。

実際に、今回ほど王の考えをプフが完全に理解できたような描写は、いままでに なかったでしょう。第三者を とおすことで、身近な人間のことがよく分かる──。これは、日常でも よくあることですね。

それにしても、コムギを思いだした王の心情が、イメージとしては「お花畑」に なるとは──。なんともロマンティックな描写ですが、プフにとっては残酷な風景──というところも皮肉ですね。

真の理解者

けっきょく、護衛軍と師団長──すべてのキメラアントの中で、王のことを完全に受け入れられたのは、ネフェルピトーただ一人でした。ピトーなら、王と「異体同心」の関係にならずとも、メルエムもコムギも大事に守り続けたに違いない。

王から褒めてつかわすと初めて言われたのも、ピトーでした(『HUNTER×HUNTER (21)』)。

そのピトーは今、ゴミクズのように転がっている──。

何とも やり切れない気持ちです。これも不思議な話で、ポックルやカイトのファンだけではなく、読者が人間であれば、ピトーは「敵の一人」として認識するのが当然なんですけどね。敵であれば、当然、いつかは倒される。


冷酷に見れば、護衛軍の中で 1 番、ピトーはキメラアントの本能が強かっただけだ──と考えることもできます。「王の気持ち」をくみ取ったのではなく、「王の命令」を聞いただけだ──と。

どちらにしても、彼(女)には生き延びて欲しかった。

王は つねに一人

事情を知らないウェルフィンは、自分がなぜ助かったのかが、永久に不明のままです。王に礼を言われた意味も──。

しかし、せっかく助かったのに、メルエムに対してウェルフィンが暴言を吐いたのは、なぜでしょうか?

一度は死んだ身として、キメラアントの「ウェルフィン」ではなく、人間の「ザイカハル」として散りたかったのでしょうね。

大切なモノを想い出せたという王の言葉は、ウェルフィンとイカルゴとの会話を連想させます。凶悪な存在でしかなかった王が、まさか そんなことを言うとは、ウェルフィンには想像もできなかったでしょう。

HUNTER×HUNTER #309 「勝負」 散布されるのは──ゆがんだ忠心 : 亜細亜ノ蛾

人間としては、「敵」に礼を言われたり、情けをかけられたり、同じ感情を持ちたくなかった。だからザイカハルは、最初の最期の言葉を、あらためて言い直したのでしょう。

ジャイロは今

メルエムの逢えると いいな その者とという言葉が、しんみりしていて好きです。

他人に対して こんなこと言うなんて、すでに「アリの王」では なくなっている。それが何だか、切ない気もします……。

また、このセリフは、読者のほうを向いて しゃべっているようにも見える。これはつまり、「ジャイロ編」が描かれると いいな──という作者の言葉なのでは。いやいや、描いてくださいよ、冨樫先生! 何十年でも待ちます!

何に負けたのか

プフは、なぜ ここまで絶望しているのでしょうか?

それを知るには、コムギに対するメルエムの心情を考えることです。あきらかに王は、コムギのことを(護衛軍よりも)大事に思っている。それがプフに不安を抱かせているのです。

王は、コムギを「何」と思っているのでしょうか。ただたんに軍儀の相手──だけではないはずです。友人や恋人・家族に近い存在だと感じていそうな気がする。

だから、プフはコムギに嫉妬しているのかもしれない。「プフってば 何か片想いの 女のコみたい」「 乙女ちくね」(『 HUNTER×HUNTER (22)』)──ということでしょうか。

しかし、それではプフが絶望する理由になりません

プフの望みは、「メルエムが絶対の王として世界に君臨すること」です。その願いとコムギの存在とは、矛盾せず お互いに共存できる。

なぜなら、王が王として君臨し続けるためには、メルエムの子孫が王家を受け継いでいく必要があるからです。コムギのような「人間の女性」が不可欠になってくる。

「女性型のキメラアント」でも別に良いのでは──と言われそうです。しかし、絶対数の すくなさと、種としての多様性を考えると、メルエムの相手はヒトが良いと思う。

究極の解決策

いずれにせよ、王のパートナとして、コムギとプフは交換ができません。そのため、プフが失意の底にいる意味が分からない。

──と書いてきて、重大なことに気がつきました!

プフは細胞レベルでの 分裂が可能であるため、自分以外の者での 再構築も可能です。複雑で微妙な人間の顔や声帯までマネられるのであれば、子を生す器官も作り出せるのでは──。

ということで次回は、「私では…… ダメですか」とコムギに変身したプフが登場ですね!

──下品なギャグは ともかく、神経細胞や脳の構造まで寸分違わずコピーしたら──、どうなるんだろう……。

おわりに

今回の最後に出てきた「蝶々のイメージ」は、メルエムが「貧者の薔薇」を食らった直後にも出てきました(『HUNTER×HUNTER (28)』 p.167)。

この「死にかけて落ちていく蝶」と「飛び去っていく蝶」は、間違いなく(プフが考える)王の象徴でしょう。

それだけではなく、「毒をまき散らす蝶」にも見える。なんと、298 話の時点で、すでに薔薇の毒のことを描いていたのか!

──と読者に思わせるところが すごい。冨樫義博先生ほど、「後出しジャンケン」が上手なマンガ家は いませんね。これくらい上手にやってくれたら満足です。

ヘタな後付け設定ほど萎えるモノは、この世にない。


メルエムとコムギが再会したあと、どうするつもりなのでしょうか──。

上では「子孫繁栄説」を挙げましたが、それはプフのために考えた話です。メルエムはそんなこと言わない

もしも、王にも薔薇の毒がまわっていて、死期が近いとしたら──、最期にコムギと軍儀をするでしょうね。そしてコムギは、何も知らないまま王に勝ち続けるはずです。

いや──、残酷な作者のことだから、最期の最後で王が勝ってしまうかもしれません。そうしたら、コムギは当初の約束どおり、自分の命を投げ出すのでは──。

そんな美しくも悲しい終わり方を、今から覚悟しておいたほうが良いでしょう。

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