野火ノビタ 批評全仕事 『総評』

2011-12-31_225801_Canon EOS 7D_28-75mm
(作者には花束を──批評には愛を)

この暴力的な愛の文面で溢れた文字だらけの同人誌は、「感想書き」の自分にとって聖書(バイブル)です。いつまでも越えられない壁として、目の前に熱く厚く立ちはだかっている。

野火さんは現在、もう批評を書かれていないようです。繰り返し『総評』に圧倒されてきた者としては残念な気持ちが半分で、あとの半分は幸福な気持ちで満ちている。

なぜ「野火さんの批評が聞けないこと」を喜んでいるのかは、あとで説明しますね。『HUNTER×HUNTER』のファンならば共感してくれるはず。

なにしろ『総評』の配本は 13 年以上も前であるため、現在の入手は困難です。ざっくり調べたところ、この記事の最初にある表紙の写真ですら、いまでは激レアだったりする。

2003 年に日本評論社から発行された野火さんの批評本・『大人は判ってくれない』であれば、まだ手に入れやすいようです。『幽☆遊☆白書』や『H×H』・『エヴァンゲリオン』の批評も読めるはず。

さて──、中途半端な形で『H×H』の感想を始めたことを、これまで ずっと気にしていました。最初の感想は「キメラアント編」の途中からで、文体も視点もヒドすぎる。書き直したい!

2004 VOL.18 : HUNTER×HUNTER | 亜細亜ノ蛾

そこで、来年から──というか明日から、『H×H』第 1 巻の感想を書き始めます。いつかは最新刊に追いつくでしょう。

その前に、どうしても野火さんの『総評』をしておきたかった。──なぜか『SAW V』の感想で彼女の名前を挙げていますけれど。

ソウ 5 (SAW V) - テーマは「殺人と更正との差」──あるいは狂気 | 亜細亜ノ蛾

月の光を盗む賊

野火ノビタ氏の個人サークル・「月光盗賊」から 1998 年の 11 月 3 日に『総評』は配本されました。榎本ナリコさんの本名と住所が奥付に印刷されているという、古き良き時代の同人誌ですね(最近の薄い本も同じなのかな?)。

そう、野火ノビタという名前は、マンガ家・榎本ナリコさんが同人活動をする時のペンネームです。彼女のサイトを見ると分かるとおり、いわゆる BL ──というよりも「やおい」本が中心になっている。

月光盗賊

榎本ナリコ名義のサイトと見比べると、同一人物が運営しているはずなのに、なんだかノリが違っていて興味深い。「やおい」という文化──いや「生き方」が持つ根本的な闇と関連がありそうですが、門外漢なので黙っておこう。

榎本ナリコ 野火ノビタHP 榎本事務所top

トムとジェリー』以外のアニメに興味がなかった自分は、『新世紀エヴァンゲリオン』にハマり、旧劇場版『エヴァ』は映画館で 7 回も観た。オタクグッズや同人誌も買いあさる。

そのころ、野火さんの『総評』と やおい本に出会いました。自分の知らなかった世界を早いうち(といってもハタチすぎ)に味わえて良かったです。あの時に触れていなかったら、二次創作や作品批評にヘンな偏見を持っていたかもしれない。

『新世紀エヴァンゲリオン』批評

総評』の大半は『エヴァ』の批評です。ページの約半分を占めている。おそらく、この同人誌に手を出した人の多くは、自分と同じで『エヴァ』批評が目当てでしょう。

庵野秀明監督と野火ノビタ氏との関係をバクロするページが最大の目玉です! アンノさんとアンナことを……(ごくり……)。庵野さんが登場する生々しいマンガは必見ですよ!

『エヴァ』の批評を書いたページも引用したい箇所が多いけれど、ぐっとガマンしています。あまりにも影響を受けすぎるから、『総評』自体も あまり読み返せません。「こんなにも自分には書けない……」と落ち込む。

「冨樫義博」批評

冨樫先生の『幽☆遊☆白書』に関する批評は、『総評』のなかでも ひときわ心を引かれました。

自分は『幽白』の終わり方を それなりに納得したけれど、多くの読者は不満タラタラだったらしい。野火ノビタさんも その筆頭です。彼女が「週刊少年ジャンプ」編集部へ送った小論文(という名の文句)は、『総評』に全文掲載されている。

小論文や ほかの批評を合わせて考えると、当時の「ジャンプ」は以下の問題を抱えている。そして、それは今でも変わっていないでしょう──。

  • 人気のマンガほど編集の悪しき介入が行なわれる
  • 作家より優先されるのは「作品」ですらなく「商品」

この問題に冨樫先生は どう対応したのか?

冨樫は、そういうジャンプ体勢に、自爆することで初めて抵抗した、ほとんど唯一の作家なのだ。

なんという悲しい道なのか──。

上の批評が書かれたのは 1994 年のことです。そのあとの連載である『レベル E』や『HUNTER×HUNTER』での冨樫先生の特別待遇を見ると、自爆をした甲斐は あったようですね。

もしも編集部の言いなりになって『幽白』の魔界トーナメントをダラダラと描き続けたり、背景も 1 人で描いていた(!)『レベル E』を週刊連載にされたり、武内直子姫とは違う方と見合い結婚させられたり(これは冗談)していたら、どんな惨劇が待っていたか……。

疾走へ! 『HUNTER×HUNTER』 寸評

総評』に掲載された『H×H』批評の範囲は、コミックスで言えば 1-2 巻までの内容です。「おもしれー」とボケた顔で自分が読んでいた展開のなかに、この作品の方向性を野火さんは見つけていました。

  • 現代の日本とは異なる世界の物語
  • バトル物ではなく冒険物
  • ハンター試験はトーナメント戦ではない

これらの点は、『幽白』で作者を苦しめていた問題を解決する手段です。週刊連載を追っていた人は ご存じのとおり、休むことも覚えたしね!

おわりに

野火ノビタさんが なぜ批評を書いていたかというと、愛する作品に「もの申す」ことがあったからです。とくに『幽白』の最後には腹を立てていた。

総評』のアトガキによると、彼女が次に批評を書くのは、『H×H』がフォーネバー最終回(「オレたちの戦いは これからだ!」)を迎えた時とのこと。それはイヤだー!


冒頭で書いたとおり、『HUNTER×HUNTER』の第 1 巻から順番に感想を書いていきます。来年中には最新刊まで追いつける──かな。

創作者の視点から書かれた野火さんの「愛のある批評」は、自分には生み出せません。自分に書ける文章は「感想」だけです。自分が感じたことを心の底から引っ張り出して、書く。

すべての回について感想を書けるようにがんばるつもりです。だからもう弱音吐きません。逃げません。切れません。と思います。多分。HUNTER×HUNTER (1)

[2] このページの一番上へ戻る