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『のりりん』 5 巻 鬼頭莫宏 – 旅は「道」連れ

鬼頭莫宏 『のりりん』


いつの間にか──日常風景

嵐の前の静けさ」という感じの 1 冊でした。

主人公のノリ(丸子 一典)とリン(織田 輪)がノリ用のロード・バイクを組み上げて、みんなでツーリングに出かける──と ひと言で言い表わせる内容です。

ところが、なんだか不安になってくる──。

同じ作者の『なにかもちがってますか (2)』も、いろんな事件が巻き起こる寸前の ふんいきでした。『のりりん』は「そういう作品」じゃない──と思いたいですが。

無骨な刃の価値

Litespeed のチタン製フレーム「ブレード」は、軽く調べてみると新品で 30-50 万円くらいするそうです。老松から 5 万円で譲ってもらったノリは、じつに幸運ですね。

リンの母親・織田 陽子から金額の話を聞いて、びっくりしている丸子の顔が おもしろかった。なんだか まつげが長くなった気がする。妙に女性化が進んでいますね。

「ブレード」という名前と骨太な外見から、『BLEACH』に出てくる刀(斬魄刀)を思い出しました。ひ弱な印象の主人公が増えるなかで、「男の子の武器」は太く たくましくあるべきだ! ──かな。

Lite ってなんだ? パチ?」と言うドマチ(門真 洋一)の印象は、大半の読者と同じ初心者の目線です。自分は、マウンテン・バイクみたい──と失礼なことを思ってしまった。

ところがロードに乗っている人からすると、「自転車じゃ ないみたい」とか「もえる形」という感想になる。この あたりの感覚はリアルです。

昨日のライバルは今日の仲間

最初は「イヤミな文句言い」に思えたトドロキ(等々力 潤)も老松も、昔からのロード仲間みたいに仲良くなりました。ノリのほうが何千倍もイヤミったらしいからですね!(そうか?)

かつての敵同士が和気あいあいと盛り上げっている姿は、まるで『ドラゴンボール』みたいです。「最重要 持ち物 トドロー」なんて言われていて楽しい。

陽子が言うように、丸子は誰とでも仲良くできる。それは、彼が平気で他人に向かって文句を言えるからでしょう。好かれようとして他人の顔色ばかり気にしていると、逆に他人を遠ざける。

仲良くなるとは、お互いに傷つけ合うことです。

ワビサビの境地

老松の言葉は一つ一つが渋くて良かった。「ロードは 持って 走るもんじゃ なくて 乗って 走るもん だからな」というセリフも洒落ている。

間違っていると思っていなければ謝るな」なんて、人生の後半にならないと重みが出てきません。上辺だけで謝ってばかりいるノリには、老松は師匠か父親のような存在ですね。

陽子と老松との会話は、「特殊な書籍」に関する話が最高です! 中学生同士が話しているみたいで笑えました。

ノリとリンと母心

陽子は自転車に「乗らない」のではなく、「乗ってはいけない」らしい。どこか体が弱いのでしょうか。自分が乗れない分だけ、ほかの人を手伝うことが陽子の生きがいなのですね。

ノリとリンが自転車を組み立てながら、好きな人について話している。──この流れだと、普通に考えてリンの相手はノリに思えます。なにしろ、赤面しながら ずっと丸子のことを見つめている──。

ただ、その可能性は前巻までで否定されているし、「ここにおらん人」と相手についてリンは言っています。まだ読者も知らない人物なのかな。丸子の昔の知り合いであるオヅ(小月 優)が怪しいぞ。

陽子はリンとノリをくっつけようとしているらしいから、リンの好きになった人には問題があるのかもしれない。やっぱり、この点も不吉な前兆が漂っている──。

通勤の友

おとなしく眠っている愛車を見つめるノリが味わい深い。永遠の別れというわけでもないし、いまでも自動車のほうが好きだと思うけれど、「いままで ありがとうな」と心の中で礼を言っていそうです。

ロード・バイクの「この ひと踏み目」にハマった丸子は、毎日 30 キロの 通勤で体を鍛えることになりました。策士・陽子の術中にもハマっている感じです。

もしかして、無免許になった原因も陽子が……!?

そんなこととは知らず(?)、「アレ? 今 俺 チャリの魅力? みたいもの 語ってた?」と完全に地獄のミサワ口調のノリが楽しかった。

おにぎりに 目覚める」という表現も おもしろい。「ロードで体力を消耗して体が炭水化物を求めている状態」をこう表現するなんて、作者自身がロード乗りならではの言葉ですね。

お得意さん周りにロードで出かけるノリは、同僚と上司に見送られています。会社でも人望が厚い。顧客から見ると免停はマイナス評価だけど、5 キロの道を自転車に乗ってやってくることで、帳消しどころかプラスになるかな。

それぞれの道

ヒガシ(東 均)は塾の先生がピッタリ合っています。すぐ気がつくし優しいから、生徒たちから人気のある良い先生でしょうね。

トドロキが花屋なのは意外だった。『よつばと!』のジャンボと花屋対決を見てみたい!(対決?) それと、ミムとのフラグも気になります。そのうち、花束でも贈りそう?

「職業: ヒガシの飼い主」(?)な若江 南(わかえ みなみ)は、みんなのムード・メーカとして活躍していました。ロードに慣れた人が多くなってきたから、若江のワクワク感が新鮮で心地好い。

今巻の主役は、「職業: ボンボン」のドマチでした。

ツーリングに新車のロード・バイクに乗って登場したドマチは、金持ちらしくモノには容赦なく金をつぎ込む。しかし、人に対しては優しい。良い友だちに恵まれているからです。

(余談だけれど、そもそも金持ちには性格の良い人が多い。『バクマン。』のヒロインも同じです。ようやく「金持ちは性格が悪い」という昭和の空気が薄くなってきましたね)

走れる人間と 走れない人間の差を体感したドマチは、まだロードに慣れていないだけでしょう。あまりノリへの対抗心を燃やしすぎると、体を壊してしまいます。これも伏線か──。

不安の波

公道で走るための自転車だから、組み立てる前にノリが身構えたのは当然です。万が一の事故は、億が一にも起こしたくない。リンは のんきすぎるように見えました。

初期のび」の話なんて、ワイヤが切れる伏線にしか思えない……。当然のように陽子がチェックしたとは思うけれど、このあたりから不安が広がり始めます。

妹のミム(丸子 三夢)が なかなか帰ってこない場面では、事故や事件のニオイがプンプンしました。平和そうな顔をして ご飯の準備をしているノリが、この作者のことだから逆に怪しすぎる!

カラモモ(杏 真理子)の不在も不吉です。忙しいにしても、連絡すら取れないのは おかしい。まるで、自分と女友だちとの関係みたいです(思い出し絶望)。

カラモモのことをまったく気にしていないノリにも、ヘンな発想しか浮かんできません(このブログでは いつものこと)。たとえば──。

丸子
「ただいま、カラモモさん(床下に向かって)」

おわりに

次の巻では、それぞれの脚力に合わせた走り方が見られるようです。重りでも載せるのだろうか?

そして、モヤモヤと立ちこめる不安の影が どうなるのか、今から とても心配です! ──何人が生き残れるのかな(ワクワクテカテカ)。

asiamoth: