『ジグβは神ですか』 森博嗣 – 再会の喜びに飛び立つ

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ジグβは神ですか』 森博嗣・著

Wrapped cat 包まれた世界は──完全なる密室

前作・『目薬αで殺菌します』に続いて、ギリシャ文字から始まらないタイトルです! そのことに意味があるのか どうかは、神のみぞ知る──。

『目薬αで殺菌します』 森博嗣 – 事件よりも大事な恋心とパソコン | 亜細亜ノ蛾

著者の森 博嗣氏によると、前作の発行から4年が経ちましたが、当初から予定していたことで、作品の中でも同様に月日が流れています──とのこと。

なんだ、てっきり講談社の中の人と仲たがいに なったのかと思った(α』の Kindle 版が出ているのに文庫は まだだし)。でも、「G シリーズは全 12 作」とは明記されなくなったよなぁ……。

2012-11-14T11:37:41+09:00 追記

小説に「あとがき」を書かないことで有名な森先生ですが、講談社の公式ページにコメントを載せていました! シリーズ半分の折り返しである「ηなのに夢のよう」(『η』は 6 作目)という記述から、全 12 作で間違いないようですね!

『ジグβは神ですか』森博嗣|講談社ノベルス

それでは いつものように、「謎解き」や「解釈」──などではなく、自分の感想をお送りします!

前回との関連性

「α」と「β」の関係は、濃くも薄くも感じました。強いて共通点を言えば、以下に なります。これらは、今後の傾向になるのかも しれません。

  • 前作では珍しく映画のタイトルが語られ、今回は「YouTube」という固有名詞が登場する
  • 「タイトルそのものの言葉」が作中に登場しない
  • 完全には犯人が特定されなかった(森ミステリィなら いつものこと?)
探偵の正体

赤柳 初朗(あかやなぎ はつろう)・水野 涼子(みずの りょうこ)の正体は、今回も不明でした。しかし、いくつかの手掛かりが明かされている──。

まず、「現在は 50 代の女性」であることは確実でしょう。そして、これまでの作品にも登場した人物だとすると、もう候補は絞り込まれます。つまり──、

香具山 紫子(かぐやま むらさきこ)でしょう!

彼女の年齢と探偵歴から考えると、保呂草 潤平(ほろくさ じゅんぺい)が出ていった直後くらいに「探偵になるでェ!」と決意したに違いない。──よく小鳥遊 練無(たかなし ねりな)が止めなかったなぁ……。

保呂草(ほろくさ)──もとい椙田(すぎた)との会話でも「瀬在丸さん」と呼んだり、「小柄」な身長なことなど、ややムリは感じますけどね。ほかの登場人物は性格が変わっていないのに、彼女だけが様変わりした理由とか。

でも、あとの候補は、森川 素直(もりかわ もとなお)が女性だったとか、関根 安奈(せきね あんな)先輩が奇跡のサバイバル復活! (あるあr ──ある?)くらいなのでは。

豪華な登場人物

「犀川 & 萌絵シリーズ」や「G シリーズ」・そのほか短編から何人も再登場しました!

なかでも注目は、意外にも初対面だった瀬在丸 紅子(せざいまる べにこ)と佐々木 睦子(ささき むつこ)です。2 人とも普段の調子を抑えている感じですが、今後も「保護者」同士で仲良くなれるでしょうね。

上で書いたように水野が紫子だとすると、しこさんと紅子さんの再会になります! あまり「感動の再会」では なかったけれど、もともと「会ったらマージャンか殺人」の仲だからかな。ちょっと、さみしい。

ついに降臨!

あとは やはり、またもや肩すかしと見せかけて──最後に登場した真賀田 四季(まがた しき)博士です! 彼女も影武者の可能性はあるけれど、自分は本物だと思いました。

あまりにも入れ込みすぎた「信者」は、四季の言葉を「私は神ではない」という意味に取っています。ただし、これは あくまでも「信者」の解釈に すぎません。

事前に「掃除」を指示するなんて、神にしかムリです!

(あの場面は「信者」が四季の言ったことに従っただけ──とも受け取れる。でも、その支配力こそ「神の力」だよなぁ。もしも彼女が影武者だったら、本物は どれだけの力を持っているのか……)

暗号の意味

数字が 6 桁の暗号は、アッサリしすぎというかコジツケに近い終わり方でした。たしかに、個人が日記に書くことだから、そんなに複雑なわけもない。

しかし、それこそ森ミステリィの罠にハマっています。暗号に注目させることで、文脈の意味から目をそらせている。もう一度、暗号の記述を見てみましょう。

661661 からメッセージあり。神様とどっちが偉い?

作中の答えが正解だとすると、神様と比較するような対象に なり得るだろうか? 2 人の関係に ただならぬモノを感じます。

──でもまぁ、暗号の答えが「βの正体」くらいの意味かなぁ……。もうちょっとヒネリが ありそうだけれど。

世に出ても変わらず

加部谷 恵美(かべや めぐみ)と雨宮 純(あめみや じゅん)は社会人に なってしまいました。もともと彼女たちは、事件よりも大学生としての本分(ご飯・遊び・恋愛・ときどき勉強)を優先していた上に、今後は「休日探偵」ですね。

ただ、もともと「G シリーズ」は、「美(かどうか議論の余地しかない)少女(かも疑問な)探偵(でもない)」・加部谷を中心として会話を楽しむ話だから、彼女たちの立場は影響が少ないですね。


山吹 早月(やまぶき さつき)が無愛想で皮肉屋になった理由は、国枝 桃子(くにえだ ももこ)から遺伝子を分けてもらっているのでは(意味深)という会話が おもしろかった!

同じように、西之園 萌絵(にしのその もえ)の半分は犀川 創平(さいかわ そうへい)で作られている(意味深)に違いない!

おわりに

「ラッピングされた死体」と犯人(?)から、森 博嗣先生が大好きなデイヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』を思い出しました。登場人物の誰も指摘していないのは、世代が違うから──というよりも、テレビを見る人がいないからかな。


海月 及介(くらげ きゅうすけ)は前回でフェード・アウト──と思い込んでいたので、何事もなかったかのように登場して安心しました。その直後、「それは ないやろ!」と加部谷の代わりに突っ込んだ。

今回の作品は、章ごとに「○○は、」と視点を明確にしています。そのおかげで分かりやすいけれど、「誰の話なのか」が意図的に隠されている。それこそクラゲのように骨格が ありません。その点が前シリーズまでとの大きな違いです。

自分には まだ「G シリーズ」の全体像が見えてきません。今後の展開で、話の骨格が見えてくるのかな? いずれにせよ、楽しみに待ち続けます!

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