『七瀬ふたたび』
生まれつきのテレパス(人の心を読む超能力者)、火田七瀬(ひだ ななせ)が主人公の第二作目です。
「七瀬三部作」は、主人公が七瀬であることは共通なのに、一作ごとに彼女の性格や作品全体の雰囲気が異なるのが、面白いです。
一作目がどろどろした家族ドラマで、三作目がいきなり宇宙にまで大風呂敷を広げた SF でした。
一作目の七瀬はあまり特徴がない(ように努めていた)お手伝いさんだったのが、本作ではそれがどんな美人コンテストであっても、三位以下になることは滅多にない程度の美人(p.12)
であることを自覚し始めます。本格的にその容姿を「武器」として使うのは、三作目からですが。
本作は、超能力者の抹殺をもくろむ謎の暗黒組織と、七瀬たち超能力者が戦う、超能力バトル物──というと語弊がありますが、三作の中でも、とくに超能力そのものに焦点を当てた作品になっています。
ドラマ化
映像化しやすい話なのか、過去に何度もドラマ化されているようです。
ちょうど、今年・2008 年の 10 月から NHK で連続ドラマが始まります。豪華なキャストですが、「ヘニーデ姫はオレの嫁」な自分としては、柳原可奈子さんは少しイメージが違うなぁ……。柳原さんの芸風は大好きだけど。
──うん、さすがに NHK ドラマだけあって、七瀬がホステスになったり、透視能力者に覗かれたり──、というシーンはないでしょうね。七瀬は介護ヘルパーとして働く
そうです。
やっぱり、この作品はアニメ化のほうが似合う気がします。『パプリカ』が映像化できたのだから、七瀬三部作も可能なはず。
『パプリカ』 アニメ映画らしい「悪夢のパレード」の映像 : 亜細亜ノ蛾
何のために生まれてきたのか
お気楽な超能力バトル物と思いきや、七瀬にとってつらい場面ばかりが出てきます。
珍しく七瀬がほかの超能力者に出会うのですが、中には敵もいます。存在を許しておくわけにはいかないわ(p.111)
、と七瀬に決意させるほどの、超能力を悪用する男と対決する場面も生々しく、とても「スカッとする」描写ではありません。
それよりも、七瀬に好意を持っている超能力者とせっかく出会ったのに、ある理由で距離を置くことになります。その理由が、じつに切ない。その男性の言い分も七瀬の気持ちも分かるのが、つらい。
そんな過酷な経験を通して、なおも戦い続ける七瀬の疑問は、ついに答えが出ませんでした。
ひとつの大きな疑問だけが頭に残り(……)七瀬は考え続けた。
超能力者は何のために生まれてきたのか。
『七瀬ふたたび (新潮文庫)』 p.301
──いや、それは本来、答えの出ない問題ですね。「超能力者は」を外せば、自分たちも一生考え続ける問題です。
まとめ
「強いヒロイン物」には傑作が多く、七瀬シリーズもトップレベルの面白さ。
(美しい)ヒロインが苦境に立たされて、もがきながら成長する姿を見る──、という(ややサディスティックな)男性視点の需要からヒロイン物が生まれたのだと思う。しかし、本作は女性も共感して読めるのでは。という幻想(筒井作品って男性至上主義なところがあるよね)。
筒井氏が何を思って七瀬を絶世の美人にした──どころか神格化したのか不明ですが、たしかに一作で使い切るのはもったいない(それをいうなら『富豪刑事』も)。──ということで、4 作目も書いて欲しいなぁ。