バクマン。 #3 「ペンとネーム」 川口たろうとカブラペン

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『バクマン。』 3 ページ 「ペンとネーム」 (週刊少年ジャンプ 2008 年 40 号)

サイコー・真城最高(ましろ もりたか)とシュージン・高木秋人(たかぎ あきと)、それぞれの「すごさ」をお互いに認め合った、連載の第 3 回目。

原作者の大場つぐみ自身が「比較的地味な内容になると思う」と語っていたとおり、今回は「マンションの一室で男子 2 人が売れるマンガについて語っていた」だけ。比較のしようがないくらい地味。小畑健の絵でなければ、読み飛ばす人もいるだろう。

しかし、今回は熱かった──!

「おじさん」こと真城信弘(ましろ のぶひろ)──ペンネーム・川口たろう(かわぐち たろう)──の仕事場を 2 人で見に行く。字にして読むとまるで楽しくない状況なのに、なんだろう、このワクワクする感じは。

「絵が下手(へた)」でマンガ家ならぬ「博打(ばくち)打ち」の仕事場を見たところで、なんの意味があるのか……。前回のラストで急展開になったあと、一週間も過ぎれば、冷静になった読者はそう思ったことだろう。自分も思った。

しかし──今回を見て、川口たろうというマンガ家のすごさを思い知った。同時に、最低でも乗り越えなければならない壁と、マンガ家として売れる難しさを、サイコーとシュージンは目の当たりにする。ここでくじけて「夢から目が覚める」のが普通の中学生だと思うけど、2 人はそうではなかった(それだとマンガにならないし)。逆に燃えた。

それでもまだ「俺が納得できるネーム描けなきゃ組まない」とシュージンに迫るサイコーは、よっぽどの慎重派なのか意地っ張りなのか──。

バクマン。 – Wikipedia

ジャンプの人気マンガの共通点

「ジャンプマンガに足りないものは?」という議論は昔からよく聞く。「推理もの」にヒットが少なく、まったく見ないのが「料理マンガ」。ある意味では 『魔人探偵脳噛ネウロ』だけか……。

シュージンが語るように「スポ根は流行(はや)らない」し、「逆に今 スポ根で天下取ったら凄(すご)い」。しかし、しばらくは「美形な戦士がスタイリッシュに戦って勝つ」マンガばかりが並ぶだろう。

そんなジャンプの「人気マンガに ある共通点を見つけた」と語るシュージン。さて、次のマンガに共通するアイテムとは?

言われてみると「──ああ」くらいの軽い感動。しかし、この共通点を見抜くためにシュージン──つまりは作者がどれだけ分析しながら読んでいたか……。

「おじさん」が赤塚賞を取ったときのエピソードや、大量に描いたネームの量は、そのまま原作者の姿に違いない。

赤塚賞を受賞するも、売れないギャグヒーローマンガしか描けずに「死んだ」川口たろう。彼はそのあと、大場つぐみとして蘇った──と読み取ることは簡単だけど、真相は知らないほうが良いだろう。

『巨人の星』と『あしたのジョー』

今回のラスト 2 ページが最高に素晴らしい。

直前までシュージンの熱に引き寄せられたサイコーが、熱を冷ますかのようにベランダに出て、父と電話で語る。非常に静かで抑えた場面ながら、親子で話す内容がこの上なく熱い「男の世界」。

おじさんの死の真相を悟り、さらに父親からその人柄を聞くサイコー。続けて、父親からこんな言葉を問いかけられる。

「最高(もりたか) 『巨人の星』読んだか」

「えっ うん」

「じゃあ坂本龍馬の台詞(セリフ)知ってるな」

「うん」

「『あしたのジョー』は大好きだったな」

「……うん」「父さん もう言わなくていい ありがとう」

「そうか じゃ切るぞ」

ぶっきらぼうで短すぎる言葉のやりとりながら、必要なことはすべて伝えている。もしも 2 人が女性だったら、まずは「私のダンナが好きだったマンガの──」から始まって、夜通し話し続けたことだろう(偏見)。

ref.: 【2ch】ニュー速クオリティ:何で女の話って友達や彼氏や旦那が必ず出てくるの?

まとめ

マンガ内でマンガを語る──しかも同じ雑誌に載っているマンガをいじるのは、失敗のリスクが高くて面白みも少ない場合が多い。そこを、あえてやる! そして成功させたのはさすが。

高度な芸術作品であるにもかかわらず、作者への収入が少ないことで知られている、マンガ。それにもかかわらず、気軽に始める人が(日本では)非常に多いのは、不思議で面白い。同人の世界ですら「売れる」のは難しいのに──。この国では、よっぽど幼いころからの英才教育が盛んなんだろう。

サイコーとシュージンが飛び込んだマンガの世界。はたしてその第一歩はどんな踏みだしか、次回が待ち遠しい。