バクマン。 #21-3 「壁とキス」 楽しげな見吉とすねるサイコー

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『バクマン。』 21 ページ 「壁とキス」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 08 号)

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今回の感想では、すべてのページで見吉が登場している。後半でも再登場するし、見吉がこれほど出てくるのは後にも先にも無いのでは。もっと活躍する見吉を見たい。

飛び抜けた人物たちが身近にいて、見吉は肩身の狭い思いをしている。そうは見えないところが、一部の読者には不評のようだ。サイコーとシュージンのジャマをしているように見られる。見吉の良さは「普通の女の子」であることだと思う。高校生の女子として、普通の行動を見吉は取っている。

マンガに対して極端な考え方をするサイコーと、普通のカレシ・カノジョとして振る舞いたい見吉の間で、なんなくバランスを保っているシュージンは超人である。ほかの人間なら押しつぶされそうだ。

それに、毎日毎日マンガのネームを書けるなら、絶対にシュージンは単体で原作者や小説家として売れるような気もする。それを言っては終わりだが……。

携帯小説

当たらない予想が売りの自分としては、「4 人の中で最初に売れっ子になるのは見吉」と書いておこう。でもこれは、けっこう誰でも考えそうな気がする。初めはシュージンに手伝ってもらいつつも、次第に見吉の中で文才が開花して──みたいな感じ。

ケータイ小説やライトノベルといった文化にウトいので、どれくらい流行しているかは知らない。5 年後も存在するだけの力があるのだろうか。携帯電話サイトでは ともかくとして、パソコンで見られるネット上では携帯小説を軽視しているように見える。しかし、日常的に触っていた「たんなる電話機」を利用して、不特定多数に自分の作品を読んでもらえる──なんと素晴らしいことか、と思う。

自分が今やっているブログも、携帯小説も、芸術作品も、根本的には同じ欲求からできている。すなわち、「ほかの人に自分を知って欲しい」。芸術家の中には凡人から理解されることを嫌がるかもしれないが──「凡人には理解できない高尚な自分を見ろ」と言っているようにも見える。それにふさわしい人物なら良いだろう。

シロウトにせよプロにせよ、書く題材は自分の好きなもの・得意な分野を書くのが一般的だ。その意味では、シュージンが見吉に対して恋愛経験 豊富じゃないと 無理と突っ込むのは理解できる。

しかし──まず、彼女に対して彼氏が言う言葉ではない。遠回しに「浮気するな」と言っているのかと思ったが、シュージンは まったくそういう意味を込めていないようだ。それに、恋愛小説を書くためには恋愛経験が必要という理論を、バトルマンガを描く非戦闘型地球人のシュージンが語るのはジョークだろうか。

今時いない

御都合主義的に見吉が作家を目指すことに決まった、と思っていた。しかし、見吉が書きたい題材を聞くと納得できる。

たしかに、サイコーと亜豆の恋愛を近場で見ている人は、何かの形で残したいと思うだろう(なんともメタな話だが)。それだけではなく、亜豆を応援する見吉の気持ちも感じる。「亜城木夢叶」のペンネームを考えた時といい、本当に見吉は友人思いだ。

唖然とするサイコーに同調して、シュージンにベタベタする見吉をウザく見えた人も多いのでは。見方によっては、ただ単にシュージンとくっつく口実で携帯小説を始めるようにも見える。真実はそうなのかもしれない。

ただ、見吉が偉いのは、ちゃんと先に小説を書き始めていることだ。このマンガには、夢だけ語って行動は後から、という人物はいない(1 人いた気がするけど、気のせいだろう)。自分も見習おう。

女の子の気持ち

今週号の前半は、笑える場面が多い。昨日の感想でも書いた見吉がシュージンにつかみかかるシーンや、「作家になる」のコマは分かりやすいギャグ顔である。

自分のツボに入ったのは、見吉がサイコーに「女の子の気持ちも 必要じゃん」と言っている場面だ。絵の加減で、なぜか 2 人とも恥ずかしがっているように見えてしまう。なんだか、百合の花(比喩)を見ているかのようだ。このページはほかにも、L 座りをしているサイコーや、「白ドラ」(しらドラ)みたいなシュージン・むくれた見吉など、ネタのような絵が盛りだくさんである。

this is 白けズム~「白ドラ」の世界~

それより何より、この 3 人のやりとりは、「シュージンをめぐっての奪い合い」に思える。今週号はとくに、主人公はシュージンだと感じた。

何かひとつ抜け出たもの

サイコーがシュージンに出す要求は厳しい。第三者からは勝手な言いぐさに聞こえる。しかし、これはシュージンに対する期待の裏返しだ。最後には必ず満足できるネームをシュージンは描いてくるはず、とサイコーは思っているだろう。うらやましい関係だ。

それにしても──王道のバトルマンガでありながらひとつ抜けたものを入れることができれば、それだけでデビューできるだろう。それくらい、言うのは簡単だが描くのは難しい。実際にデビューしているマンガ家でも、何人ができているか……。

シュージンとサイコーが真剣な表情で語り合う中、ひとりで取り残された顔をした見吉が悲しい。仕事場では見吉の居場所がなくても当然なのだが、かわいそうに思ってしまう。今回の後半で勢いを盛り返す見吉が見られて、うれしかった。

しかし、シュージンをたぶらかす女、として見吉を見ている人も多いだろうな……。誘惑に負けるほどシュージンは弱くないし、夢をジャマするほど見吉はバカじゃない、と信じている。

コメント

  1. K2nd より:

    今回の感想、とてもうまく纏まってますね。
    文才がない&凡人には書けません。GJ!