ハンコック – 孤独ゆえに世界一強いヒーロー

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『ハンコック』 (Hancock)

Another Frank Stencil
(孤独な者が──ここにも一人)

メチャメチャ面白いアクション映画です!

主人公のジョン・ハンコック(ウィル・スミス)は超人的な力を持つ人物で、悪者を退治する。しかし、その際に少々──いや多々やり過ぎてしまうために、悪者以上に被害を出すことも多い。そのため、ハンコックは街の市民たちから嫌われている。──という話です。

いままでにもアンチ・ヒーローは何人か見ましたが、ここまで「ならず者」を前面に押し出した超人は珍しいですね。ダーク・ヒーローの代表格であるバットマンとは大違い。

しかもハンコックは、普段着まる出しで空を飛び、悪人と戦うのです。ここが新しい! ウィル・スミスの格好良さが、変なボディ・スーツで台無しになったりしないのです。──後半までは……。

最後まで「ウィル・スミス、かっけェー!」で押し通しても満足なのに、途中でサプライズが用意されていました(スパゲティのことではなく)。これには驚きましたね!

──まぁ、あのファンタジィ映画(クリックでタイトル判明)と同じ手ではありますが、不意打ちでビックリしました。

上映時間が 92 分間とコンパクトなことも好印象です。この短い時間の中に、ド派手なアクション・犯罪者たちの懺悔・愛と平和への思い・せつない終わり方──などなどが盛り込まれている。次回作を思わせる終わり方なのもニクい!

家族や恋人と一緒に、何度も観たい映画です!

ハンコックとレイ

普段着で戦うアンチ・ヒーローのハンコックが良かったですよね。あの名作『アイ・アム・レジェンド』とはまるで違うウィル・スミスの演技も見事です。どちらの英雄も、彼ひとりだけで戦う姿が美しかった。

『アイ・アム・レジェンド』 愛犬・サムに助演女優賞を : 亜細亜ノ蛾

街中から嫌われていたハンコックは、レイ・エンブリー(ジェイソン・ベイトマン)を助けたことがきっかけで、だんだんと真のヒーローを目指すことになる。王道的な展開ですよね。

ハンコックとレイとの信頼関係が芽生えていく過程も、この映画の大きな見どころです。正直に言うと、レイはうっとうしい感じですよね。でも、放っておけないタイプです。レイの奥さんもハンコックも、そうやって捕まえられたのでしょう。

考えてみれば、何もなくても・誰も望まなくても、ハンコックはレイを助けたのです。そんな人物を嫌えるなんて、よっぽど街の住民たちが冷たいのか、それとも──ハンコックがやり過ぎなのか(たぶん後者)。

あと、『ハンコック』に限らず、映画の感想を書いているサイトに言いたい事は、「情報を書きすぎ!」です。

映画の前半では、ハンコックの出生などはまるで分からない。いきなり超人が空を飛んでくる。それが良いのです! 自分は前知識を入れずにこの映画を観て、途中でハンコックの正体が分かったときには、せつなくて感動しました。

命の重さ

映画を観ていてかなり気になったのは、「ハンコックが原因で死者が出たのでは」という一点です。

劇中には「死傷者は○名」なんて場面はありませんでしたが──、明らかに誰か巻き添えを食っていますよね。とくにハンコックがケンカをして「雪が降った」場面でケガ人すら出ていなければ、奇跡です。

さらに最後の戦いでは、ビルから悪者を放り投げていました。あれは、明らかに殺していますよね。助かったとは思えない。

『ダークナイト』では、バットマンが「殺さず」を徹底しているから、ラスト・シーンが生きてくるのです。

『ダークナイト』 バットマン対ジョーカー、だけではない : 亜細亜ノ蛾

ハンコックが本当にヒーローを目指しているのであれば、悪人と言えども殺さない──を最後まで通して欲しかった。最後のバトルのように「あの極限状態ではムリだ」という意見は分かりますが、そこは脚本家と監督の仕事です。

シャーリーズ・セロンがキレイ

レイの妻であるメアリー・エンブリー(シャーリーズ・セロン)は、なかなか感想が書きにくい。

メアリーを演じたシャリーズ・セロンと言えば、『イーオン・フラックス』が良かったですね。ミラ・ジョヴォヴィッチの『ウルトラヴァイオレット』と同じように、「ヒロインがキレイで格好いいね!」で終わりそうに見せかけて、未来世界の描き方もアクションも素晴らしかった。

さて、そんなシャリーズ・セロンが、「さえない夫を支える妻」を演じているのは──なぜ? と考えていけば、あのサプライズにも驚かないかも。

でも、メアリーが「良妻賢母」以上の働きをしていない──という描き方には、非難する人も多いでしょうね。ハンコック以上に叩かれそう。

超人の条件

ハンコックは、なぜ超人なのか。その理由は、ハッキリとは描かれませんでした。劇中で語られたハンコックの生い立ちにしても、あいまいです。

しかし、彼が「超人として生きられる条件」は明かされました。せつない話ですね……。自分がハンコックだったら、ヒーローのままでいられるだろうか?

ただ──、人間として死ぬ自由を与えられていることは、ある意味では幸福でしょうね。

蛇足

今回のタイトルは、ハンコックにピッタリな名言──この世の中で一番強い人間とは、孤独で、ただ一人で立つ者なのだ!──から借りました。

イプセン格言集