『魔法少女まどか☆マギカ』 (PUELLA MAGI MADOKA MAGICA)
(これが──ヴァルプルギスの夜なのか)
第 9 話も すさまじい展開でした! 次回の第 10 話が 10 点満点で 1024 点だとすると、今回は 768 点くらいです(?)。
いままで 2 話分の感想をまとめて書いてきましたが、これからは 1 話ずつしか書けません。1 話だけでも半日がかりです。これだけ冷静に観られない作品に出会えて、とてもうれしい。
第 9 話 「そんなの、あたしが許さない」
美樹さやかが魔女と化す場面を目撃しているのに、佐倉杏子はそれを受け入れられない──。
魔女に向かって必死に問いかける杏子にも、何が起こったのかを肌で感じているはずです。ところが、心では理解できない。臨場感のある場面でした。
暁美ほむらは、「さやかが どうなったのか」を鹿目まどかに説明する。一緒に聞いていた杏子は、急に驚いたような顔をするところもリアルです。他人の言葉を耳で聞いて、ようやく実感できた。
ただ──、魔女を倒すだけなら、ほむらが時間を停止した状態で杏子がヤリで突けば──と思ってしまう。
夜中に突然現われたキュゥべえの●●な姿を見ているのに、生きてたのね
──とつぶやく まどかが怖い。中学生として──いや、ひとりの人間として許容できる範囲を超えた体験をし続けてきたので、感情がなくなりかけているのでは……。
しかし、それでも、まどかよりも魔法少女たちのほうが、もっとつらい経験を味わっている。
彼女たちを苦しめてきた元凶のキュゥべえは、ほとんどの真実が明らかになった上で、まどかが魔法少女になる──といまだに確信しています。
この宇宙のために死んでくれる気になったら、いつでも声をかけて
──と商品を宣伝する店員のように軽く話すキュゥべえには、この作品の恐ろしさがすべて詰まっている。
彼らと人間とでは、価値観が違うから起こる悲劇です。
すべては、この宇宙の寿命を延ばすためなんだ
というキュゥべえの言葉は、たぶん客観的に見れば正しい。しかし、視聴者には受け入れがたいし、当事者である魔法少女には「だましていた」としか思えません。
何万回と議論されてきた「家畜が『食べないで!』としゃべれたら肉食をやめるのか」みたいな話ですね。宇宙全体のことを考えれば犠牲もやむなし──と割り切れる人間は、ほとんどいない。
そこで──、ついつい考えてしまう。
「(元)世界の警察」の大統領に、キュゥべえは この話を持ちかけるべきなのでは? 有望な魔法少女が、効率よく量産できる。
まどかと話す時の、杏子の口調が優しい。こんなに柔らかい物腰で話す杏子は初めてです。とても新鮮に感じました。
これは、まどかとは ほぼ初対面だから──ではないでしょう。魔法少女と向かい合った時だけ、杏子はキツい言葉づかいを使っている。同じ立場にいる「戦友」として、対等に話そうとするから──だと思う(キュゥべえは例外)。
最初に さやかとやり合った時も、戦闘の被害を受けないように、杏子は まどかを守りながら戦っていました。今回の後半で悩む まどかに対しても、何でアンタが魔法少女になるわけさ
と目を覚まさせる。
杏子は、本当の優しさを知っている人ですね。
(でも、最初の戦闘で杏子はトドメを刺そうとしていた──としか見えないんだよなぁ……。ギリギリのところで外すつもりだったのだろうか。ぶつぶつ……。)
また、杏子が さやかのことを気にかける理由も良かったですね。何のために戦ってきたのかを、さやかが思い出させてくれた──。この出会いがなければ、杏子はただのバトル・マニアでしょう。
「ワルプルギスの夜」のことを、なぜ杏子は詳しく知っているのか不思議です。見滝原に襲来したことがない この魔女を、ほかの街で杏子は目撃しているのでしょうか? それとも、長く魔法少女をやっているうちに、ウワサだけを聞いたのかも。
──と、ここで別の疑問に気がつきました。
杏子は別の街からやって来たのですが──、彼女の父親がいた教会は、明らかに見滝原にあったはず(第 7 話を参照のこと)。なぜ、巴マミに縄張りを渡したのだろう? 家族の思い出が詰まった土地に いられなかったのかな……。
そんなことよりも(ええー)、杏子の変身シーンがアルティメットかわいい! 「さやかポイ捨て事件」(第 6 話)の時とはポージングが変わっています。本来であれば、変身ポーズなどは不要であるはず。
もしかしたら、さやかに見てもらうためかも……。
今回の魔女との戦いは、何もかもが悲しく切ない──。
魔女図鑑 「人魚の魔女」 SPECIAL|魔法少女まどか☆マギカ
杏子のセリフがすべて素晴らしくて、泣けます。彼女は、誰の力も借りずに(借りられずに)生きてきました。その彼女が、頼むよ神様
と祈らずには いられない。
独りぼっちは、寂しいもんな
という言葉は、もちろん、さやかに向けて話している。それだけではなく、杏子が自分自身に言っている──とも感じました。同じことを誰かに言って欲しかったに違いない。
ひとつだけ、守りたいモノを最後まで守り通せばいい
──という言葉も、ほとんど杏子の独白でしょうね。
ほむらは、そのことを誰よりも熟知しているだけに、ありがたく感じたと思います。別れのあとで、「杏子」──と さみしそうにつぶやく彼女の姿は、たいへん珍しい。冷酷に振る舞っている彼女が、まどか以外の人間を思うなんて初めてでは?
なによりも悲惨なことは、さやか──魔女は、杏子や まどかのことなんて見ていないことです。ずっと、(ヴァイオリニストしかいない)演奏を聴いている。
上条恭介(のイメージ)もまた、人魚は目に入らない。
届かない思いが充ち満ちている──。
「赤」と「青」が杏子と さやかを形作り、混ざり合う映像は美しかった。「この世」ではムリだったけれど、この 2 人の思いが溶け合うのは これからだ──と信じたい。
そして、思いを胸に秘めて戦い続ける少女は、もう 1 人いる。
おわりに
今回のキュゥべえには、心底ゾッとします。声優さんの演技力・「声の力」の恐ろしさを味わいました。
彼(ら)の理論は正しいのだろうけれど、科学者が実験用のマウスに語りかけているように聞こえる。この認識は間違っていないでしょう。
はたして、最後に愛と勇気が勝つストーリィ
として、『まど☆マギ』は終われるのでしょうかね……。
- キュゥべえ(虚淵玄):
まさか──、そんなの不可能に決まってるじゃないか
。