『第 9 地区』 (District 9)
本作品は、地球へ やって来た宇宙人と、彼らと接する人間を描いています。ジャンルで言えば「SF アクション映画」になってしまいますが、そういったカテゴライズでは くくれません。
この手の映画では、「地球外生物と人間との戦い」か「宇宙人と人間との心温まる交流」のどちらかを描写する──と相場が決まっています。ところが、『第 9 地区』は、「それ以外」の話を見事に描きました!
ぜひとも大勢の人に観て欲しい映画です!
ただし、いろんな方向へ「毒」を持った触手が伸びている作品であるため、鑑賞には心の準備をお忘れなく……。なにしろ、あのヨハネスブルクが舞台です。下のページで面白おかしく書かれている内容も、冗談は半分──もないと思う。
注目して欲しい部分は、人間の主人公──ヴィカス・ファン・デ・メルヴェ(シャールト・コプリー)が、とんでもなく性格が悪いことです。こんなに最後まで主役に感情移入も共感もできない作品は、ほかにはありません。
真の主役は、地球での名前をクリストファー・ジョンソンと名付けられたエイリアンです。ヴィカスよりも、人間らしい。演じたジェイソン・コープの姿は、本編ではいっさい見られませんが、大きな拍手を贈りましょう。
小悪党な小役人
最初のドキュメンタリィ風な映像を見ると、やっかいな存在なのはエイリアンのほうに思わされます。正義の味方は人間で、管理すべき害悪は「エビ」たちに見える。
ところが、異星人よりもタチが悪いのは人間でした。
ヴィカスは、発見したエイリアンの卵を「中絶」と称し、機器として殺傷処分する。この場面は、寒気がしました。これ以上ないくらいに、彼の本性を表している場面です。
後半はエイリアンと行動を共にして、ヴィカスにも彼らの事情が分かってくる。ストーリィからして、「エイリアンの仲間になって、彼らのために戦う」という展開になりそう。
ところが、最後までヴィカスはカスだった。
自分を助けてくれたエイリアンのため、普通なら一肌脱ぐタイミングなのに、ヴィカスは とんでもない行動に出ます。せっかくの切ない終わり方も、この主人公なら──自業自得だと思ってしまう。
彼の奥さまは、夫の帰りを待ち続けるべきなのか、違う人と幸せになるべきなのか──。
自由すぎる撮影方法
主人公は好きになれませんでしたが、彼を演じているシャールト・コプリーはすごい! なんと、ヴィカスのセリフは、すべて即興のアドリブ
とのこと……!
参考: シャールト・コプリー #略歴 – Wikipedia
もちろん、脚本はあります。しかも、メイキング映像によると、かなりキッチリと書かれているらしい。その上で、俳優たちに自由な演技をさせている。監督の頭の中で、きちんとした映画の方向性があるからこそ可能な芸当ですね。
メイキングの中でコプリーが語った、この映画の主題も素晴らしい。下の言葉は、いまだに鎖国的な意識が強い日本人には、一番の苦手な項目ですね。
自分の生活に直接 関わる存在に対して どこまでの違いを 受け入れることができるか
優しきエイリアン
この作品の中で、同胞の死を悲しむことができるのは、クリストファー・ジョンソンだけでした(ヴィカスの妻は例外)。「銃弾の中を無傷で突き進める」という主人公補正もついているし、どう考えても彼が主役です。
彼なら、3 年後にちゃんと帰ってきそう。
ジョンソンの子ども(リトル CJ)は かわいらしかった! 純真無垢であるために、メルヴェのことを「遊んでくれる良いおじさん」と思っている。──素直すぎて、ほかのエイリアンと同様、人間に だまされそうで不安ですけどね……。
リトル CJ は、ばつぐんに頭が良いし父親もしっかりしているので、まっすぐに育ってくれるかな。
それにしても──、まともな精神を持っている主要人物が「エビ 2 匹」だけって、どういう映画なんだよ!(絶賛)
「不動」の巨悪
自分のことしか考えていない人間ばかりが出てきます。誰もが誰かを利用している。エイリアンをだまして金儲けをしているギャングたちの悪行の中でも、一番おぞましいのは──「異種間の売春」でした……。
ギャングのボスであるオビサンジョ(ユージーン・クンバニワ)は、身体が不自由です。四肢をマヒしているため、自分で車いすを動かすこともできません。
彼の設定は、じつに興味深い。
なぜ彼がギャングどもを仕切れているのか、本編を見る限りでは、よく分からなかった。並外れた頭脳を持っているわけでもなく、予知能力者でもない。ギャングの二番手がその地位を乗っ取れそうなのに、オビサンジョには誰も手を出しません。
これもまた、何かの暗喩なのでしょうかね。現実世界のヨハネスブルク周辺でも彼のようなリーダがいるのか、「本当に上の人間は動かない」という意味なのかもしれません。
甲殻類よりは昆虫
本作品に出てくる人間は、差別的な意味を込めて、エイリアンのことを「エビ」と呼びます。なぜなら、「エビに似ているから」だという──。
しかし、自分には、どう見ても『ザ・フライ』のオマージュだと思いました。眼球の大きさや口のあたりなどが、ソックリです。それに、エイリアンたちは「昆虫に近い」。
クーバス大佐(デヴィッド・ジェームズ)に撃たれて、ヨタヨタと逃げるヴィカスの姿が、とくに『ザ・フライ』っぽかった。メイキングでもとくに言及されていませんでしたが、制作者側にファンがいるのでは?
ゲーム感覚でヤる
もともとはゲームの『HALO』を映画化するために、ニール・ブロムカンプ監督を起用したそうです。そのためか、随所に 3D シューティングゲーム(FPS)を思わせる場面が出てきました。
人間などの生物を撃つと肉片となって はじけ飛ぶ銃(どういう仕組み?)などは、いかにもゲームに出てくる武器です。デザインも格好良くて それっぽい。
とくに、ヴィカスが乗り込んだ(着た?)ロボットが素晴らしかった! エイリアン──というか昆虫を思わせる外装や、目に突き刺さりそうなセンサなど、微妙に気持ち悪いところが良い。
「重力銃」を思わせる武装も面白かった! いつの間にか 3D ゲームでは定番となった この武器で、敵の飛道具を集めてお返ししたり、意味もなく豚を飛ばしたりして、ゲーム・ファンには楽しすぎる映像です。
一般の人は「ポカーン」だと思うけれど……。
おわりに
制作者たちは、『第 9 地区』で何を描こうとしていたのか──を知るためには、ある程度は世界情勢について知らなければなりません。自分は「社会: 2」(5 段階・1 は留年)なので、サッパリです。
そのあたりの考察は、下のページをどうぞ:
【ネタバレ】「第9地区」をようやく観ました/ヨハネスブルグからの不敵な挑戦状 – 万来堂日記2nd
あと、「ヨハネスブルクは おそろしいところ」という認識は間違っていませんが、そればかりでも ありません。観光でも楽しめるそうです。
歩いて楽しいヨハネスブルク | ワールドカップ「退屈」日記 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
「犯罪が多い街」というなら、日本にもある。「世界のパリ」だって、気をつけないとキケンです。
96 時間 – 空気と光と家族の愛──これだけあれば親父は走れる : 亜細亜ノ蛾
つまり、やはり人間が宇宙で一番──。




