HUNTER×HUNTER No.314 「説得」 (週刊少年ジャンプ 2011 年 39 号)
嵐のあとの静けさ──といった話でした。
メルエムが静かに階段を上る場面は、つい最近『バクマン。』の感想で書いた「ウヴォーギン対クラピカ戦」の直前
を思い出します。
バクマン。 #145-2 「提供と停止」 イレギュラーとネームの元 | 亜細亜ノ蛾
あの時は、「嵐の前の静けさ」を表現していました。今回の王には本当に争う意志がなく、ただたんなる移動の場面というところが──なんだか悲しい。
大きな戦いが終わる時には、こんなふうに静かな風景が多いと思う。物事の終わりとは、そういうものですから……。
「円」の性質
現在の王が使えるようになった「円」は、あきらかにシャウアプフの能力が元になっています。「この光子からは誰も逃げられない」──という描写ですが、疑問が残りました。
ネフェルピトーやゼノが使っていた広範囲の「円」は、空間も壁も無視して、縦横無尽に広がります。それに対して王の「円」は、空中に漂う物体──言ってしまえば花粉のような存在として設定されている。
メルエムの能力は、その名前の意味(全てを照らす光)のとおりに、光の性質を持っています。そのため、光が届く範囲にしか使えないのかもしれませんね。
相手の情報を読み取れるという、「円」にしては便利すぎる能力だから、このような制約をつけたのでしょう。
たまたま今回は相手が近くの家に隠れていたから良かったものの、空気や光を遮断した空間(シェルタなど)に逃げ込まれたら、「制限時間」内に見つけられなかった。
同じ種として
つい先ほど、忠告まがいの発言をした臣下を殺す寸前だった蟻の王が、名も知らない人間の一喝を素直に聞き入れている──。
キメラアントの王が生まれてから今まで、彼のことを叱る者はいませんでした。それも当然のことです。「絶対の王」ですからね。メルエムを叱る権限を持つのは、女王だけでしょう。
そう、「王は王らしくあるべきだ」という意味を込めて、メルエムの土下座をパームは止めましたが、本来は女王の──母親の仕事です。
まるでパームが、メルエムの母親に見える──。
カレシ(ゴン)のことは許さずに反省文を書かせ、友人(キルア)は刺し殺そうとしたパームとは、とても同一人物には 見えませんね!(『HUNTER×HUNTER (21)』 p.136) あらゆる意味で、心も体も別人になっている。
あとから効く毒
なぜ、わざわざ「貧者の薔薇(ミニチュアローズ)」に「連鎖披毒者
」を生み出す(後付けの)設定をしたのでしょうか? ──と いまさらながら疑問が再浮上しました。
プフが散ったのは、王の近くにいて「被毒」したから──ではありません。王に自分の体を献上したから──でもない。
薔薇の爆心地にいたから、プフは毒を受けて──無残な状態で放置されることになったのです。
(このあとプフは、正気に戻った国民たちに踏みつぶされるか、あるいは、何も知らないまま「被害者」として手厚く埋められるのだろうなぁ……、何人もの「披毒者」を出しながら)
王の命が消える理由も、「爆撃の際に受けた毒が回る」で良いはずです。そうしないと、困ったことになる。それは何かと言うと──。
彼女の毒
近距離で直接 会話をしているパームも、当然「被毒」しているはずです。それなら、コムギも間違いなく「被毒」してしまう。そんな状況で、メルエムとコムギを会わせるでしょうか?
──これには、2 つの考えを思いつきました。
1 つは、「人間として」のパームが、王とコムギとの再会を許した場合です。この場合は、以前の感想でも書いたように、「薔薇」用の解毒剤が用意されているのだと思う。
HUNTER×HUNTER #311 「期限」 貧すれば毒する | 亜細亜ノ蛾
「淋しい深海魚(ウィンクブルー)」で王たちを見届けるのも、コムギの症状を「視」(み)るためかもしれません。
もう 1 つは、「キメラアントとして」のパームの場合です。これは──、コムギという「昨日までは知らなかったヒト」には、犠牲になってもらうのでは……。パームが泣いていたり、キルアに謝っている意味も、これで説明ができてしまいます。
──ただ、解毒剤が存在せず、「短時間の接触だったから大丈夫」でもない限り、パームも生き残れません。それすらも、ストーリィに毒として織り込み済みなのかも……。
2011-09-07T12:50:13+09:00 追記
コメント欄でも書きましたが、「貧者の薔薇」の毒がどの程度の範囲に広がるのかが不明であるため、パームの意図が読み切れません。ヒトには冷酷無比になったのか、勝算のある作戦なのか──。
解毒剤の有無や毒の効力も、コムギと王の安否も、次回あたりで「普通の作品であれば」明らかになりそうだけれど──、あっさりと「後日談」が語られそうな気がするなぁ……。
また、「王は鼻血を出していた、だから被毒しているはずだ」(『HUNTER×HUNTER (29)』 p.199)という説は、今では疑わしいと思っています。あの時点で出血するほど毒が回っていて、現在のような健康状態でいられるのでしょうかね。
──『ろくでなし BLUES』の鬼塚みたいに、血を必死に飲み込んでいたりして。
王が生き残る方法
メルエムは、本当に もう助からないのでしょうか?
いま、「王の死期が近い」という前提で話が進んでいるのは、すべてパーム 1 人の言葉によるものです。メルエム自身も、パームの「念」から知ったことを信用しきっている。
ところが、モントゥトゥユピーのように何度も せき込んだり、プフみたいに吐血したり──といった症状が、メルエムには まったく出ていません。
王ほど賢明であれば、まだ最高の身体能力で動けるうちに、自分の助かる道を何通りも考えつきそうです。凡人の自分が考えても、いくつか思い当たりました。
たとえば──、おそらくこの国で一番の情報源であるビゼフ長官を、まずは見つけ出す。
彼なら、「薔薇」についても詳しいでしょう。知らない場合でも、「電脳ページをめくらせる」(懐かしい! 「インターネットで調べる」)ことで、解毒の方法が見つかるかもしれない。
同時にピトーも探せば、「玩具修理者(ドクターブライス)」で治せるという「可能性」にも、王なら たどり着きそうです。もちろん、ピトーの能力は外科治療に近いため、解毒は できないでしょう。それ以前に、彼(女)は もういない……。
しかし、ピトーの名を出した意図は、ほかにあります。
ビゼフの情報収集・処理能力を駆使すれば、ピトーのような特質系念能力者も探し出せるのでは? 「あらゆる毒が効かない」キルアがいるのだから、「すべての毒物を解毒する」能力者くらいは、何人もいるでしょう。
最後の選択
なぜ、王は自分が生き残る道を探さないのか。
──もう、どうでも良くなったのでしょうね。
「薔薇」の毒に対する処方を探している間に症状が悪化して、何もできないまま倒れる──という最悪の事態だけは避けたかった。だから、もっとも自分がしたいことに向かって行ったのでしょう。
仮に、王は被毒していないか、あるいは、プフとユピーのおかげで毒が抜けていたとします。いつでも神に近い存在として、この世を統べる力があるとする。
その状態でもメルエムは、静かにコムギと軍儀を打つ生活を選ぶと思います。人間たちを支配する意味も意欲も、すでになくなっている。
母との再会
ナックルやウェルフィンのように、メルエムも最期の最後の瞬間、その短すぎる生涯を振り返るでしょう。自分の母親のことを思い出すかもしれませんね。
王でありながら「女王の境地」に立った今なら、母親の気持ちも理解できるはずです。名前と一緒に、母が子に伝えたかったことも察するでしょう。
たとえば、こんなふうに──。
- 女王:
- 「メルエムや…… 最後に伝えるべきことがあります……」
- メルエム:
- 「母上……」
- 女王:
- 「お前の尾に付いている針には…… どんな毒にも効く解毒剤が……(ガクッ」
- メルエム:
- 「えー(遅いよママン!)」
いかにも何か ありそうなメルエムのシッポって、けっきょく武器としてしか使いませんでしたね(しかも針として使ったのは、名もなき幼女とコムギくらい)。ザザンの「審美的転生注射(クィーンショット)」みたいな発想も、当初は あったのでは?
おわりに
王や護衛軍との別れは悲しい結末だけれど、人類にとってはハッピィ・エンドと言えるでしょう。これで「キメラアント編」も すっきり終われるな──と思いきや、
ゴンさんのことを すっかりと忘れていました……。
これまでに明かされた情報から解決策を探ると、以前に書いた「グリードアイランドを有効利用する」しか思いつきません。
HUNTER×HUNTER 29 巻 「記憶」 「視」るだけでは分からない痛み | 亜細亜ノ蛾
『幽☆遊☆白書』の浦飯幽助みたいに、髪の毛を切って寝たら元のゴンに戻った! というオチだったりして……。
- ノヴ:
- 「ぐっすり寝たら 髪の毛が元通りになったよ」
- パーム:
- 「(はぁと)」
- 読者:
- 「えー」
ついでにネテロ会長も元に──(もう寝てろ)。
コメント
はじめまして。素晴らしい考察とても面白かったです。
「ところが、モントゥトゥユピーのように何度も せき込んだり、プフのように吐血したり──といった症状が、メルエムには まったく出ていません」
この部分が気になりましたね。
見難い部分ですが、王は復活してから鼻血をだしてたはず。軍儀の碁盤が割れているのを見つけたとこだったでしょうか(手元に単行本がなく確認できず)
被毒は確定かと思います。
ハンターは面白いですよね。
毒に関しては被毒した者が死んでから体外に毒が出ると思われるのでパームは被毒していないと思います。
ですがもしコムギのそばで王が死んだ場合コムギがどうなるのか気になりますね。
どもどもー!
自分勝手な感想を書いているだけですが、
一緒に楽しんでもらえたら幸いでっす!
じつは、王の鼻血(疑惑)については、以前に書きました。
でも、もしかしたら、「頭に血が昇った」だけかもしれませんよね。
そもそも、あの場面は鼻血なのかカゲなのかは、
あいまいな気がする……。
http://asiamoth.com/mt/archives/2011-08/06_2358.php
そして今回の記事は、「せき」「吐血」とだけ書いて、
鼻血には触れていないのです(ずるい!)。
現時点では、「王に被毒の症状が出ている」とは
誰も(冨樫先生でさえも?)言えないのでは──
という意味を込めて書きました。
──とか言いながら、「血を垂れ流して横たわる王」と
「必死に起こそうとするコムギ」の姿が、
ハッキリと目に浮かびますケド……。
hun さんへ:
おっと! 素晴らしいタイミングでコメントがカブりましたね……。
No.311「期限」には、下のように書かれています。
“被毒者の肉体が 毒そのものとなり
新たな毒を放出しながら やがて死に至る”
これを読む限りでは、死ぬ前から毒を出し続けているようです。
ただ、現段階では「毒が届く範囲」も不明なので、
パームが被毒しているかどうかも分かりませんね。
ゴンさんは、グリードよりも蟻の除念師が関係してくるのではないでしょうか?
制約と誓約といっても自分で自分にかけた念ですからね。
大麦さんへ:
なるほど……!
ヒリンやビゼフ長官を生かしておいたのは、
そのための伏線ですか!
ただ、ゴンの念が増加したのは
「自分自身に念をかけた」というよりも、
「ムリヤリに引き出した」感じがします。
たとえるなら、
クラピカの「エンペラータイム」を除念するようなもので、
不可能ではないかと……。
ビゼフ「じつは私は 相手の肉体年齢を操作する 念能力者だ」
(えー)
初めまして。毎週読み応えのある考察、面白く読ませていただきました。
今週、王が自分の生をあまりにもあっさり諦めていたのは、私も気になりました。
>その状態でもメルエムは、静かにコムギと軍儀を打つ生活を選ぶと思います。人間たちを支配する意味も意欲も、すでになくなっている。
本当にそうでしょうか。
私は、「ほんの少し…だったと思う」のくだりに、何らかの未練が見てとれるように思うのです。
さらに「今の余なら…神とは言わぬまでも、世界を…」と続く独白は、王が世界をどうにかしたかったことを表しているのではないでしょうか。
おそらくは、コムギのため、コムギのような人間のために。
王が世界をどうしたかったのか、具体的なことは語られないでしょうが、王として何を成し遂げることもできずに終わるのは無念だと思います。
ですからなおのこと不思議だったのです。なぜそんなに諦めが早いのだろうと。
けれど、コムギに会えないまま力尽きるという最悪の事態を忌避した…という解釈に膝を打ちました。
王にとってギリギリの選択だったことを思うと、胸が痛みます。
あるいは、忠臣を2人失ったことも心折れる理由のひとつにはなったでしょうか。
瞬間移動にも近い速度で移動できる王が、ゆっくり歩いてビゼフ私庭に向かったのは、その辺りの心の整理をつけたかったからかもしれませんね。
HAR さんへ:
初めまして!
楽しんでいただけたようで、ありがたいです!
「絶対的に安全な位置にいる第三者」である
読者から見ると、
何が何でも生き残って、それからコムギと軍儀をする
──という手段を王が選ばないことには、
疑問が残りますよね。
いまのメルエムなら、巧妙な質問と「円」を使えば、
パクノダのようにコムギの情報を引き出せたはずです。
同様に、解毒剤の有無くらいは確認できたでしょう。
(「コムギがいるのは○○か?」などと質問する)
それでもメルエムは、コムギとの再会を優先した。
そのことの意味を考えて、感想を書いています。