HUNTER×HUNTER #324 「執事」 友がいる向こうへ・届かない声

シェアする

HUNTER×HUNTER No.324 「執事」 (週刊少年ジャンプ 2011 年 49 号)

Big horns
butler よりは──battler が近い)

ある意味では、『DEATH NOTE』を思わせる話でした。あの作品のように、たくさんのルールが追加されている。

DEATH NOTE (13)』には、連載前の読み切りが収録されています。読み切り版には、世界観を打ち壊しにするアイテムが出てきました。連載でも登場するのではないか──と不安に思った日々が懐かしい。

架空の世界では、神(作者)がルールを決める。神の さじ加減一つで、その世界は唯一無二の存在にもなるし、あるいはガラクタと化す。ときどき、神よりも偉い編集者がいたりしますけどね……。

DEATH NOTE』は、いくつもの「後付けルール」が追加されたけれど、根本的な決まりごとだけは変わらなかった。だから良かったのです。

さて、『HUNTER×HUNTER』は──。

愛の密室

問題: 愛する妹が密室に閉じ込められて、厳重に監視されている。この状況から、アルカを連れて脱出するには?

──この難問のシンプルで残酷な「解答」を見て、ものすごく悔しかった! 前回までに公開された情報によって、十分に脱出する方法が思いつけたはずなのです。シルバと妻に「おねだり」しない理由も、ギリギリ当てられた。

同じようなことは、『HUNTER×HUNTER (10)』の密室でも感じました。あの時も、ヒントが与えられていたのに、まったく考えつかなかったなぁ。くやしすぎたから、ネタにしました。

『ハンター×ハンター』 10 巻の密室にジャンプキャラが挑む! | 亜細亜ノ蛾

そもそも、アルカの能力では、あの部屋からゴンを治せなかった。それをシルバが知っていれば、キルアを連れて行くことは なかったでしょうね。

この直すルールも「後付け設定」ではあるけれど、上手な味付けです。この部屋で「お願い」して終わり! ──よりも、何倍も面白くなっている。

それにしても、「離れた場所にいる母親を人質にする」なんて、冨樫先生にしか思いつけませんね! さすが──と思ったら、20 年前の「週刊少年ジャンプ」で描かれていました。

家庭の事情

前回のイルミにも驚いたけれど、今回のミルキもビックリです。2 人とも、ちゃんとキルアの気持ちを理解している。

──まぁ、理解した上で、他人の命をチリ紙のように使い捨てするから、余計にタチが悪いけれど。実験して 確認済みなどと、サラッと言っている。

ミルキに対して怒っているシルバが、なんだか面白い。登場のたびに「普通の とーちゃん」っぽい印象になります。この格好も、じつはケン・マスターズのコスプレだったりして。

かわいい息子たちは 2 人も家出するし(キルア・カルト)、2 人はヒキコモリになった(アルカ・ミルキ)。おまけに、昔は同じ和装が趣味だった奥さまも、なぜか毎日ひとり仮装パーティを開いている──。

ということで、家業を継いでくれそうなイルミひとりに、オヤジの愛情をコッテリと そそぐシルバを想像すると、笑え──いや、泣けるぜ……。

イルミとヒソカは

キルアの動向をイルミが知っていたのは、何らかの方法で監視しているのでは──と前回の感想で書きました。

HUNTER×HUNTER #323 「依頼」 たびたび道連れ 情はなさげ | 亜細亜ノ蛾

──そうではなく、シルバがイルミに報告したからでしょうね。キルアから久しぶりの電話に喜んで、速攻で連絡したに違いない!

イルミも、「(うわ……オヤジからの電話、テンション高すぎ?)」と思っていたりして。

普通に読めば、イルミ・ヒソカの「悪だくみコンビ」が乗った飛行船は、キルアたちと すれ違いになりそうです。──が、シルバとイルミが連絡していると考えれば、それは ありえません。

もしかして、今回・324 話よりも、前回・ 323 話は あとの時間軸を描いているのでは? 同じ飛行船に、キルアやツボネが乗っているのかもしれません。

ところで──、前回の感想で書き忘れたけれど、1 ページ目の一番下に、ジンらしき人影が見えます。なんとなく、イルミとヒソカの会話を聞いているようにも見える。あとから つながってきたら、楽しいぜ!

父の愛・母の愛

こうやって(勝手な妄想を)考えてみると、ミルキが家に引きこもっていることを、どうしてシルバは許しているのか、よく分かりますね。

──さみしい、からさ……。

たぶん、ナニカへのお願いが「父親を──」だったら、ゾルディック家を守るために、シルバは犠牲になったと思います。そのまま、兄と妹を閉じ込めたでしょう。

では、「ミルキを──」ならば?

母親は、キルアとアルカ・カルトは溺愛しているけれど──、ミルキとは会話をしたことがない。たまたま その場面がないだけなのか、それとも──。

見るからに甘くない

ツボネの名前は、「お局様(おつぼねさま)」から来ているのかな。『天空の城ラピュタ』に出てきそうですよね。得意のセリフは、

40 秒で死滅しな!

──で決まりです。

そう言えば、下の感想で書いたネタが頭に残っていたから、ツボネへの「おねだり」は「小指」かと思ってドキッとしました。

HUNTER×HUNTER #322 「兄妹」 ブラック・オア・ホワイト | 亜細亜ノ蛾

女の戦い

一方のアマネは、西村キヌ先生が描いた「いぶき」っぽい。目つきが厳しいけれど、丸っこい鼻が愛らしいですね。

(まったく関係ないけれど、記事にも書いた「西村キヌコレクション 不知火 舞」のフィギュアを色違いで 2 体も購入して、両方ともオカンに捨てられた思い出が、ジンワリと脳裏に蘇りました……。舞さん……)

いかにも強そうなアマネに対して、おそらく実力で大きく劣るカナリアは、まったく物怖じしていません。すでに命を失う覚悟ができているからです。彼女もまた、成長している。

懐かしいゴトーに対して、アルカは 「女の子」とキルアは言っています。ハッキリと言っているわりには、「女の子」の部分が括弧付きなんですよね。

やっぱり──本当は男の娘なのでは……。

逆・神経衰弱

今回は、登場人物が ものすごく多かった! それでも、「キャラがカブった」りしていない。それどころか、同じマンガに出ているとは思えないくらい、生まれ・育ち・人種、何もかも違う。

長期連載マンガは、「人大杉」になることが宿命です。しかし、ひとり(ひと組)で描いていると、どうしても似たような人物になってくる。初期の登場人物は思い入れが深いため、だんだんと「○○の劣化コピー」が多くなります。

しかし、『HUNTER×HUNTER』は違う。

HUNTER×HUNTER (4)』の 131 ページをご覧ください。ボドロに向かってネテロ会長は、キャラかぶってんな コイツと言って(思って)います。

──そんなこと読者の誰も考えてねェーーーッ! いかに「キャラかぶり」を作者が嫌っているか、よく分かる一コマです。人類史上、これほど人物を描き分けられた人間は、ほかに存在しないのでは──と思いたくなる。

また、前回や今回のラストでは、キルアの表情は「無理に笑っている」ことが一目で分かります。今回のナデナデする場面やチューしてもらう時は、やわらいだ顔になっている。微妙なミリ単位の違いですね。

ところが、ツボネ先生の鼻は、モラウとソックリです。前からも横からも、どこから見ても似ている。もしかして、親子なのでは?

──それを言いだしたら、キルア以外にも鼻が「く」の字の人物は多いけれど。

あとは、アップになった時に、パリストンとシャウアプフが似て見える。「パリストンはプフの分身説」を唱えたくなりますが、あり得ないでしょう。両者は性格も まったく違うし。

「ナニカ」の基準

黒目の時の コイツを 「ナニカ」って 呼んでる──とキルアは父親に語りました。ところが、ツボネに「おねだり」した時の妹を、キルアは「ナニカ」と呼んでいます。

──これは矛盾しているのでは?

おそらく、「ナニカ」がアルカを操っている──というイメージでキルアは考えているのでしょう。「おねだり」をしている時の彼女と、普段のアルカとは、あきらかに別人に見えます。

ただ、前回の後半や今回の冒頭を見ると、普通に「かわいい妹」としてアルカはキルアに甘えている。しかも、「キルア」ではなく、「お兄ちゃん」と呼んでいます。

本名を呼ばない限りは「おねだり」状態ではない──という説を、前回のコメントでいただきました(感謝!)。自分も納得しましたが、あっさりとキルアは「お願い」できている。

最新型パソコンの「尻ぬぐい」が、「死んだふりごっこ」「しりとり」「ナデナデ」で済むところも、妙に軽すぎます。うーん、キルアだけは特別なのかも。

「命令」の意味

「お願い」は 出来なくても 「命令」は 出来る──とは、どういう意味なのでしょうか。

もしも文字どおりに、ナニカに「命令」さえすれば なんでも願いが叶うのであれば──台なしになる。「おねだり」すら不要だったら、ここ数話分が無意味です。さすがに、それは ないでしょうね。

あせっているキルアの表情から考えて、このタイミングでツボネにアルカが「おねだり」するのは、予想外だったに違いありません。だから、「命令」は最後の手段だと思う。

命の選択を

ゴンの件が一段落ついたら、アルカの「おねだり」をキルアが一回 聞いて、そのまま遠くへ離れれば、ほかの被害者は出なくなります。

ただし、キルアが亡くなった場合は、どうしても多くの犠牲者が出る。そのことに目をつむれるほど、キルアは非情になれないはず。また、ツボネが先にやってしまった以上、作者の性格から考えて、同じことは描かないでしょうね。それでは──、

どうやってアルカを「助ける」のだろう?

No.322 「兄妹」の時点で、自分なりの「ナニカ対策」を書きました。でも、その前に、ゴンを治した代償を払う必要がある──。そちらのほうが、超難問です。

今回、キルアの「お願い」で実現したのは、ホッペにチューでした。それにしては、ツボネは痛い「尻ぬぐい」をしている。さらには、母親の命と爪とでは、まったく釣り合っていない。

つまり、「選択式のお願い」の場合は、「お願い」の重さを合計した上で、叶えた分を考慮した「尻ぬぐい」だけが必要だと見ました。

そこから考えたのは、ゴンが眠る病室を完全な密室にして、次の「お願い」をする──というアイデアです。ちょっと(かなり?)無理があるかなぁ……。

  1. 3 秒以内にペロペロキャンディを出して!
  2. できなければ、3 秒以内に(以下省略)
  3. それがダメなら、ゴンを元通りにして!

幼いころ助けた鳥のように、いつか兄妹そろって羽ばたける日が来るのだろうか──。

コメント

  1. クロスケ より:

    upお疲れ様です!
    ゾルディック家も本当に個性的で、バクマンで言えば「シリアスな笑い」が生まれてますよね。シルバは寂しがり屋さんだったんですねw
    ものの見事に前回のおねだりをするときは本名説が外れました!
    いやしかし悔しいという気持ちより、単行本でなくて、週刊連載だからこそ先が見えない状態で1話1話をじっくり読める、というの喜びの方が大きかったです。
    既成のルール(あとで明かされるものはたくさんあるようだけれど)を使って、どのようにして目的を達成するか、というのはDEATHNOTEに似ていますね。
    ただ、まだいまいちアルカの能力が掴み切れないですね。今回新たに「命令」というタームも出てきましたし、どういうことなんだろう?と想像して、次回までの楽しみにします。

  2. asiamoth より:

    クロスケさんへ:
    そうそう、この先が見えない感じが楽しいですよね!
    たぶん、作者も同じように「ライブ感覚」を味わっているのでは? それで今のところ致命的なミスが なさそうなので、すごいなー。
    「グリードアイランド編」のラストみたいに、何週も前から仕込みが入っているかもしれませんね。今回のルール追加が、ものすごくアヤシイ……。

  3. ペロテロ より:

    投稿お疲れ様です。
    既存のルールで先を予想するの楽しいですよね。「命令」なんて新要素はさすがに予想できませんが。
    「おねだりの重さ」に関して思いついたのですが、それはアルカの主観で決まるのではないでしょうか。
    「キルアとのしりとり」を100だとすると、「ツボネの小指の爪」は10の重さしかないみたいな。
    それならば「新型パソコン」と「キルアへのおねだり」の釣り合い方、「キルアへのチュー」と「ツボネへのおねだり」の釣り合い方が見えてくると思います。
    記事の中でおっしゃっていましたが、やはりアルカにとって「キルアは特別」だと考えると解決しちゃいそうな感じがします。

  4. asiamoth より:

    ペロテロさんへ:
    なるほど! 「おねだり」と「お願い」の重さは、相手によって変わると考えたほうが自然ですね。
    自分で「キルアは特別かも」と書いておいて、その可能性を忘れるところが、このブログでは「よくあること」でっす!
    キルアへの「チュー」の重要度は、執事の爪をはがす痛みに匹敵する──と仮定すると、逆に「ドーデモイーそのへんの通行人」に「ゴンを治して!」と言わせれば良いのかも!

  5. 永空 より:

    アルカがナニカになるのは、アルカがお願いを聞く場合で、アルカが誰かにお願いするときはアルカのままだと思いますよ。
    前回までの話を読み返してもそうなっているはずです。
    「命令」はさらにリスキーかもしくは条件が重ならないと使用できないんでしょうね。
    イルミはヒソカ嘘発見器でキルアの嘘を見破ろうとしていますが、ひとつだけ失念しているところがありますよね。
    それは、ヒソカがキルアとはまた別の意味でゴンをあのままでは放っておけないということです。
    ヒソカのことだからキルアの嘘を見破ってもあえて便乗してキルアに協力する可能性もありそうだなと。

  6. asiamoth より:

    永空さんへ:
    そうか、ゴンを元どおりにしたいのは、ヒソカも同じですよね。
    ただ、ヒソカはこまかいルールまで知らないわけで、そのあたりで食い違いが起こりそう。それで 2 人が戦う展開になっても おもしろい!
    ──ヒソカはツボネに瞬殺されたりして。