『ジョジョリオン』 volume 1 「ようこそ 杜王町へ」
荒木飛呂彦先生の新作は、M 県 S 市 杜王町を舞台にして始まりました!
そう、『ジョジョの奇妙な冒険』の第 4 部と同じ町名です。しかし、登場する人物は まったく違っている。そもそも、第 4 部と同じ世界なのかどうかも不明です──。
なぜ『ジョジョリオン』は日本が舞台で、前作・『スティール・ボール・ラン』(『SBR』)の連載終了直後に描かれたのか? その答えは第 1 話を読めば すぐに分かります。
第 1 話が収録されたのは「ウルトラジャンプ」 2011 年 6 月号(2011 年 5 月 19 日発売)ということで、作者としては一刻も早く作品という形にしたかったのでしょうね。ネームは「あの直後」に書いたはずです。
本巻は物語の最初ということで、何もかもが謎に包まれている。表紙に描かれている「水兵のような格好をした主人公」の名前すら不明です。この「主人公は何者なのか?」という謎で読者を引っ張っていく。
そして、多くの読者の「よく知っている人物の名前」が出てきました──。
Yahoo! ショッピング: 荒木 飛呂彦 ジョジョリオン 1
Reviewer: あじもす @asiamoth,
#001 ようこそ 杜王町へ
物語の解説と進行役は、女子大生の広瀬康穂(ひろせ やすほ)が担当です。第 4 部の広瀬康一(ひろせ こういち)には 2 歳年上の姉がいたけれど、彼女の名前は綾那(あやね)でした。彼女と康穂とは無関係のようですね。
たんなる「一般人視点の象徴」だと思っていた康一は、みるみるうちに主役級にまで成長したため、康穂もパンピーで終わるとは思えません。終わらせるには もったいないキャラなんですよね。
広瀬康穂は、良い意味で荒木飛呂彦キャラっぽくない。
状況判断の能力に優れていたり、カレシよりも度胸があったり(ついでに胸囲もある)──という点では歴代ジョジョ・ガールたちと同じだけれど、康穂の口調は「普通の女の子」です。
おまけに康穂は、なんでも すぐにスマートフォンで撮影しようとする。その一般人に ありがちな野次馬根性のおかげで、「写真にしか写らない透明な玉」の存在が分かりました。
康穂のカレシは東方常秀(ひがしかた じょうしゅう)という。これまた第 4 部の東方仗助(ひがしかた じょうすけ)と似た名前です。しかし、性格は まったく違う。
常秀のほうから、どう見ても 1 話で消えていくような雑魚キャラ臭が漂ってきます。しかし、彼に勇ましく常秀に つかみかかる主人公は、思ったよりも腕力が なかった。なんだか どっちもどっちのような……。
謎だらけの第 1 話で重要なキーワードは、3 月 11 日の 大震災
(!)によって隆起した「壁の目
」と、「これは「呪い」を解く 物語
」という康穂の言葉です。
主人公(たち)が能力を身につけたことと、「壁の目」の出現とは つながっていそう。能力そのものが「呪い」という印象だけれど、それを「解いた」あとは何が起こるのだろうか?
#002 ソフト& ウェット その 1
独特な笑いの感覚が荒木作品の特徴です。なんというか、ときどき読者を置いてきぼりにして、上空 数百メートルの高みから爆撃するようなギャグが出てきたりする。
ところが本作品では、積極的に「ベタな笑い」を取り入れています。主人公がごま蜜団子
を食べる場面では、「天丼」(かぶせ)というテクニックを使っている。
笑える要素と言えば、主人公のオチャメな性格も楽しい。
でも、この作者のことだから、主人公の「オレェ
」という口癖や「前歯の すき間」なども、いつかは消える可能性がある。『SBR』のジャイロ・ツェペリって、最初は「ニョホホ」って笑っていたよなぁ……。
主人公は「ベッドの使い方も忘れるほどの記憶喪失」だが、不思議と動植物や昆虫のことは知っている。この設定も 1 巻の時点でムリが見えますよね。2×2 の「タマ」があった
という身体的特徴も、なんだかウヤムヤになりそう。
一番笑ったのは「あたって る
」です! これは「週刊少年ジャンプ」で伝説となった(そして作者は帰ってこなかった)『タカヤ』シリーズ(苦笑)の「あててんのよ」に対する荒木先生からの返答なのかもしれません。たぶん、違う。
当たっていることに気がついた康穂は、グンバツに良い反応をしています! さすがに大学生だけあって、慣れた感じがしますね。そんなに嫌がっていないところがグーでした!
──とシモネタな お笑いになっているけれど、けっこう重要な場面だと思う。「この世界で 他には誰も 知らない
」なんて、ものすごく心細い状況です。頼れる人は康穂だけ──。
主人公と康穂の物悲しい表情が印象的でした。
笑える要素のほかに、なるべく分かりやすく描こうとしている努力も、本作品の特徴だと思う。たとえば、登場人物を「アイコン」で示しています。
このアイコンは、以前から『バクマン。』で よく見る手法です。元祖は誰なんだろう? 源流を たどっていくと、やっぱりマンガの神様・手塚治虫氏なのかな。
警官から「何か」を奪う表現がグロテスクだった。検索してはダメなキーワード筆頭の「蓮コラ」みたい。「水漏れ」に康穂が気付いていないから、おなじみのスタンドなのでしょう。
この世界で「能力者」に なれる条件が「歯形」だとすると、東方常秀も その 1 人になりそうですが、あきらかに主人公の敵だよなぁ……。
なんと! 主人公は吉良吉影(きら よしかげ)でした! やはり本作品の舞台は第 4 部とは異なる世界なのか!?
──と この時点では思っていました。
そう言えば、第 4 部の惨劇が吉良吉影の犯行と知る人間は、ごくわずかです。だから康穂が無反応なのは当然ですね。
ジョースケ
という康穂が考えたニックネームは、じつは主人公の名前と近い気がする。何と言っても『ジョジョ』シリーズなのだから、名字と名前には「ジョ・ジョ」が入っていて欲しい。
#003 ソフト& ウェット その 2
『ジョジョリオン』はサービス精神が旺盛ですね! そこかしこに遊び心が隠されている。
たとえば、帽子屋の名前は「SBR
」で「1891
」という年号が入ってます。前作・『SBR』のレースは 1890 年の 9 月 25日・午前 10 時に始まりました。その 1 年後という点が意味深ですね。
あとは、マンションの部屋の壁に掛けてある「モナリザの絵」も、第 4 部のラスト付近を思い出しました。最近では「モナリザのモデルは荒木先生説」まで浮上して、一段と笑えてくる。
切った爪を集めてあるのは、あきらかに「第 4 部の吉良吉影」の趣味だけれど、2005 年まで「彼」が生きていたわけがない。
康穂の反応からすると、アルバムに写っているのは「女性の手」のコレクションか──と思いきや、言ってしまえば「普通の S&M 写真」でした。「汚らわしい
」と怒りをぶつける康穂は、意外とウブな感じですね。
これまた あとあとの展開を考えると、かなり謎の写真です。撮った人物は上の階にいる「男」なのか、それとも別の人物なのか──。
#004 ソフト& ウェット その 3
『ジョジョリオン』の裏テーマは「セクシャル」(性的)だと思っています。
第 1 話の冒頭では、いきなり読者のほうへ お尻を向けたポーズで康穂が登場する。まるで『さよなら絶望先生』の糸色倫(いとしき りん)みたいです。
前回の第 3 話では、いきなり裸の女性が出てきてビックリしました。露出度だけを見れば『To LOVEる』と良い勝負をしそう。
今回の冒頭でも、会話が良い味を出している女性 2 人は、必要以上に くっついている。もしかして──と思わせる描写です。
主人公のスタンド(?)・「ソフト& ウェット
」は、日本語名を「柔らかくて そして濡れている
」という。プリンスの曲と同じ名前の能力もまた、エロティックな響きです。
上の階にいる「男」が吉良吉影なのだろうか? それにしては、かなり回りくどい能力で応用が利かない。どうも「最大の強敵」とか「最後の敵」といった感じがしません。
一方、目の前に見知らぬ女性が裸でいても冷静な主人公の能力は、無生物にも効果が あります。これまでの主人公たちと同様に、無限の可能性を秘めた能力ですね。「奪う」対象に制限は ないのかな?
#005 ソフト& ウェット その 4
用意されていたノコギリは、あきらかに映画・『SAW』を意識しています。「切り落とせばぁ
」という口調に腹が立つ! 置いていった人間は陰湿かつ陽気な性格のようです。
ソウ (SAW) – この一作から映画史の新しい時代が始まる | 亜細亜ノ蛾
それだけ「いい性格」をした人物だから、当然のようにベランダから逃げることも想定していた。これだけ用意周到に準備ができたのなら、もっと効率よく殺傷力のある罠も仕掛けられたはず。主人公を苦しめることも目的なのでしょうか。
主人公の記憶に浮かんだ男は、かなり重要な人物だと見ました。「壁の目」の近くにいるところから、この男が主人公を記憶喪失にしたのでは?
そんな疑問を考える間もなく、女性が取った行動には驚かされました! ただ、誰も彼女を責められない。生きた心地もせずに、3 日間も浴室に裸で閉じ込められていたのだから。
──と思ったけれど、その状況もムチャですよね。それに電話のあとの態度からして、この女性も「善人」とは言えない感じがする。上の男とグルなのかも。
こんな事態に陥っても康穂に助けを求めず、彼女を逃がそうとする。これは『ジョジョ』シリーズの主人公らしい正義感です! 前歯以外は格好いい。
それに対して、ようやく姿を現わした「吉良吉影」は、どう見ても──三下としか思えません。スタンドも虫みたいで弱そう。たんなる変質者なのかもしれませんね。そういう意味では、あの吉良も同じだけれど。