『HUNTER×HUNTER(ハンター×ハンター)』 No.5 「ジン・フリークス」
5 巻の後半は、目まぐるしく状況が変化します。そのため、過酷な状況に気がつかない人も多いでしょうね。キルアがどんな状態だったか、もう一度よく思い返してみよう。
マンガや小説・映画など創作の世界では、時間をかけて描写するほど「これは すごい状況だ!」──と読者が思う傾向にある。探偵小説で長々と「謎の解明編」が描かれたり、戦闘中に敵がベラベラと必殺技の解説を始める理由です。
冨樫先生は、そんな小手先のテクニックで引き延ばしたりしない。──本当のところは、飽きっぽい性格だからかもしれないけれど。
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Reviewer: あじもす @asiamoth,
No.040 「ゾルディック家 1」
「友だちなのに試されるのは変だ」というゴンの気持ちは よく分かります。しかし、「だから侵入者で良い」という理屈は おかしい。そもそも試しているのはキルアではなく面識のない家族なのだから、侵入者のほうが警戒される。
ただ、そういった「一般常識」は通用しない世界へ、すでに足を踏み入れています。そんなムチャには、ムチャクチャで対応することがゴンの信条ですね。ゼブロにカギを要求するゴンの無言の威圧感が すさまじかった。
雇い主の家族に「友だちがいない」と言い切るなんて、やっぱり執事も普通の感覚ではない。
執事の対応は、完全にマニュアル化されているようです。すべての会話が録音されているに違いない。家の人間を危険にさらす可能性は、徹底的に検証されているでしょうね。
電話をかける前からブチ切れ寸前だったゴンが、電話をかけ直して怒鳴る瞬間までは、冷静に怒りを貯めている点に注目です。これがレオリアだったら頭に血が上りすぎて、リダイアルの操作すらできなかったでしょうね。電話を壊していたはず。
ゴンが無言で腹を立てている時には、怒ることが商売のようなレオリオでさえ、「キレてる キレてる
」(なんで 2 回言うねん!)と解説するしかなかった。「1 度言いだしたら聞かないランキング」で言えば、ゴンが毎週トップですからね。
ゼブロの決意が良かった! おそらく、怒りにまかせて「侵入者の門から入る」とゴンが言い張ったら、本当にゼブロは一緒について行ったでしょう。たとえその結果、命を落とすことになっても──。
もちろんゴンの熱意に押されての発言だけれど、キルアに友だちができたことを、本心からゼブロは喜んでいるのだと思う。「キルア坊ちゃん」と「ゾルディック家」に対する差を感じます。
その印象の差は、読者も同じですね。「不気味な暗殺者一家」に対するイメージと「ギタラクル」は完全に一致する。
ゼブロの気持ちをくんで、自分の怒りを収めたゴンも素晴らしかった。「素直な人間」は、時として「自分の感情に素直」なだけだったりするけれど、ゴンは他人を思いやれる。
ミケを一目見た時から汗だくになるほどゴンが恐れているのは、野生動物と長くふれあってきた彼ならではの警戒心です。くじら島にいるキツネグマ・コンも かなり強いと思うけれど、ミケは違う次元の生き物として目に映ったはず。
動物に好かれるゴンですら、ミケとは仲良くなれない。
──というか、どう見ても狩猟犬
という大きさじゃないよなぁ……。人語を解する「魔獣」がいる世界だから、「犬」の範囲を超えた種族なのかも。
使用人たちが住んでいる家は、まるで冗談のような環境です。片方 20 キロ
もあるスリッパや湯飲みなんて、どんな材質で作られているんだよ……。
このような重量級の家に住んでいるスポーツ選手は、単位を一桁くらい落とせば、実際にいそうな気がする。でも、客人は困るでしょうね。それに、リラックスする時間がなければ、体に負担が掛かるだけで良くないかな。
一昔前のバトルマンガであれば、ここで 2-3 話くらい使って「修行編」が描かれそうだけれど、数ページで終わりました。けっきょくは試される道を選んだとはいえ、ゼブロの粋(いき)な計らいのおかげで、気持ちよく通過できそうです。
粋と言えば、突然押しかけてきて寝泊まりすることを、「世話に なるぜ !!
」の ひと言で言い切るレオリオも格好いい。十代の風格とは思えませんね! どんな幼年・少年時代を歩んできたんだろう。
No.041 「ゾルディック家 2」
興味深いことに、3 人の中で一番の力持ちはレオリオのようです。「口だけくん」じゃなかったのか。将来は大物になりそうですね──(遠い目)。
きゃしゃな見た目のクラピカまでクリアしたことは意外です。そう言えば、第 2 次試験の後半で巨大な豚を運べたはずだから、元から そこそこの腕力はあったのかな。服の下はムキムキなのかもしれない。
ゼブロたち使用人ですら、常人をはるかに超えた筋力の持ち主でした。今度は 10 歳くらいの執事見習いが、(プロの?)賞金首ハンターと 100 人の子分を全滅させたという──。
なんだか雲行きが怪しくなってきました。このままインフレ街道をまっしぐらに突き進むのか──と不安になってくる。
ファンキィな執事見習いは、ずっと この場所に 1 人で門番をしているのでしょうか。望んでいない客人が来ることなんて、何年かに 1 度しかないはずです。たぶん、3 年前の襲撃からゴンたちが来るまで、何も仕事が なかったのでは?
敷地内に足を踏み入れた者を、ただただ執事は機械的に対処しているだけ──。そう見えたのは間違いだった。
状況はハンゾー戦と似ているけれど、クラピカとレオリオは動かない ゴンが意地を張る気持ちが分かるからです。それに、見習いの女の子が好きで殴っている──とは考えていないからでしょう。
あくまでもゴンは まっすぐに進もうとする。その姿は痛々しくも まぶしくて、とても見ていられない輝きです。
急に現われた女性(?) 2 人は衝撃的だった!
顔に包帯を巻いているのはキルアが刺したからで、損傷した目の代わりがカメラ・アイなのかな。──と この時は思っていました。いつか真相が明かされるのでしょうか。
着物を着た子の正確な情報も、早く描いて欲しいですね。とくに性別をハッキリして欲しい! ──けれど、「あいまいなほうが良い」という需要も多そう。
No.042 「ゾルディック家 3」
執事見習い・カナリアとキルアとの会話が悲しい。3 年前の話だから、キルアは 8 歳くらいですね。お互いに遊びたい時期なのに、冷たい関係でしかない。
まったくキルアには悪意がないけれど、木の「上にいる」点も象徴的です。「雇い主」と「使用人」との壁が 2 人の間に そびえ立っている──。
いくらでも「お涙ちょうだい話」として ふくらみそうなのに、扉絵的な 1 枚絵で済ませてしまう。そのセンスにも脱帽するばかりです。
ついに登場した 2 人目の「兄貴」ことミルキは──、ほかの きょうだいとは印象がまるで違う。本当にゾルディック家の一員なのだろうか? ──という疑惑が湧いてきました。
とくに、「中央で分けている髪型」と「片方だけはみ出しているシャツの着方」・「目の細さ」が気になる……!(第 6 巻を参照のこと)
多くのファンにとっては、ミルキの登場よりも、キルアの格好のほうが注目でしょうね。前回のラストでは「イメージ映像」かと思ったら、本当に拷問されていた。
まるで『DEATH NOTE』の一場面みたいです。やはり この作品のヒロインはキルアなのか……!
さて、ゴンたちが試しの門を開けられるまでに、2 週間は かかっていました。その間、ずっとキルアは拘束されていたと思うと、想像を絶するな……。
イルミやミルキはもちろん、ゼノも「楽しんで殺しで金儲けをしている」と この話の時点では理解しました。なにしろ「一日一殺
」なんて書いている。
そのわりにゼノは、キルアだけではなくミルキに対しても甘いように見えます。ミルキは機械を使った暗殺術に優れている──わけでもなさそうだし。
このクレイジィな環境にいて、キルアは よく純粋な心を保てますね。人間は環境に左右される生き物だけれど、それでも汚れない心もある。
「反省してないけど 悪いとは 思ってる
」というキルアの言葉は美しい。世の中にいる ほとんどの大人は、「悪いとは思っていないけれど、反省(のフリを)する」人ばかりなのに。
「どこのエアロスミスだよ!」──と初めてシルバを見た時に思いました。ただ、あらためて見比べてみると、それほど似ていませんね。スティーブン・タイラーは大口を開けている写真が多いからかな。
悪趣味きわまりない部屋のインテリアからして、やっぱり父親も異常な殺人鬼なのか──と思いきや、キルアに対しては優しく接しています。なんだ、イルミやミルキ・母親が突き抜けているだけで、シルバのような常識人もいるのか。
──そう思わされる一場面でした。
ゴンたちに話しかける口調だけを聞くと、母親も常識がありそうに見える。もちろん、本心は まったく別のことを考えているのでしょうね。キルアを拘束するように命じた人物も、本当は母親だったに違いない。
作品の中であれば異常な人物は大好きです。ドレス姿で疾走する母親の姿がファンタスティックですね! 格闘ゲームのキャラみたい。
ゴンたちをにらみつけるカルトには、ゾクッとしました。あきらかに敵意をむき出しにしているけれど、それが何に対してなのかが分かりません。だから よけいに不気味で、あやしくも色っぽい。
父と子の語らう姿は、ごく普通の家庭に見えます。これほど楽しそうに話すキルアは久しぶりですね。
シルバが暗殺者としてキルアを育てたのは、親の影響らしい。彼の親であるゼノもまた、親から「英才教育」を受けていたのでしょうか。そこをたどっていくと、先祖が暗殺稼業を始めた理由は何だろう? たんなる需要と供給だけなのかな。
「絶対に 仲間を 裏切るな
」という誓いは、父と子の間で交わす約束事にしては重すぎる。シルバの思惑は現時点では不明ですが、最後の場面を見る限りは、単純に「良い父親」としての発言とは思えません。
この言葉のウラを読めば、「絶対に仲間を裏切る時期が来るから、その時は帰ってこい」という意味なのでは……。
No.043 「ゾルディック家 4」
執事の中でもリーダ格の男・ゴトーは、いかにも「その筋の人間」です。ゼブロやカナリアとは、吸ってきた空気が違う感じがする。
執事たちの生い立ちが分かるのは ずっと先ですが、この場面では「かつては名の知れたヤクザの組長だったゴトーは、(略)で執事になった」みたいなドラマが ありそうに見えました。
コインを使ったゲームで なごやかな場を作ったかと思えば、一瞬にして場を凍らせてしまう。あいかわらずムードの切り替えが するどい作品です。
ただ、カナリアを人質にしていることは意味不明ですね。ゴンたちは彼女を見捨てるはずがないけれど、それは読者しか知らないはずです。彼らの良心に訴えたのだとしたら、良い意味で けっこうゴトーも甘ちゃんなのかも。
(片方の目では)ゴンの目でも追い切れないほど素早くコインを操るなんて、これまで登場した人物の中でも最速なのでは? ゴトーはヒソカと良い勝負をしそうだな……。
クラピカの「私は 右手だ
」というセリフが見事でした。まったく動きが見えない上に、相談は禁じられている。勘に賭けるしかない状況ですが、2 人とも脱落する可能性を なくしています。
すぐさまクラピカの意をくんで、さらに待ったをかけるゴンも最高ですね! よくこんな状態で冷静に考えられるよな……。両目で見ればゴトーに追いつける動体視力も すごかった。
ゲームが終わって一番ホッとしているのは、じつはカナリアかもしれませんよ。よく見ると汗をかいている。「どうして私が人質に……?」と内心では思っているのかも。とんだ とばっちりでしたね!
何の疑いもなくゴトーの言葉を受け取るレオリオが笑えます。ゲーム中の殺意を演技だと思っているのは、レオリオだけでしょう。
ゴトーの寂しさに気がつくゴンは、本当に優しい心の持ち主です。キルアを思う気持ちは、ゴトーも自分も同じだ──と気づいたのでしょう。
門出の祝い代わりに見せたゴトーのマジックは温かかった。ゴンの純真さを見抜いた上で、世の中に はびこるウソを教える。親兄弟のような気持ちで見送ったのでしょう。
No.044 「天空闘技場」
暗殺一家の家族と一緒にいる状況で、手品のトリックや観光ビザの期限が話題に出るなんて、なんだか のどかで良いですね。
ヒソカのプレートを差しだして「ドヤッ」とするゴンも微笑ましい。カイトもヒソカも居場所を知らないところが一段と笑いを誘います。この楽しげな空気が いつまで続くだろうか……。
ヨークシンシティのオークションに旅団が現れる──とクラピカは予想している。ただし、ほとんどが憶測です。それでも彼としては、すこしでも旅団に つながる可能性に賭けるしかない。
クラピカとレオリオが あっさりと離れて驚きました! てっきり、この 4 人で永遠にパーティを組み続けるのかと思っていたのに……。
遊びたがっているのは、ゴンだけではなくキルアも同じだったのでは? そこをゴンのために心を鬼にしている。自分のために危険を冒して会いに来てくれた お礼なのかもしれませんね。
ヒソカとハンゾーとの実力が ほぼ同じくらいとキルアは判断しているけれど、実際は どれくらい差が開いているかは不明です。
息を吐くように命を奪い続けてきたヒソカのほうが、はるかに実戦経験が多いでしょう。「強い奴ほど 強さを隠すのも うまい
」とキルアが語っているとおりで、ヒソカは もっと強いはず。
幻影旅団とヒソカとの結びつきも気になるところです。もしかして──。
あきれるほど高い天空闘技場は、実戦で経験を磨きながら お金も稼げるという、まるでゲームに出て来そうな場所です。
現実世界でも似たような施設は存在するけれど、アマチュアが堂々と戦える場所は すくないでしょうね。非合法な所が多いはず。
ここでもゴンの年齢感覚はズレていて、6 歳のころのキルアの実力を今と同じように考えています。6 年以上も先輩のハンゾーをほとんど自分と変わらないように話したり、ゴンのなかでは 5-6 年の差など無意味なのだろうか。
そのわりには、試合を見れば分かるとおり、たった数日から数週間でゴンは急成長している。この違和感や矛盾は、彼の器の大きさを示しているのかも。
実力者の少年が現れて──という次回への「引き」が良かった。続きが気になる!
おわりに
見どころの多い本巻のなかでも、おまけのページで発表された冨樫先生と武内直子先生との ご結婚報告には、最大限にビックリさせられたなぁ……! なぜかプロポーズの時に泣いている冨樫先生が謎です(うれし泣き)。
ちょうど本編でも「夫婦」が出てきてくれたので、サブタイトルに名付けました。──レオリオとクラピカのことではないよ!