貞本 義行 『新世紀エヴァンゲリオン』
『新世紀エヴァンゲリオン (13)』の発売と『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の公開が目前です! Kindle 版の コミックス 13 巻まで登場する!
どうやら「時に、西暦 2015 年
」までには、エヴァンゲリオンという物語を締めくくれそう──かな……? というタイミングで、「貞本版『エヴァ』」の感想を書いていきますね。
マンガ版では まだ旧型のスクール水着を着ていたり(素晴らしい!)、電子機器も古かったりするけれど、内容や絵柄は十分に現在でも通用します。
とくにモノクロの絵は ほぼ完成されている。最初のほうこそ絵に固さがあるけれど、第 1 巻が 1995 年の発行(!)とは思えません。とくに 5 巻からはカラーもデジタル彩色になり、もう誰も追いつけないほどの領域に達しています。
さて、初めて読んだ当時の感動を思い出しながら、現在の自分が感じている素直な気持ちを書きました! 単行本を読み直しながら(あるいは下のリンクから手に入れて)、気軽に お楽しみください!
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Reviewer: あじもす @asiamoth,
Volume 1 「使徒、襲来」
アニメ版の『新世紀エヴァンゲリオン』とマンガ版との大きな違いは、主人公・碇シンジの性格です。最初にアニメに触れてからマンガを読んだから、「シンちゃんって、こんな生意気な子だったっけ?」と驚きました。
その性格の差を、アニメ版の「逃げちゃダメだ
」とマンガ版の「乗ればいいんだろ?
」というセリフで端的に表現していて分かりやすい!
綾波レイも人間味が色濃くなり、惣流・アスカ・ラングレーは生意気でブリッコという味付けがされている。一方、ミサトさん(葛城 ミサト)は相変わらず「サービス サービスぅ!」していた。
第 1 巻のあらすじだけを追うと、「急に怪獣が来たので、主人公がロボットで やっつけた」というアニメや特撮でアリガチな展開です。
ところが、アレコレと仕掛けがあって、ビジュアルも格好いいから、大人でもハマり込めました。純真を忘れた大人には、そういう「言い訳」が必要なのです。
──「『エヴァ』以降」に「萌えアニメ」が増えたけれど、マネするべきは そこじゃなくて、「大人のための言い訳」だったと思う。それは さておき──。
最後にミサトの言葉を聞いて、思わず泣くシンジが良いですね。泣いた理由の中にはミサトはいなくて、あくまでもシンジは父親・碇ゲンドウしか見ていない──という点も切なかった。
Volume 2 「ナイフと少年」
一段と「反抗期」に突入したシンジの暴走が楽しい!
テレビアニメ版では すんなりと「エントリープラグに異物を挿入」していたけれど、たしかにムチャクチャな行動ですよね。説明臭くならないように おもしろさを足しています。
貞本さんが本領を発揮する作品は、もしかしたら軽いノリのラブコメなのでは? たとえば、家庭の事情でニセのコイをする高校生カップルの話だったら、もっとサクサク描けそう。
第 3・第 4・第 14 使徒のデザインを担当した あさり よしとお氏の解説が、第 2 巻の巻末に収録されています。ここに書かれているとおり、「エヴァンゲリオンは実にオーソドックスなドラマ
」だと自分も思う。
説明なしに挿入されるキーワードや絵を、「伏線」と見て謎解きをする風潮が当時は流行しました。現在、ほぼ解き尽くされて「消費された」謎を見ると、ただのスパイスでしかないことが分かる。
ただし、あさり氏は「シンジ君の成長ドラマ
」と総括していました。旧・『新世紀エヴァンゲリオン 劇場版』まで観ると、「シンジ君を成長させない物語」とも思える。つまり──、
「僕はここにいても いいんだ!
」の言葉がすべて。
Volume 3 「白い傷跡」
綾波レイは、おそらく意図的に見せ場を抑えていました。それが第 3 巻でガツンとヤラレる! 第 1 巻の包帯姿で心を撃ち抜かれた人(オレ)に とっては、「セカンド・インパクト
」ですね。
しかもマンガの綾波は、反応がアニメ版よりも より普通の女子中学生に近い。これくらいの無口な女の子なら、現実にもいるのでは──と思わせる(コスプレイヤに、ではなく)。
だからこそ、あの「転倒シーン」の衝撃が すごい!
『エヴァ』の世界は常夏のため、女性たちが薄着(すぎる格好)だったり裸だったりする。ところが、シンジが中性的なせいか、それほど性的な印象が残りません。
イマドキの中高生が読むと、「『エヴァ』に性的な場面なんて あったっけ?」と言うかもしれませんね。──そのセクシャルな部分だけで何億も動いたと思うのに……。
そして、綾波レイという存在そのものが、シンジからは性的な対象として見ることを禁じられている。だからこそ──。
第 3 巻は、何と言っても「ヤシマ作戦
」に緊張感があって良かった。作戦後のドラマと、綾波レイの笑顔も最高です! 新・『劇場版ヱヴァンゲリヲン:序』でも貞本版でも ほぼ同じ展開なのは、削りようも変えようもないからでしょう。
ただ、下のセリフだけは気になりました。どう考えても普通の「別れのあいさつ」なのに、シンジは何が悲しいんだろう……? 「バイバイ」なら良いってこと?
もう別れ際に 「さよなら」なんて 悲しいこと 言うなよ
Volume 4 「アスカ、来日」
大好きなアスカが初めて登場する第 4 巻は、表紙とカラー・ページが素晴らしい! 自分は保存用に 2 冊買いました。
コミックス版の『エヴァ』は、表紙や扉絵が毎回 見事です! すべての表紙と扉絵は、ガレージ・キットで造られたのでは? 自分も何万円も「ガレキ」に使いましたが、全部オカンに捨てられた……。
アスカは、アニメにおける「天才少女」のイメージを決定づけたと思います。つまり、「天才とナントカとは紙一重──で良いんだ!」と後押しした。
貞本版のアスカは、もうすこし世渡り上手になっています。多重人格的な演技によって、コミカルで明るい話が多くなりました。放っておくと どこまでも暗くなる作品だから、アスカの存在は貴重ですね!
マンガだけの設定として、「アスカ出生の秘密」が付け加えられました(秘密にせずベラベラしゃべっているけれど)。この父親の存在は、後々の伏線になるのか──?
「楽しい『エヴァ』」の象徴は、おなじみの「ユニゾン・ダンス」です。現役の中学生である非実在青少年がベッドを並べて寝食をともにする──という教育的に好ましい話ですね!
共同生活をする前から、シンジとアスカは よく似ていました。両親に対する執着心や、育った環境が似ているからでしょう。まるで姉と弟みたいに見えるので、もしかして──と妄想したくなる。
マンガは作家が独りで描いているようなものだから、どの登場人物も「貞本さんの分身」になって当然です。アニメ版は多くの人が関わったから味が薄れているとは言え、やはり「全員が庵野さん」でした。
おふたりとも総監督として現場を仕切りながら、自分自身を切り売りしているような感じです。それには苦痛をともなうでしょう。それでも どうか、最後まで走りきって欲しい!
おわりに
決められたストーリィのなかで自分の作家性を出す──というマンガ版の試みは、絶望的な世の中で懸命に生きる登場人物たちと重なります。
また、庵野さんに対する貞本さんの挑戦とも受け取れました。そもそも、シンジとゲンドウとの対立は、庵野秀明監督と宮崎駿監督との関係にも見えたりする。
──まぁ、庵野監督と宮崎駿監督は、対決はしても対立はしていませんけどね。この 2 人の関係は、なんとなく『美味しんぼ』の山岡士郎と海原雄山にも見える。