HUNTER×HUNTER 「クラピカ追憶編 後編」 目の色を変えて怒る彼女

シェアする

HUNTER×HUNTERハンター×ハンター)』 「クラピカ追憶編 後編」

Summer's over
物を落としても──品性は落とさないように

劇場版アニメ・『緋色の幻影(ファントム・ルージュ)』や本編に直結する重要な物語は、今回の後編で終了です。
子ども時代のクラピカと親友のパイロは、いよいよ村の外へと飛び出しました! 試験は無事に合格できるのでしょうか? それとも──。

「劇場版 HUNTER×HUNTER 緋色の幻影(ファントム・ルージュ)」公式サイト 「劇場版 HUNTER×HUNTER 緋色の幻影(ファントム・ルージュ)」公式サイト

前編はワクワク感があったけれど、この冒険の「先」を知っているから、なかなか気軽には楽しめなかった。
ところが、読み切りの結末は興味深い! もしかしたら、「クルタ族の眼球を奪ったのは幻影旅団」という前提が崩れるかも しれません!

どこまでが演技?

チンピラ 3 人組は、最初の時点で「雇われた者たちの演技」だと分かりました。ただ、あまりにも しつこく陰湿に絡んでくる上に、不自由な身体であるパイロへの暴言を放ったことから、別の可能性も考えてしまう──。
長老ではなく別のクルタ族がクラピカに恨みを持っていてワナを仕込んだか、あるいは ただ偶然に出会った不良どもか──と想像しながら読みました。実際には違いましたけどね。


読み返してみると、「生きてて 楽しいか?」の時に、チンピラは汗をかいてビビっている。ムリをして言っていることは明らかです。
ところが このセリフは、その後のクラピカを暗示する言葉に なっている──。

試験の意地悪さ

長老の仕掛けたワナは、クラピカではなくパートナを狙う作戦でした。
これでは、クラピカの お供になるはずだった大人が わざと怒れば、それで試験は失敗して終了する。つまり、最初から長老は試験を落とすつもりだった。
大人が子どもに与える試練にしては、度を超えた陰険さです。「やっぱりクルタ族は腹黒いな──」と差別的に見てしまった。

ふと思ったけれど──、パイロのように長老も、パートナの大人を使ってクラピカに教訓を与えるつもりだったのかも。その場合は、たとえパートナが「緋の眼」を(予定どおりに)発現させても、クラピカの試験を合格させたでしょう。
実社会でクルタ族が生きていくためには、一度は差別の目を経験したほうが良い──ということかもしれません。それが本当であれば、寂しい事実だけれど。

差別と偏見

差別と言えば、最初は味方をしてくれた おばあちゃんの急変が怖かった(今回のサブ・タイトルの意味)。彼女のように「赤目の 化物」と憎まれることもキツいけれど、孫のように恐れられることも悲しい。

今回の読み切り以外に『幽☆遊☆白書』や『レベルE』でも、異世界の住人に対する差別を扱っています。けっして主題ではないけれど──。
冨樫先生には、差別や偏見に対して何か思い入れがあるのでしょうね。山形県民だからかな(←偏見)。

親友の将来性

目薬のトリックは前回の予想で見破っていたけれど、クラピカの分までパイロが すり替えていたとは予想外です。ついでに、シーラは(おそらく)「森に迷い込んだ という旅の住人」扱いでしたね。

HUNTER×HUNTER 「クラピカ追憶編 前編」 彼女が目指した世界 | 亜細亜ノ蛾

長老とチンピラが組んでいたこともパイロは知っていた。おそらく、長老のズルに気がつかなくても、パイロだけは怒らずに買い物を終えられたでしょう。
クラピカにチンピラのことを黙っていた理由も、「いい教訓に なるから」だったに違いない。

クラピカよりもパイロのほうが外の世界に向いています。今回の冒険でハッキリと分かりましたね。
これほど才能と知性に恵まれた親友の未来を閉ざしてしまい、そしてクラピカは永久に取り戻せなくなった──。クラピカが自分の心を閉じ込めて、幻影旅団を追う理由がよく分かります。

残酷な結末

クラピカが旅だったあとの展開は、この作品の読者であれば すでに知っている。
しかし、読み切りの最後に書いてあるような残虐さだとは想像できなかった。『H×H』に今回で初めて触れた読者は驚いたでしょう。
しかも それだけではなく──。

残されたメッセージの意味

我々は 何ものも 拒まない だから我々から 何も奪うな」のメッセージには、もっとビックリしました。たしかに幻影旅団は流星街の出身ですが、彼らが こんな言葉を残すとは思えません。

そこで、次の可能性を考えてみる:

  1. 流星街からの依頼でクルタ族を襲った
  2. 「緋の眼」を奪った人物は別人
  3. 幻影旅団の誰かがメッセージを残した

1 と 2 は重なっていて、じつは現時点で、「幻影旅団がクルタ族から眼球を抜き取った」という証拠は ありません。──と読み切りで初めて気がつきました。
ウボォーギンなどの発言から、「幻影旅団はクルタ族と戦った」ことは間違いない(『HUNTER×HUNTER (9)』 p.185)。ただし、「緋の眼」を奪ったとは、幻影旅団の誰も言っていません。
さらには、「緋の眼」を幻影旅団の団長が売ったかどうかすら、ヒソカの推測だけです(第 9 巻 p.105)。
これは もしかしたら、ヒソカが意図的に「緋の眼」の情報を隠している可能性まで出てきましたよ! クラピカと幻影旅団を縛り付けるために、ウソをついたとも考えられる。

3 番目は、劇場版で初登場する「オモカゲ」などがメッセージを書いた可能性です。ヒソカの前に No.4 だった幻影旅団メンバのオモカゲは、映画を観るまでは性格が分からない。狂信的な流星街の住人かも しれません。

どちらが悪い?

上のメッセージを鵜呑みにすると、クルタ族のほうから流星街(の住人)に対して何かをしたはずです。クラピカの証言とは まるで印象が異なってくる。
──いや、クラピカからすれば「同胞を殺された」事実は変わりません。仮に最初はクルタ族が悪くても、クラピカの性格からして納得するはずがない。
そもそも、このメッセージがウソの可能性もある。

「緋の眼」は何対?

「緋の眼」の数にも謎が残されています。
現存すルのは わずか 36 対」(『HUNTER×HUNTER (11)』)と語られているけれど、亡くなった 128 人と比べると少なすぎる。村人のなかには純粋なクルタ族は 36 人しかいなかった──とも考えにくい。
ヨークシンのオークション会場で明かされた情報のため、たんに公の場で「流通」している数なのかも しまれません。ということは、まだまだクラピカの探索は続くのか──。

おわりに

この読み切りを引っ繰り返すような あとがきが、「ジャンプ」の巻末に書いてありました。

今は R(レコード)の A 面 B 面に例えてもピンと来ないですかね。
実はこの読切 B 面もあるんですが…〈義博〉

今回の物語に別のバージョンが あるのか!?
たぶん、平行世界での別の話──などではなく、幻影旅団(か流星街)側の視点から見た「事件の真相」を考えました。
いまさら幻影旅団を「じつは正義の味方」なんて あり得ない。けれども、今回の残虐な結末と幻影旅団の印象が重なりません。なにか やむを得ないような事情が あったのか?

──と言いたいところだけれど、フィンクス・フェイタン組だったら、喜んで拷問でも惨殺でもヤリかねないよなぁ……。
この「どっちとも取れる」が『H×H』の悩ましいところであり、このブログの特徴です!