『ルーパー』 (Looper)
SF アクション映画の大傑作です! 何度も観たい!
タイム・トラベルが主題だけにタイム・パラドックスを含む矛盾だらけの展開ですが、そこが欠点にならない魅力に あふれています。深く考えずに観ても楽しめるし、考察しがいもある。
現在(2040 年代)25 歳のジョセフ・シモンズをジョゼフ・ゴードン=レヴィットがクールに演じています。
30 年後(2070 年代)55 歳のジョセフ・シモンズはブルース・ウィリスが熟練した演技で魅せてくれました。
この ふたりの出会いに注目です!
意外にも、もう 1 つのテーマは「愛」でした。
それぞれのジョーが、それぞれの愛に触れる。そして離れていく──。この愛おしさと せつなさは、誰でも共感できるでしょう。
恋人同士で観て欲しい名作です!
Reviewer: あじもす @asiamoth,
監督も脚本も
監督はライアン・ジョンソンです。長編映画は『BRICK ブリック』と本作品だけですが、今後は注目を浴びること間違いなし!
両作品ともライアンは脚本も書いています。自分ひとりで世界をすべて作り上げたい人なんでしょうね。
似て非なる同一人物
「ヤング・ジョー」を演じるジョゼフ・ゴードン=レヴィットは、『インセプション』のナイーブな演技や、『ダークナイト ライジング』の熱血漢が良かった。
「オールド・ジョー」のブルース・ウィリスは、『パーフェクト・ストレンジャー』や『16 ブロック』の渋い役も良い。
でも やはり『ダイ・ハード』シリーズ(後半)や『シン・シティ』などの無法者が似合いますね!
- 『ダイ・ハード 4.0』 非道な主人公が武士の情けを | 亜細亜ノ蛾
- 『シン・シティ』 豪華な監督と出演者たち | 亜細亜ノ蛾
- パーフェクト・ストレンジャー – 不幸な日の連続だけは我慢できない | 亜細亜ノ蛾
- 『16 ブロック』 窓際“ジョン・マクレーン”には遠すぎる距離 | 亜細亜ノ蛾
まず、この ふたりが「同じジョセフ」を演じる点は、観る前に引っかかりました。まっっったく似ていませんよね!
しかし、ドラッグに溺れて暴力をふるう毎日を送れば、あれだけ凶悪な顔になって当然──かなぁ……。
ヤング・ジョーがオールド・ジョーに変わっていく回想シーンは、ちょっとムリがありました。『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』以降パクられ続けている「○○年から□□年の間 何があったー!?(ガビーン」みたい。
母として女として
サラの存在も良かった!
「母親の象徴」としてサラは重要な役割です。なぜなら、この映画にはシドのほかに、「ふたりのジョーという子ども」が いる。ようするに、ふたりとも「母のように髪を撫でてくれる女」を求め、そして救われた。
彼らもオレも みんなも、男はみんなマザコンです!
サラ役のエミリー・ブラントは、『プラダを着た悪魔』で いつもイライラした上司のエミリー・チャールトンを好演していました。クセのある人物で光る女優さんですね!
プラダを着た悪魔 – 生活のために仕事をして、愛のために努力する | 亜細亜ノ蛾
恐るべき子役
シド(ピアース・ガノン)の演技が素晴らしかった!
『オーメン』のダミアン(ハーヴィー・スティーヴンス)を思わせるような、背筋のゾクゾクする「目」が怖い! ヤング・ジョーとの会話は、どちらが大人か分からなくなりました。
一方で、サラと一緒にいる時のシドは、ちゃんと子どもらしくなる。この、まるで「ひとりで二役」のシドと、「ふたりで ひとりを演じる」ジョーとの対比が おもしろい!
友人の末路
セス・リチャーズは不憫すぎる!
30 年後のセス(フランク・ブレナン)が逃亡中の場面は、何が起こっているかが最初は分からなかった。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいに「存在が消える演出」にも見える。
あとで「ヤング・ジョーがビアトリクス(トレイシー・トムズ)の名前をオールド・ジョーに送る方法」の場面を見て、ようやく年老いたセスの異変が理解できました。そのためにボスのエイブは「ドクター」を呼んだわけですね……。
つまり、現在のセスは指や鼻や足を──。
現代のセスを演じたポール・ダノは、『ナイト・アンド・デイ』では重要な科学者であるサイモン・フェック役でした。どの映画でも彼は狙われる役ですね! 良くも悪くも……。
ナイト & デイ – 恋の逃避行は騎士のごとく急がず休まず | 亜細亜ノ蛾
タイム・マシンがレトロな理由
オールド・ジョーが乗り込んだタイム・マシンは、近未来の機械にしては古めかしい外観でした。趣味で蒸気機関車を制作している人が、余った材料で工作したみたいな感じ。
しかし、この「ボタン操作で手軽に時間旅行」できないだろう外見には重大な理由が あります! もしも自由自在に転送先の日時を選べるならば──、
オールド・ジョーは「一日前」に戻れば良かった。
──その場合は敵を含めて自分を消す必要があるし、そうなると毎日毎日 未来から着た自分と戦うことになりそうだけど。別の映画になっちゃいますね!
以上から、「きっかり 30 年前の特定の場所にだけタイム・マシンは転送できる」と仮定できます(トラブルの分だけオールド・ジョーの転送が遅れた)。
それでも、大きな矛盾が残ります。
レイン・メーカーは報復だけに頭を支配されて「すべてのループを閉じる」と決意したのでしょう。しかし、彼は「悲劇の元凶」を知っているから、現代に刺客を送り込むべきでした。それなら悲劇は起きなかったから、彼女は生き残ったはず。
オールド・ジョーが成し遂げたかったこと
オールド・ジョーが「レイン・メーカーの可能性」に銃弾を放つ場面は悲しかった。その上、かつての自分を癒やしてくれたスージー(パイパー・ペラーボ)の子まで手に掛けようとする。
そこまでしてオールド・ジョーは、何を守りたかったのか。
現代でレイン・メーカーを消したら、奥さん(シュイ・チン)は助かるかもしれない。しかし、オールド・ジョーと結ばれる保証は ありません。ふたりが出会うころには、オールド・ジョーは おじいちゃんになっている。
これは脚本上の矛盾と言うよりも、オールド・ジョーが正気を失っていると考えたい。
すべての仕事をやり遂げたところで、オールド・ジョーの妻は帰ってきません。たぶん、彼も気がついているはずです。それでも──走り続けるしかなかった。
もうひとりの子ども
キッド・ブルーが良い味を出している!
日本では まだ無名なノア・セガンが、「ちょい役」とは言わせない体当たりの演技を見せています。
てっきり元締めのエイブ(ジェフ・ダニエルズ)と関係がある(本人?)と思いました。ところが、とくに何も明かされることなくキッドは散っていく──。
いや、ハッキリと彼が亡くなったとは描かれていません。あらたなレイン・メーカーとなったキッド・ブルーの活躍を『LOOPER 2』に期待ですね! 冗談抜きで続編が見たい!
矛盾もエクボ
本当に好きな作品だけに、何度も思い返しています。──細かい食い違いが気になるくらいに。
ということで、気になった点を挙げていきますが、自分のなかで評価は落ちません。
- 消したい人物を過去に送るのであれば、手足を縛った状態で海の真ん中や火山の上・宇宙空間に放り出せば良い。あるいは、ほんの数メートルずらせば「*いしのなかにいる*」。
- ループをすべて閉じようとするレイン・メーカーは、最大の悪者として恐れられている。しかし、そもそも「タイム・ループは犯罪行為」のため、ルーパーは最初から全員が消される運命のはず。
- 現代には犯罪者を含めて個人の位置を特定できないはずなのに、セスもジョーも 30 年後の自分を逃がした直後に追われている。
- オールド・ジョーはルーパーを無事に引退していたが、彼には「別のオールド・ジョー」が来なかったのか? 来ていた場合は、「最初のオールド・ジョー」って どんな存在?
- レイン・メーカーは、タイム・マシンの開発者を消せば良かったのでは?
- 最大の謎: よく R 指定つかなかったな!
おわりに
映画評論家の町山 智浩さんは、2012 年の(暫定)ベスト映画として『ルーパー』を挙げています! ポッド・キャスト(音声配信)にて、本編のネタバレありで語っていますよ!
- 音声ファイルのリンクあり: たまむすびで『ルーパー』 – ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記
- 文字起こし: 『LOOPER/ルーパー』(Looper) 今年の町山智浩オススメ映画、暫定ベスト1がこれだ!【2012年10月2日たまむすび】 | まちおこし
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