森 博嗣一覧

『χの悲劇』 森博嗣 – また彼女に会える日

χの悲劇』 森博嗣・著

Network
世界を巡るネットワークは──神の手の上に

なんと、島田 文子が主人公です!
かつて「神」の近くにいた天才プログラマは、前作・『キウイγは時計仕掛け』にも出てきました。その時に島田の転勤先は示されています。
ということで──舞台は香港(ホンコン)です!

異色な始まり方に不満と不安が わき上がる。
加部 谷恵美は何をしているのか?」「海月 及介は いつ出るの?」──読み始めた頃は、そんな感想ばかりが浮かんできます。
ところが、読み終わった直後は、シリーズ中で もっとも衝撃を受けた一冊に なりました。いまではGシリーズで一番 好きな作品が この『カイの悲劇』です!

すべてがFになる』から読み返したくなりました。
アニメ版『すべてがFになるで島田を知った人は とくに驚いたはずです。森ミステリィの奥深さに震えるが良い……!

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『キウイγは時計仕掛け』 森博嗣 – 壊れやすい思い

キウイγは時計仕掛け』 森博嗣・著

Stained fruit 完全な内部と──完全な外部

また「ギリシャ文字の前に単語が入る」タイトルです。
2 作前の『目薬αで殺菌します』・『ジグβは神ですか』からの傾向だし、アルファ・ベータ・ガンマの順番に なっている。
スカイ・クロラ シリーズ」が(あとから発行された)『ナ・バ・テア』から始まるように、この「G シリーズ」も『α』が本当の事件の始まりなのでは……?

『キウイγは時計仕掛け』森博嗣|講談社ノベルス 『キウイγは時計仕掛け』森博嗣|講談社ノベルス

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『ジグβは神ですか』 森博嗣 – 再会の喜びに飛び立つ

ジグβは神ですか』 森博嗣・著

Wrapped cat 包まれた世界は──完全なる密室

前作・『目薬αで殺菌します』に続いて、ギリシャ文字から始まらないタイトルです! そのことに意味があるのか どうかは、神のみぞ知る──。

『目薬αで殺菌します』 森博嗣 – 事件よりも大事な恋心とパソコン | 亜細亜ノ蛾

著者の森 博嗣氏によると、前作の発行から4年が経ちましたが、当初から予定していたことで、作品の中でも同様に月日が流れています──とのこと。

なんだ、てっきり講談社の中の人と仲たがいに なったのかと思った(α』の Kindle 版が出ているのに文庫は まだだし)。でも、「G シリーズは全 12 作」とは明記されなくなったよなぁ……。

2012-11-14T11:37:41+09:00 追記

小説に「あとがき」を書かないことで有名な森先生ですが、講談社の公式ページにコメントを載せていました! シリーズ半分の折り返しである「ηなのに夢のよう」(『η』は 6 作目)という記述から、全 12 作で間違いないようですね!

『ジグβは神ですか』森博嗣|講談社ノベルス

それでは いつものように、「謎解き」や「解釈」──などではなく、自分の感想をお送りします!

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森博嗣 『探偵伯爵と僕』は「子ども向けのミステリィ小説」という真意を問う!

探偵伯爵と僕』 (His name is Earl)

Untitled
物や思い出は──なくならない

子どもが語り、子どもが読むべき本です!

本書は講談社の「ミステリーランド」シリーズの 1 冊で、子どもの読者に向けたミステリィ小説ですね。多くの作家が作品を書き下ろしています。

講談社BOOK倶楽部:ミステリーランド
講談社BOOK倶楽部:ミステリーランド

著者の森博嗣先生は、いつも「子どもには一流の物を見せるべきだ」と主張されている。本作品も一級品の切れ味で読者に迫ります。

多くの人が児童書だと思っている『星の王子さま』のことを、「この本に書いてあることは子供には当たり前のことで、つまらない。大人が語り大人が読むべき本でしょう」(『森博嗣のミステリィ工作室』 p.128)とも書かれていました。

一見ひねくれているようでいて、いわば「子どものように純粋」な作者だから、本作品に描かれている子どもの視点も新鮮に感じます。たぶん、小学生くらいの子が読むと「そうそう!」と何度も うなずくでしょう。

ミステリィ小説だけあって、殺人事件が出てきます。だからといって「子どもみたいに」恐がらずに読んでください。かつて子どもだったあなたと少年少女のための物語ですからね。

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森博嗣 『悠悠おもちゃライフ』 趣味から抽象する人生の楽しさ

森博嗣 『悠悠おもちゃライフ』

Camera happy! おもちゃにも──趣味があるらしい

下のリンク先にある画像が、ネットで話題(←うさん臭い言葉の代表選手)に なっていました。

15年前の小説。 森博嗣すごいなあ on Twitpic

なんと森博嗣先生は、ラノベ作家よりも前に「フォントいじり」をしていた! ──という画像ではなくて(ぐにゃぐにゃ湾曲しているから)、小説に書かれている内容に先見性があるということですね。

ARTIFACT ―人工事実― : フォントいじりの歴史

「引用したなら『幻惑の死と使途』ってタイトルを書いておけよ!」とも思ったけれど、大好きな森先生に注目が集まる きっかけになったら、ファンとして うれしいです。

そう、われらがココロンの指摘していたように、しょーもない「炎上商売」の片棒を担ぐヒマがあったら、森博嗣先生とココロ社先生の著作を読んだほうが、65565 倍も人生が充実しますよ!

学費援助サイトを叩いた人も、ひとり900円くらい援助していたことになる – ココロ社 ♪ほのぼの四次元ブログ♪

森先生から考えをいただくのであれば、『悠悠おもちゃライフ』がオススメです! 先生の卓見がギュッと 1 冊に濃縮されていて、1 ページに 1 枚以上の写真が載っている。しかもオール・カラーという豪華版ですよ!

読んで・見て・楽しめる単行本です!

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『少し変わった子あります』 森博嗣 – 有料と抽象の ご飯

『少し変わった子あります』 森博嗣・著

夕焼け空、鉄塔
(幾何学的に切りとられた空の下で──命をいただく)

「森博嗣 版・『眠れる美女』」という表現がしっくりと来る一冊でした。両作品の共通点は こんなにも挙げられます。

  • 盛りを過ぎた男性が主人公
  • 友人から「変わった店」の話を聞く
  • 店というよりは「家」に近い場所である
  • 女性と一対一で会う
  • 短い章ごとに別の女性が登場する短編集

もちろん、自他ともに認めるアマノジャクな森先生のことだから、まったく同じようには書かれていませんよ。むしろ正反対の作品に感じる人も多いんじゃないかな。

日本人で初めてノーベル文学賞を受賞した大作家である川端康成氏の著作といえども、『眠れる美女』を自分の子どもに読ませたい親はいないでしょう。その点、『変わった子』は大丈夫ですよ!

ここから先は中身に触れていきましょう。なるべく「具体的なネタバレ」のない「抽象的な感想」を書きました。

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『目薬αで殺菌します』 森博嗣 – 事件よりも大事な恋心とパソコン

『目薬αで殺菌します』 森博嗣・著

Sony's full-frame Alpha 900 with Zeiss 24-70 F2.8
(自分の目にも欲しい──「α」)

《G シリーズ》の 7 作目は、タイトルがギリシャ文字から始まらない、初めての作品です。そのことに意味があるのか、と思って読んでみると──分かりませんでした。次回作以降で明らかになる、のかな……。

今回は、加部谷恵美(かべや めぐみ)のキャラクタが、ググッと前に出てきた感じです。いままでは、西之園萌絵(にしのその もえ)のうしろに埋もれていた印象だったりする(ヒドイ)。

海月及介(くらげ きゅうすけ)や山吹早月(やまぶき さつき)は、というと──逆に、どんどんと物語から離れていくように感じましたね。犀川創平(さいかわ そうへい)なんて、探偵役どころか神の領域に近づいている……。

あと、《G シリーズ》の「G」とは何か、ちょっとした思い付きを最後に書きました。我ながら、面白いと思う。

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『ηなのに夢のよう』 森博嗣 – 夢見るような十年間(の終わり)

『ηなのに夢のよう』 森博嗣・著

2010-04-04_17-41-00_Canon EOS 7D_f8.0_1-25s_iso400_18mm
(「夢よ、覚めないでくれ!」)

《G シリーズ》の第 6 弾は、盛りだくさんの内容です! 過去シリーズのファンは、必読の 1 冊となっていました。

もう、ビックリするくらいに、ゲストが何人も出てきます。とくに、《V シリーズ》からの出演者が多いですね。いや、いまのところはゲスト扱いですが、もしかすると──今後の中心人物になりそうな気配もしました。

ミステリィ小説として読むと、事件の解決編が、前代未聞と言ってもいいくらいの終わり方です。まぁ、「森作品にありがちなこと」という感じですけれど……。

読み終わってみると、詰め込みすぎではないかと思うくらいの、大ボリュームです。しかし、本の厚みは薄い。余分なところが削ぎ落とされているのでしょう。

それでも、こういうシャレた会話がサラッと出てくる。

「ちょっと、月を見て、悲しくなってしまったの」

「今日は、月は出ていないだろう」

「そのようですね」(……)

「ああ、じゃあね、出しておくよ」

「え、何をです?」

「月を」

ηなのに夢のよう』 p.168-169

2010-08-07T22:19:46+09:00 追記

ものすごく下らなくて、なおかつ下品なことを思いついてしまいました。とっさに月のことを西之園が話したのは、体調のことも影響していたのでは──という想像です。ふざけた文体の日記でどうぞ。

そんな男にはブルームーンを – 亜細亜ノ蛾 – ダイアリー

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『λに歯がない』 森博嗣 – 死体に歯はない・天才に死はない

『λに歯がない』 森博嗣・著

tooth officer mouth pocket (by mmmcrafts)
(λになくても、歯に──歯がある)

人間のコンテンツって、何ですか?

λに歯がない』 p.109

ギリシャ文字がつきまとう一連の事件を描いた、G シリーズの 5 作目になります。浮遊工作室 (近況報告) によると G シリーズは全 12 作のため、折り返し地点まで、あとすこし。

この『λ』あたりから、ひとつひとつの事件を追うことよりも、その周辺を描くことが多くなってきます。ギリシャ文字の事件たちは、いったい何を目指そうとしているのか……。その背後にいるのは?

本作では、人間の生死について議論する、といった場面が出てきます。過去のシリーズ作品を読んだ人には、感慨深いモノがありますね。そうか、あのコがこんな話をできるようになったのか──、と。

そう、G シリーズとほかのシリーズとをつなぐ結びつきも、じょじょに強くなってきました。過去のシリーズで解決済みと思っていたデキゴトが、考え直す必要が出てきたり──。

もちろん、ミステリィとしても楽しめます。今回は密室での殺人であり、連続殺人事件でもある。トリックの解き方もクールです。

なにしろ、謎を解くのはあの人だから──。

すでに上の文庫版が出ていますが、自分はノベルス版で読みました。だって、出るのが遅いんだもん!

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『εに誓って』 森博嗣 – 生と死の境界にある美しさ

εに誓って

Anaglyph bunny (by gadl) (by gadl)

そもそも人間って、誰だって期限付なのに。

永遠に生きる奴も、永遠につき合う友人も、いないのに。

『εに誓って』 p.188

森博嗣先生のGシリーズ・4 冊目の作品である。

今年中──おそらく数か月以内には、文庫になるはずだ。しかし、いつまでたっても「新刊情報」に登場しない。待てど暮らせど会えない、彼女のようだ。──個人的な話ではなく、この文脈で出てくる彼女とは、あの天才である……。

森博嗣の浮遊工作室

待ちきれないので、講談社ノベルス版で読んだ。──正直、ノベルスと文庫はサイズがあまり変わらないので、どちらでも良い気がする。

さて、ミステリィ作品としての『ε』は、ほとんどワントリックだ。注意深いミステリィ・ファンであれば、途中で真相に気が付くだろう。これほどトリックらしいトリックは、森作品でも珍しい。

しかし、作者がアマノジャクなため、単純な「謎を解いて終わり」という作品には なっていないのだ。犯人よりもトリックよりも、もっと重要な大きな力が後ろに見え隠れする──。

photo

εに誓って (講談社ノベルス)
森 博嗣
講談社 2006-05-10

by G-Tools , 2009/03/14

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