諫山創 『進撃の巨人』
ダメ。ゼッタイ。なヒストリアが表紙を飾りました!
まさに「巨人化やめますか? それとも人間やめますか?」という場面を描いています。このままでは『進撃の巨人 11』のウソ予告で描かれた「巨人兵団
」が実現してしまう……!?
しかし、この巻の恐るべき(汚)点は別にあった。
盗賊と女王
グリシャ・イェーガーの真意がサッパリ分からない。
フリーダから初代王の思想
と世界の記憶
は(一部は?)奪えたでしょう。ところが、肝心の人類の 記憶を 都合よく書き換えられる
巨人の力
は、グリシャには使えなかった。
自分では王様に なれない事実をグリシャは思い知ったのでしょう。ケニーの夢
と同じく敗れ去った。そこまでは想像できますが、エレンに自分を食わせた理由が理解できません。
絶望して発狂した──ということなのか?
巨人となったグリシャは、人間に近い顔をしている。
口ひげを生やしている巨人は珍しい。とんがった耳を除けば、ほぼ人間と変わりません。もちろん、頭身バランスや身長は巨人そのものだけれど。
一方のフリーダも、「荒々しい表情と凶暴な目をした女性」に見える。さすがは すべての巨人の頂点にたつ存在
です。
2人を見ていると、巨人の能力・才能と人間に近い表情とは、お互いに関係が あるように思える。より強力な能力を使いこなす巨人ほど人間に近づいていくのかな?
不明な姓
「『リヴァイ・アッカーマン』問題」は未解決でした!
またもやリヴァイ兵士長とミカサ・アッカーマンの関係は不明なままです。
しかし、「突然 力に目覚めたような 感覚
」をリヴァイもミカサも経験している。もう肉親関係で確定だと思うけれど……。
本人も含め、リヴァイの姓を誰も知ろうとしない。
リヴァイはケニーの事を「奴の フルネームを知ったのも 昨日が初めてだ
」とサラッと言ってのける。本名について興味が無いのでしょうか。
──いや、別の理由かも しれません。
アッカーマンを名乗る事には危険が ともなう。
王政に背を向けた 家
の内の一つであるアッカーマン家は、あの壁のなかではテロリストも同じでしょう。 上で書いた王の力は、アッカーマン家を含む一部の血族
には無効だからです。
ケニーがアッカーマンの姓を隠して(?)「切り裂きケニー」と名乗っていた理由は自己保身でしょう。リヴァイの姓が不明なのも、同じように王政に目を付けられないためだろうか?
一方、ミカサはアッカーマン姓をずっと名乗っている。
事情を知らない(と されている)彼女は、ずっと危険な状態だったのかも。それとも、調査兵団にいれば いつでも始末できる、と王政側から思われていたのかな。
ヒト対ヒトの経験
手を汚す 覚悟
を最初に示した人物は誰か?
それは、「人を殺すこと」について一番 嫌悪していたジャン・キルシュタインでした。リヴァイ一行の決意を効果的に示す場面です。
おイモ大好きなサシャ・ブラウスが「ガスを爆発させる」。そんな場面にも(当然)笑いの要素は無い。射撃が得意なサシャは、正確に「敵」の心臓を射貫いています。
一方、元から「経験」があるリヴァイとミカサは、当たり前のように ためらいなく倒していく。この あたりも兄妹のように似ている。
ハンジ・ゾエは、対人戦の経験が あるのか?
巨人に対しては愛情を持って解体して きました。しかし、巨人が元は人間だと知った今でも、同じ感情で向き合えるのかな。
死亡フラグを立てながら突っ込んでいくハンジは、自分のほうが「生き急ぐ タイプ
」でした。慣れない事をして感情が高ぶっているようにも見えます。
生成される救い主
「この世から巨人を 駆逐する!!
」
──そう叫ぶヒストリア・レイスは、かつてのエレンと似ている。ただし、エレンは巨人に対して憎しみしか無かった。対するヒストリアは、使命感に燃えている。
そんなヒストリアに、ロッド・レイスは過去を話す。巨人の力を受け継
ぐことは、全知全能にして唯一の 存在
──神になることだと言う。
そう、エレンの姿は「彼」を思い起こさせます。
手足を縛られて(磔台にくくられて)、額から血を流し(イバラの冠をかぶせられ)、食われる覚悟を決めた(「わたしの肉を食べ、わたしの血を飲む者は──」)。その人物とは──。
同じく何も できない主人公と言えば碇シンジです。
『エヴァンゲリオン』は、キリスト教に関するキーワードが散りばめられいました。『The End of Evangelion』では、分かりやすくシンジの両手に「聖痕」まで刻んでいます。
自分の子どもを神に仕立てて、自分の欲望を満たそうとする。いろんな世界に最悪な父親が いる──。
ところで、巨人の力の継承には、脊髄液
が重要らしい。
現実世界では骨髄バンクが当たり前になっています。『進撃』の世界では骨髄移植の技術が確立されていないのだろうか?
あるいは、「巨人になって食う」ことが重要だったり、「量」の問題なのかも。少量で済むんだったら、「巨人を催眠状態する巨人」が大量生産できてしまう(薄い本が厚くなる!?)。
良い子・悪い子・普通の子
ついにヒストリアが注射を打つ!
そこからの「まさか…
」「巨人…
」の流れが良かったですね! またダマされた!
ヒストリアの背負い投げが格好よかった!
前のページでロッドが叫んで つかんでくるコマからして、ヒストリアは すでに投げる気マンマンの体さばきに見えます!
調査兵団で人を相手に格闘の訓練もしていたけれど、柔道も習っていたのだろうか? アニ・レオンハートあたりに仕込まれたのかな。
あとはグレる一方のヒストリアでした!
「なにが オラだッ!」──じゃなくて「何が神だ!!
」とまで叫んでいる。ヒストリアというよりはヒステリーな感じ。
「胸張って 生きろよ
」とユミルは言ったけれど、そういう意味だったっけ……。
それでもヒストリアは根っからの良い子です!
「オレは いらなかったんだ
」と絶望するエレンに、「そんなことないよ って 伝えに行きたい
」とヒストリアは応える。この場面は感動しました(ちょっと J-POP っぽいとも思ったが)。
「最低最悪の 超悪い子
」なんて言う悪者は いない!
希望の薬瓶
エレンが飲んだ瓶には ある名前が書かれています。
カバー裏の逆さにすると、カタカナで記された日本語
に読める文字と同じ種類です。これも東洋系の種族から(間違った形で?)伝わった文化なのかも。
その名前とは──「ヨロイ ブラウン
」です。
あきらかに、「鎧の巨人」と化したライナー・ブラウン用の薬でしょう! ──いや、もしかしたら逆で、ライナーから抽出した体液(意味深)という可能性もある。
おそらく次の巻は、全身が鎧と化したエレンが みんなを守ると思います。最も戦いに 向いた巨人
であり超大型の巨人
よりも巨大になったロッドも、なんとか止められるのだろう。
しかし、エレンは それだけで済むでしょうか?
『ジョジョの奇妙な冒険』の「弓と矢」を思い出す。
普通の人からスタンド能力を引き出す矢は、スタンド能力者を傷つけることで、さらに能力を進化させました。
同じような効果が上記の薬でも引き起こせるのでは? 矢と同様に、いままで誰も試してこなかった可能性が高い。おそらくは かなり貴重な薬だからです。
エレンは「巨人を超えた何か」に なるのかも……。
王の記憶
瓶の文字をエレンが読めた、という点も興味深い。
父親を経由してフリーダから初代王の記憶を少しは受け継いだのでしょう。エレンの持つ「巨人を操る能力」は中途半端な力のはずですが、どの程度の記憶と力を持っているのかが気になる。
そもそも、ロッドの言葉は すべて真実だろうか?
「レイス王家の 血を引く者でないと 真の力が発揮されない
」とロッドは言う。しかし、グリシャのように、別の血筋の者が王を食らった過去など無かったように思う。
ケニー(とエレン)が聞いている事を計算に入れて、ロッドがウソをついた可能性が高い。すべてが真実では無く、すべてがウソでも無く、という所でしょう。
王位の継承を巡る未来の一手を予想しました。
「エレンとヒストリアの子どもが王になれる」という展開です。しかし、その行く手には、巨人よりも恐ろしい鬼嫁(ミカサ)が立ちふさがっている……!
おわりに
巨人の真実に迫るシリアスな展開の連続でした!
──が、ダリス・ザークレー総統の「アレ」は、すべてを台無しにするほど破壊力が大きすぎる……!
ザックレーは過去、「人生を捧げて 奴らの忠実な犬に 徹し この地位に 登りつめた
」「何十年もの間 奴らに屈辱を与える方法を考えていた
」とエルヴィン・スミス団長に語っていました。
憎むべき相手にザックレーは頭を下げ続けてきた。その苦渋を思えば、今回の「ロウトやホース」までは分かる。虐げられていた民衆の怒りを大便代弁したのです(いま何か混ざってなかった!?)。
ところが、問題は別の所にある。
「着用できる 衣服は膝から下の物まで
」の部分を見逃してはいけませんよ! もう一度あの場面を読み返してみよう! (イヤだろうけれど)
ザックレーは、「クーデターの準備 こそが生涯の趣味
」とも言っていました。たしかに、悪趣味 以外の何物でもない!