『バクマン。』 23 ページ 「天狗と親切」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 10 号)
人間は自分に興味があることしか見ない。
『可愛い写真を撮るには』 / 目と脳で見た物が違う : 亜細亜ノ蛾
自分の経験だけから話すと、「見えない」のでも「見たくない」のでもなく、本当に「見ない」のだ。意識的に無意識が興味の外を遮断する。
たとえば、戦争。または、痛ましい事件。
つい先日もそのようなニュースを「見た」気がする。「見たくない」のならチャンネルを変えれば良かったはずだ。でも、見た。その上で、自分の意識も無意識も、その悲惨な映像を「見なかった」。眼球には映っていたと思うのだが。見たはずの記憶も、いまでは おぼろげである。
そうやって、「平和で住みやすく、しかし不景気な日本国」を自分は見ている。不景気の割りには、毎日の食と職に ありつけていることを不思議に感じつつ──。色には縁遠いことを不満に感じつつ──。
なんの話だっけ? ──そうそう、「エイジは打合せとネームが嫌い」という話だった。やはり人は、自分に興味があることだけを見たいものだ。
打合せしたくない
サイコーとエイジ・福田との会話を通して、連載マンガの打合せを語る場面は、たいへん分かりやすい。読者にとって──とくにマンガ家を目指す人には、打合せの重要性がよく伝わっただろう。
少しだけ意外なのは、エイジは打合せをしないことについて、皆もしてないですよね
、と思っていたことだ。あまり、自分ひとりが突出しているとは思っていない(気付いていない)ようだ。思い上がっていない、という意味でもあり、まだまだエイジに伸び代が残っている。普段の言動が普通ではないので分かりにくいが、同好の士に囲まれている今が、エイジにとって一番楽しいのではないか。
打合せとはどんな感じ
か、とエイジは質問している。この 3 人の会話が、すでに打合せの予行演習になっているのだ。
福田の回想に出てきたような、「雄二郎と一対一で、ファミレスなどで打合せ」するエイジなんて、少し前までは想像できなかった。会話をそっちのけで、コーヒーに角砂糖を山ほど入れたり、パフェを何杯も平らげるエイジが目に浮かぶようだ(それ、キャラ違う)。
しかし、福田とサイコーという年の近い 2 人からの歯に衣着せぬアドバイスを聞いて、人からマンガの意見を聞く重要さがエイジにも分かった。独りよがりな天才から、次の段階へ進む道が見えてきたのだ。担当との打合せで、さらに面白い作品を描けるようになるだろう。──このさき、雄二郎がぶち壊しにしなければ……。
サイコーの声を通して、「ジャンプ」は 作家の描きたいように 描かせてくれる方
とも読者に伝えている。読む人によっては、強烈なアピールになったのでは。
この数ページは、アリガチなマンガ講座というか『鳥山明のヘタッピマンガ研究所』(よく覚えていないけど)みたいな流れだ。「説明ゼリフ」が多く、ベテランほど避けたがる場面だが、「デビューした天才マンガ家に対して初心者のような手ほどきをする、デビュー前のアシスタント」という逆転した構図が面白い。
面倒臭いです
さりげなく(?)先ほどは鳥山明さんの名前を出した。たまたま最近、Wikipedia で下の記述を見たからだ。
また漫画ではネームを描かずに、いきなり下描きから始めるという製作方法を取っている。これも「3度も描くのが面倒」だと、担当編集者の鳥嶋に進言したことによる。これに対し2代目担当編集者の近藤裕は「いきなり下描きが上がってくるから、描き直しをさせていいものかどうか」と、戸惑ったという。
他に「面倒くさがり」を表すエピソードとして、『Dr.スランプ』では背景を描くのが面倒で村を舞台にし、『ドラゴンボール』では、超サイヤ人は髪をベタ塗りせずにすむので時間短縮になる、フリーザの最終形態もシンプルなデザインにすることで作画の手間をはぶかせた、描くのに時間がかかる市街地などの背景はすぐに爆破(移動)させたい、などがある。
やはり、「マンガを描くのは好きだけど、ネームや打合せは嫌い」という作家は多いのだろう。
それよりも、「かわいい女の子は描きたいが、背景や男は苦手」という人のほうが多そうだ。とはいえ、自分が大好きな村田蓮爾さんや寺田克也さんなどは、かわいらしい女の子を描きつつも、味のあるオッサンも魅力的に描く。けっきょく、「女の子の絵だけウマい」という人は、絵が上手とは言わないのだろう。ある程度の得手不得手はあるだろうが。
エイジや鳥山明さん・寺田克也さんのように、下書きもせずに上手な絵を描くにはどうすればいいのか。ヒント(答え)として下のリンクを張っておく。
「先生」じゃない
エイジを知れば知るほど、思ったよりもマトモであることに気が付く。
初対面の時には すこし馬鹿にしているように見えた、エイジの「亜城木先生」発言の真相が明かされた。エイジが人と出会った場所をキチンと覚えているとは思わなかった。
前にも書いたが、サイコーとシュージンに出会ったときも、エイジの反応は普通なのだ。
バクマン。 #18-2 「ライバルと友達」 エイジの離れ業と仲間意識 : 亜細亜ノ蛾
立ち振る舞いが子どもっぽいことと、好きなことを素直に言い過ぎるというだけで、エイジは特異に見られてしまう。本当にエイジが変わり者や偏屈な人間なら、たとえば実家まで原稿を取りに来させたり、サイコーや福田の意見も「アシスタントのくせに」と聞く耳を持たないはず。
人の意見も取り入れつつ、ドンドンと成長するライバル──。これは、やっぱり王道(バトルマンガ)の展開だ。ワクワクすっぞ!