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『χの悲劇』 森博嗣 – また彼女に会える日

χの悲劇』 森博嗣・著

Network
世界を巡るネットワークは──神の手の上に

なんと、島田 文子が主人公です!
かつて「神」の近くにいた天才プログラマは、前作・『キウイγは時計仕掛け』にも出てきました。その時に島田の転勤先は示されています。
ということで──舞台は香港(ホンコン)です!

異色な始まり方に不満と不安が わき上がる。
加部 谷恵美は何をしているのか?」「海月 及介は いつ出るの?」──読み始めた頃は、そんな感想ばかりが浮かんできます。
ところが、読み終わった直後は、シリーズ中で もっとも衝撃を受けた一冊に なりました。いまではGシリーズで一番 好きな作品が この『カイの悲劇』です!

すべてがFになる』から読み返したくなりました。
アニメ版『すべてがFになるで島田を知った人は とくに驚いたはずです。森ミステリィの奥深さに震えるが良い……!

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『キウイγは時計仕掛け』 森博嗣 – 壊れやすい思い

キウイγは時計仕掛け』 森博嗣・著

Stained fruit 完全な内部と──完全な外部

また「ギリシャ文字の前に単語が入る」タイトルです。
2 作前の『目薬αで殺菌します』・『ジグβは神ですか』からの傾向だし、アルファ・ベータ・ガンマの順番に なっている。
スカイ・クロラ シリーズ」が(あとから発行された)『ナ・バ・テア』から始まるように、この「G シリーズ」も『α』が本当の事件の始まりなのでは……?

『キウイγは時計仕掛け』森博嗣|講談社ノベルス 『キウイγは時計仕掛け』森博嗣|講談社ノベルス

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村上春樹 『走ることについて語るときに僕の語ること』 走者も作家も継続が重要!

走ることについて語るときに僕の語ること』 村上 春樹・著

yellow
走者と作家の境界線は──あるようで ない

村上 春樹氏がマラソン走者として語る一冊です!

喫茶店の経営者として汗水を垂らす毎日だった村上氏が、なぜ小説家になったあと毎日 10km のジョギングで汗を絞りきることになったのか──。
あきらかに「健康な体で小説を書くため」とは思えないほど肉体を酷使する日々で、春樹氏が何を考え・見てきたのか──、が書かれています。

やはり小説家の視点──しかも頭に「一流の」が付く作家の目で見ただけに、ただたんに「何キロメートル走った」だけの記述では終わりません。短編小説集のような物語性が いくつも詰まっている。
軽く読めて深く感動できる──ハルキ小説と同じです!

ハルキ・ファンとしては、ローリング・ストーンズの『ベガーズ・バンケットを聞きながら走っている──といったトリビア的な情報も うれしい!

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石持浅海 『扉は閉ざされたまま』 密室殺人から始まるミステリィ!

扉は閉ざされたまま』 石持 浅海・著

the door that doesn't open II / 開かずの扉2
にゃんとしても──開けられない扉

倒叙(とうじょ)ミステリィの傑作です!

まず殺人事件が起こり、「犯人」視点で話が進む──。
刑事コロンボ』や「古畑任三郎」シリーズで有名な手法ですね。探偵役が いかにしてトリックを見破るか、ドキドキしながら犯人と一緒に読者は心理戦を楽しめます

登場人物は「クールな犯人役」と彼以上に冷たい「美少女の探偵役」で、「豪華な洋館」を舞台に「密室殺人」が起こり、とある事情で「なかなか警察も やって来ない」──。
アリガチな配役と設定で物語に入って行きやすかった。

ところが、よくあるパターンの作品では ありません。
「なぜ、貴方がそれを知っているのですか?」「──あ!」なんていう場面は、本作品には出てこない。密室を開けるために「鍵のかかった扉を、斧でたたき壊す」ことも ないのです。
古典の皮をかぶった新本格ミステリィでした!

文章の書き方に「5W1H」が あります。ミステリィでは「Who(誰が・犯人)」と「How(どのように・トリック)」が注目される。
しかし本作品では、ほかのミステリィでは後回しにされがちな「W」が最重要でした。その点が新しい。
ミステリィ初心者でも「犯人は誰だ?」を考えずに楽しめるし、ミステリィを読み尽くしたファンなら「意外な W 探し」に頭をフル回転したくなる名作ですよ!

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『死ねばいいのに』 京極夏彦 – 死者に生を求める

死ねばいいのに』 京極 夏彦・著

普贤菩萨
ただ正面から──見れば良かったのに

純粋に会話の おもしろさを味わえる 1 冊でした!

殺された女性について聞き回る男と、彼との会話で あぶり出される人間の醜さを描いています。彼の性格や言動が現代の若者らしく、読みやすい文体でサクサク進める。そして、ページをめくるごとに謎が深まっていく──。

京極 夏彦氏の作品なのに、文庫本で本文が 450 ページ足らずしかありません! 『絡新婦の理』と比べると、ボンレス・ハムとハムやケヴィン・ベーコンとベーコンくらい厚みが違う(?)。

「すべての行がページをまたがらない」ルールを今回も貫かれていました。もちろん、単行本版と文庫版とではレイアウトを変えてあるし、Kindle 版でも改行をそろえてあるはず。

細かすぎて伝わらない(こともない)本の組版(レイアウト)の話 | 亜細亜ノ蛾

できれば、内容は もちろんジャンルも知らないままに読んで欲しい作品です! 「なるほどな」と感心する部分が多く、最後あたりでゾクッとした怖さも感じられる。一気に読んでも楽しめるし、章ごとに読み進んでも満足できますよ!

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『ジグβは神ですか』 森博嗣 – 再会の喜びに飛び立つ

ジグβは神ですか』 森博嗣・著

Wrapped cat 包まれた世界は──完全なる密室

前作・『目薬αで殺菌します』に続いて、ギリシャ文字から始まらないタイトルです! そのことに意味があるのか どうかは、神のみぞ知る──。

『目薬αで殺菌します』 森博嗣 – 事件よりも大事な恋心とパソコン | 亜細亜ノ蛾

著者の森 博嗣氏によると、前作の発行から4年が経ちましたが、当初から予定していたことで、作品の中でも同様に月日が流れています──とのこと。

なんだ、てっきり講談社の中の人と仲たがいに なったのかと思った(α』の Kindle 版が出ているのに文庫は まだだし)。でも、「G シリーズは全 12 作」とは明記されなくなったよなぁ……。

2012-11-14T11:37:41+09:00 追記

小説に「あとがき」を書かないことで有名な森先生ですが、講談社の公式ページにコメントを載せていました! シリーズ半分の折り返しである「ηなのに夢のよう」(『η』は 6 作目)という記述から、全 12 作で間違いないようですね!

『ジグβは神ですか』森博嗣|講談社ノベルス

それでは いつものように、「謎解き」や「解釈」──などではなく、自分の感想をお送りします!

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村上春樹 『回転木馬のデッド・ヒート』 日常に潜む狂気と凶器

回転木馬のデッド・ヒート』 村上春樹・著

村上春樹氏が人から聞いた話をまとめた 1 冊です。

いつものように日常からファンタジックな世界へ急に突入する──といった場面は ありません。しかし、なにしろ話の聞き手がハルキだけあって、普通のエピソードでは終わらずに、どの話も幻想的です。

全 8 話の短編小説として読むこともできるし、「不思議だな」と読み流すこともできる。読み終わった後に背筋がゾクッと来る話もありました。

どの語り手も いわゆる「一般人」のため、芸能人のように派手な生活ではないけれど、それでも ありきたりの話では済まない。聞き手が良いことも ありますが、村上春樹氏の言葉を借りると、

話のほうから「話してもらいたがっている

──という印象を受けました。そう、どんな人にでも、胸の奥に仕舞っておけない話が 1 つや 2 つは あるのでは? 一流の話し相手が見つかると幸運ですね!

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村上春樹・安西水丸 『日出ずる国の工場』 明るく楽しく毒々しく工場見学!

日出ずる国の工場

2009_07_07_013114_PENTAX_PENTAX K-7 輝かしい光に包まれる工場──は出てこない

あなたの知らないハルキが見られる 1 冊です!

作家の村上春樹さんとイラストレータの 安西 水丸さんが一緒に工場見学をする。──という内容で、いわば「タモリ倶楽部」みたいなノリですね。

次の 7 工場を見学されています:

  • メタファー的人体標本
    • 京都科学標本
  • 工場としての結婚式場
    • 松戸・玉姫殿
  • 消しゴム工場の秘密
    • ラビット
  • 経済動物たちの午後
    • 小岩井農場
  • 思想としての洋服をつくる人々
    • コム・デ・ギャルソン
  • ハイテク・ウォーズ
    • テクニクスCD工場
  • とことん明るい福音製産工場
    • アデランス

ふふふ。結婚式場を「工場」と呼んでズカズカ入り込むところが楽しい! そして、その内容は もっと過激です。なぜか全編が毒だらけで、結婚式そのものに恨みでも あるのでは──と思ってしまう。

その逆に、アデランスの工場には感心されていました。なにしろ「世間の目という毒」に おびえる客を相手にしているから、社員まで滅入っていては商売になりません。ハゲしく明るい社内と技術力・将来性が素晴らしかった。

洋服好きの人は「コム・デ・ギャルソンの工場は どこにあるのか」なんて常識かもしれませんが──すくなくとも Wikipedia には書いてありません。知らない人には、ビックリするような実状ですよ!

コム・デ・ギャルソン – Wikipedia

ハルキ・マニアな人──は読んでいるだろうから、ハルキの小説に挫折した人へ贈りたい本です! 「精神的に不安定な女性」や「超・年の差カップル」や「幻想的な描写」や「羊」は出てきませんよ!

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森博嗣 『探偵伯爵と僕』は「子ども向けのミステリィ小説」という真意を問う!

探偵伯爵と僕』 (His name is Earl)

Untitled
物や思い出は──なくならない

子どもが語り、子どもが読むべき本です!

本書は講談社の「ミステリーランド」シリーズの 1 冊で、子どもの読者に向けたミステリィ小説ですね。多くの作家が作品を書き下ろしています。

講談社BOOK倶楽部:ミステリーランド
講談社BOOK倶楽部:ミステリーランド

著者の森博嗣先生は、いつも「子どもには一流の物を見せるべきだ」と主張されている。本作品も一級品の切れ味で読者に迫ります。

多くの人が児童書だと思っている『星の王子さま』のことを、「この本に書いてあることは子供には当たり前のことで、つまらない。大人が語り大人が読むべき本でしょう」(『森博嗣のミステリィ工作室』 p.128)とも書かれていました。

一見ひねくれているようでいて、いわば「子どものように純粋」な作者だから、本作品に描かれている子どもの視点も新鮮に感じます。たぶん、小学生くらいの子が読むと「そうそう!」と何度も うなずくでしょう。

ミステリィ小説だけあって、殺人事件が出てきます。だからといって「子どもみたいに」恐がらずに読んでください。かつて子どもだったあなたと少年少女のための物語ですからね。

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森博嗣 『悠悠おもちゃライフ』 趣味から抽象する人生の楽しさ

森博嗣 『悠悠おもちゃライフ』

Camera happy! おもちゃにも──趣味があるらしい

下のリンク先にある画像が、ネットで話題(←うさん臭い言葉の代表選手)に なっていました。

15年前の小説。 森博嗣すごいなあ on Twitpic

なんと森博嗣先生は、ラノベ作家よりも前に「フォントいじり」をしていた! ──という画像ではなくて(ぐにゃぐにゃ湾曲しているから)、小説に書かれている内容に先見性があるということですね。

ARTIFACT ―人工事実― : フォントいじりの歴史

「引用したなら『幻惑の死と使途』ってタイトルを書いておけよ!」とも思ったけれど、大好きな森先生に注目が集まる きっかけになったら、ファンとして うれしいです。

そう、われらがココロンの指摘していたように、しょーもない「炎上商売」の片棒を担ぐヒマがあったら、森博嗣先生とココロ社先生の著作を読んだほうが、65565 倍も人生が充実しますよ!

学費援助サイトを叩いた人も、ひとり900円くらい援助していたことになる – ココロ社 ♪ほのぼの四次元ブログ♪

森先生から考えをいただくのであれば、『悠悠おもちゃライフ』がオススメです! 先生の卓見がギュッと 1 冊に濃縮されていて、1 ページに 1 枚以上の写真が載っている。しかもオール・カラーという豪華版ですよ!

読んで・見て・楽しめる単行本です!

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