バクマン。 #25-4 「嫉妬と愛」 亜豆の愛とサイコーの決意

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『バクマン。』 25 ページ 「嫉妬と愛」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 12 号)

walkaway (by Meredith_Farmer) (by Meredith_Farmer)

サイコーはいつも強い意志で真っすぐ前を見て進んできた──と思っていたのだが、見方によっては流されているようにも見える。ふと、そう思ってしまった。

子どものころにマンガ家になりたかったのは、サイコーの意志だ。川口たろうの影響は大きいが、「おじさん」はサイコーにマンガ家への道を勧めなかった。

しかし、ふたたびマンガ家を目指したのは、シュージンの誘いからだ。亜豆との付き合いで「会わない」と決めたのは、亜豆である。さらに、描くマンガの内容をシュージンや服部が決め、エイジの影響で原点に帰ってきた。

それに、サイコーのおじいちゃん(と父親?)の意向で初めからサイコーはマンガ家になる道しかなかった、とも取れる。そうでないなら、何のために川口たろうの仕事場をそのまま残したのだろうか。

ただ、これは意地の悪い意見だ。それを言い出すと、ほとんどの人が他人の影響で人生を決められている。自分もそうだ。親と環境が違えば、違う人生を歩んでいただろう。

ある程度は周りに決められた枠組みの中で、サイコーは必死に自分の信じる道を行く。その道には、シュージンも一緒についてくるのだろうか──。

高木先生

サイコーとシュージンとの間では、すれ違いがまだまだ続いている。

4 週間もの間、シュージンがサイコーに連絡していなかった、という事実が驚いた。それを待ち続けたサイコーは、どんな心境だったのだろう。疑心暗鬼を生ず、の状態になったのでは。自分だったら、耐えられない。

2 人がすれ違っているやり取りは見事だ。シュージンはハッキリとネームを描いていることを伝えた。しかし、いまのサイコーには──公園で抱き合うシュージンと見吉を見たサイコーには、信じられなくなっている。前回の感想でも書いたが、自分は勘違いが中心の展開は好きではない。読んでいて「あー、もう!」とイライラしてくる。しかし、今回の 2 人のやり取りは、実際にも起こりそうな状況で納得できた。

今回のサイコーとシュージンは、お互いに まったく的外れなことを言っているわけではない。あとほんの少し、歩み寄りの姿勢があれば、すぐに誤解が解けただろう。いつもの 2 人なら、簡単にできたはずなのに……。こうして見ると、「見吉のせい」に思えてしまうのが(見吉が好きな自分には)ツラいところだ。

すっかりと秘書のようになっている見吉がかわいい。しかし──自分で小説を書くつもりは、まったくないようだ。それが少し残念である。小説家・見吉カヤを見てみたかった……。

一緒にいるのが普通だ

サイコーと亜豆が 普通じゃないんだって」とシュージンは言う。これは、いつもシュージンが言っていることだ。サイコーもいつもなら聞き流していた。どちらかというと、サイコーの中では普通ではない・つまりは「特別な関係」と思っていたはずだ。

それなのに、このような状況で言うと、険悪な雰囲気になってしまった。言われたサイコーも、亜豆との間を疑ってしまう……。悪いことは連鎖していくものだ。

とは言え──何度も何度も描いているが、中高生の恋愛で、ここまで耐える恋・しのぶ愛を続けられるのがスゴい。異常だとさえ思う。

たとえば、10 年以上も付き合った男女とか、夫が単身赴任中の夫婦とか、そういった強い結びつきや信頼の関係にあるのなら分かる。しかし、(小学校のころから好き同士とはいえ)付き合ったことのない男女が、ここまでお互いを信頼できるのは、普通ではない。

自分は「物語に共感は不要」と主張している。そうではない読者──共感を求めて本作品を読んでいる人は、サイコーと亜豆との恋愛を「うん、分かる分かる!」と思うのだろうか。もしくは、理想の恋愛として見ていたり。

自分は、「とにかく会えない人は、ダメ」なので無理だ。そういえば、古い友人がカノジョの条件に「会える・話せる・ヤれる」を挙げていた。生活の時間帯が合い、話題が合い、カラダの波長も合い──というところか。まったく同意である。「──それって、セフr(以下、自重しる!)

質問です……

サイコーからのメールを見た亜豆の表情が切ない。直前のうれしい笑顔との差が、余計に悲しく見える。

メールを出したあとのサイコーには、ものすごく共感できる。本作品を読み始めてから、一番サイコーに近づいた。いまのサイコーとなら、美味しく酒が飲めると思う(最近のネット事情からすると、架空のキャラでも「未成年への飲酒を勧めた」と通報・タイーホされたりして)。返事が気になって仕方ない・返信が遅い理由をアレコレ考える・挙句の果てに遠くへ行ってしまったと思う・返信が来ると光速で携帯電話を開ける──ものすごくよく分かる。

自分の恋愛も、そんなことの繰り返しだった。待つ側はツラい──が、待たせる側は決まって「ワタシも苦しい」と言う。「んなワケねぇーだろ! 待つほうがツラいに決まってる!!!!」──と 100 万回言いたかったが、涙を飲んで口をつぐんだ。生まれてから一生、「ブラウン管やモニタの向こう側の住人」にだけ恋をすれば良かった──というのは言い過ぎだが、たまには そう思う。

珍しく亜豆の心中が描かれる。しかし、難解だ。ガモ──大場先生、分かりません!

亜豆がサイコーと会わない理由は、本当に夢と約束を大切にしたいからなのか。夢はともかく、約束は亜豆が一方的に言ったものだしなぁ……。なんとなく、何かをごまかしているように見えてしまう。亜豆からすると、いまの付き合い方が自然な姿に見えるのだろう。しかし、サイコーに「強いる愛」になっている気がする。

恋愛マンガとして『バクマン。』を読んでいる人口がどれくらいいるか知らないが、女子の意見も聞いてみたい。亜豆って──どうなん? こういう恋愛は、アリ?

一人でマンガを描く!

サイコーがシュージンとコンビを組んで以来、はじめて自分ひとりでマンガを描く決意を固めている。自分は、これは良い決心だと思う。シュージンを信じる気持ちを持ちながら、それに依存しすぎない。必要であれば、自分が話を描く。そこには、ほどよい緊張感と厳しさを感じるのだ。

──まぁ、ストーリィ上、そんな展開にはならないと思うが……。

シュージンがネームを書いている場面は、少し違和感があった。いつもなら、シュージンが書くジャンルは次週で明かすだろう。そのほうが驚く。しかし──この場面で重要なことは、そんな どんでん返しではない。シュージンが描き上げるネームを、サイコーがどう評価するかだ。

会わない期間が恋愛を育てる。同様に、サイコーとシュージンとのマンガへの思いも、夏休みの間に熟成されただろう。2 人の描きたいマンガが一致した今、一番の傑作が生まれるに違いない。ただし、お互いを信じた状態で会えればの話だが……。

コメント

  1. hiro より:

    私は三吉は好きでも嫌いでもありませんが、三吉のせいでコンビに亀裂が――という今の展開は納得いきませんね(秘書三吉が普段より可愛くみえたのでなおさら)。三吉の扱いが可哀相です。作者は一旦コンビ解消して、サイコーがひとりで漫画をやっていく経験を積ませてからもう一度結成というストーリィにもっていきたいのかな?と邪推してしまいます。ピンでやった経験を積んだほうがサイコーは漫画家として成長しそうですからね・・・アシ編を見て思いました。
    シュージンの彼女を亀裂の材料に使ったのは、コンビ解消のためにジャンプ読者に納得できる理由を作り出すためではないでしょうか.
    十代の男女にとっての「夢」を差し置いてうつつを抜かすほどの関心事は、恋愛でしょう。
    関係ないですが今週の服部さんもよかったです。
    当方女ですが亜豆の気持ちは皆目わかりません。が、仕事で忙しいのでメールで励ましあって、余裕のあるときに数時間だけ会う形のほうが楽、という気持ちでは共感できます。メールだけだと、いくらでも気配りと思いやりにあふれた女性でいられますし、狭量を見せ付けて相手に幻滅されることはありませんから(これは亜豆の意見ではなく、私個人の意見です)。
    長文失礼しました。

  2. asiamoth より:

    シュージンのネームが遅れたのは見吉のせい──と誰でも思いますよね。しかし、当のシュージンは、かたくなに認めない。そこに男気を感じてグーです。女々しい自分にはマネできない……。
    でもまぁ、「26 ページ」を読む限り、シュージンは恋愛にうつつを抜かしていたわけではないようです。それを信じたいですね。
    亜豆の気持ちは分かりにくい! 単純な遠距離恋愛でもないし、(オトナの)割り切った関係でもない。それに、サイコーが成功しなかったら恋も終わりなのか、という疑問もあります(ニンジンを追うウマのように見えたり)。
    「亜豆のことが理解できるワタシ」をネットで見かけないし、よっぽど亜豆が変わっているのでしょうか……。