『バクマン。』 36 ページ 「沈黙と宴」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 24 号)
今回の感想を書いた範囲では、港浦の言葉がとくに印象に残った。連載の当初は話を完結させるために遊べない
というのである。ムダのある話のほうが、港浦の好みらしいのだ。
今週から始まった『めだかボックス』は、適度にムダがあって、次回への「引き」も十分にあり、バランスが良い。
しかし──すこしだけ もり込みすぎな気もする。それくらい「モリモリ」じゃないと、イマドキのジャンプではコミックスの 2 巻目が出せない──のかもしれない。キビしい業界だ……。
どうでもいい話だが、「盛り」と書いて「もり」とも「さかり」とも読むことに、いまさら気が付いた。もちろん、意味が異なる。
Google(など)で「猫 盛り」と検索すると、両方の意味で結果が出てくる。どちらでも、楽しい。ネコならではの結果だ。
──これが「女」なら(以下省略)
勘かな……
高浜と加藤に、小河はキツい質問をする。そして、小河自身の意見も意外であった。
あれだけテキパキと仕事の話を進めた上で、小河の口から出た言葉とは思えない。それくらい、衝撃を受けた。
しかし──よく読んでみると、『疑探偵 TRAP』のことを、小河は本心から心配しているのかもしれない。ただ、彼のクールな態度から語られると、「仕事だからやるけど、すぐ終わるだろう」と思っているように見えてしまう。
誠意を持って仕事をこなすし、画力と人を見る目もありそうな小河だが、その態度で誤解されたり損をすることもあるのでは──と想像した。そういう人は、けっこう多い。
さらに意外なことに、小河は自分でストーリーを見る目がない、と断言している。おそらく、初めは人から指摘されながらも話を作っていたのだが、次第にあきらめてしまった(あきらめざるを得ないと悟った)──のだと思う。
小河自身は「話は作れない」ことを、残念に思っているようだ。いまはアシスタントの仕事に専念しながらも、いつかは自分のマンガを描く気がありようにも見える。
さて、そんな小河に、亜城木夢叶というコンビは どう見えただろうか。
「話が作れない」サイコーは、「絵が描けない」シュージンと組んで、ジャンプでのデビューを決めた。──その 2 人を「先生」と呼ぶ小河の心境が気になる。
いちおう書いておくと──。もちろん、アシスタントという仕事はマンガ家よりも劣る、と言いたいわけではないのだ。小河が心から望んでアシスタントをやっているのならば、何も問題がない。ただ、すこし悔やんでいるように見えたのが、気がかりなのだ。
小河の表情が見えないせいか、ハツラツとしてアシスタントの楽しさを加藤が語りかける。それが小河の無念さを強調しているのだ。いつもながら、見事なコマの使いかたである。
その直後──高浜の顔のアップは、なんだろうか。
普通に見れば、不満を持った人の表情に見える。アシスタントのままでいようとする 2 人を見て、「自分は違うぞ!」と言いたいのだろうか。それとも、高浜も連載が長続きしないと読んでいるので、アシスタントをやめる検討を始めたのかもしれない。
まぁ、これがいつもの高浜の表情、というのが真実だったりして……。
正直に言うぞ
高木に作品のデキを聞かれた港浦は、珍しくあいまいな答えを返す。
「硬いと 思ってる!
」などと言われれば、シュージンじゃなくても真意を問い質したくなる。港浦らしくない、煮え切らない言葉だ。
「私のどこが好き?」と問われて、「すべて」と答えるようなものである(それ以外の選択肢がない時もある)。
ところが、すぐあとで港浦を見直す。やはり、彼はデキる編集者のようだ。
港浦が説明した中でも、「余裕がない
」という言葉は、とくに説得力があった。たしかに、ジャンプの新連載は、ギリギリまで「おいしいところ」を詰め込んでいる。そうしないと読者を引きつけられないのだろう。
キッチリしている
服部のマジメな性格までも引き合いに出して、港浦はよく『TRAP』を読み込んでいることが分かった。自分の中で、港浦の評価が急上昇している。
あれ? 自分にはココロに決めた人(服部)がいるのに……。なんだろう、この気持ちは…… ////。
(asiamoth は男だし、そのケはないし、冗談で書いているので、そのつもりで……)。
まぁ、そのあとで根性論を丸出しにして台無しにするのが、港浦の持ち味である。ここまで信念を突き通せば、いつかは真実になるかもしれない。
そう! この時点で担当者の意見だけを信じていても、仕方がないのだ。読者がどう思うか、アンケートの結果が出るまでは、自分を信じるしかない。
亜城木の 2 人は完全に引きまくっているが、港浦はじつに良いことを言っている。ここに引用しておこう。これは、マンガだけではなく、すべての創作に当てはまることである。
「やるからには 絶対人気が出ると思って やる !!」
「作ってる人間が 面白いと思って作らなきゃ 作品は絶対に 面白くならない !!」
「そして 自分達の作品を 楽しんでくれる人が いる それを喜びとし より楽しんで もらえるように 話を作って いく !!」
空気が重い……
何とも重苦しい仕事場でサイコーが悩んでいる。初めてアシスタントを雇ったマンガ家は、みな同じ事を気にするのだろう。だんだんと、ガモu──いや、作者の実体験が入ってきているようだ。
見吉と高木は仲良く手をつないで歩いているのが、ほほえましい。苦しむ真城とは対照的だ。
シュージンは心の中で思う。──「と言って おこう
」って何だ !? すこしは加藤のことを意識しているのだろうか。
高木の言葉を聞いて、どうにかなる可能性
をサラッと言う見吉もスゴい。言葉の一つ一つの、発声のすみずみにまでトゲと毒が仕込まれているのだ。
女性と付き合っていると、このような「一見すると さりげない会話だが、一回のミスで致命傷」という言葉の応酬を何度も経験する。つねに真剣を持った同士で向き合っている、という意識が必要だ。
自分は そのような真剣勝負から解放されて、ああ、気が楽だ……(でもこのドンヨリした気分は何?)。
シュージン来た!
まだまだサイコーは悩み続けている。ここまで悩むのは、亜豆へ初めてメールを送ったとき以来だろう。
ただ──真城の性格上、こうなるのは自然な流れだ。
彼は、自分の興味がある人物に対しては積極的に話しかけるが、そうでない対象は ほぼ無視をする。自分も同じなので気持ちはよく分かるのだが、こういう状況で息苦しい気持ちを味わう。
『バクマン。』の連載が始まった当初の冷め切ったサイコーなら、気にしなかったかもしれない。そういう意味では、人を気遣う気持ちが持てて、サイコーも成長したということだ。