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『なるたる』 - 作・画: 鬼頭莫宏

Sommermorgen
(華の甘い芳香に誘われた者は──)

『なるたる』は、メルヘンチックな童話です!

──頭に「本当は恐ろしい」が付く童話だけど……。

この作品が「月刊アフタヌーン」で連載していたころに、第 1 話から読んでいました(途中で「アフタヌーン」ごと買わなくなった)。その当時は、「小難しいことを話すキャラがいるな」程度の印象でしたね。

ところが、単行本でまとめて読むと、じつに面白い!

ただし、人に伝えにくい面白さを持っている作品です。よく比較される『新世紀エヴァンゲリオン』(旧ゲリオン)や『最終兵器彼女』とも違う。

いわば、「不愉快な痛快さ」を感じる作品です。

少年マンガにアリガチな、「悪を倒して正義が勝つ!」というストーリィ展開に飽きたら、『なるたる』の世界を見てみてください。おそらく、次回作の『ぼくらの』にも手を伸ばすことになりますよ。

単行本は全部で 12 巻ありますが、長い間、絶版だったそうです。出版社側の都合なのか、内容が問題なのか、どちらかは知りません。幸いにして、現在では普通に購入できます。下のリンクからぜひどうぞ!

今回から 3 回連続で、4 巻ずつに分けて感想を書いていきます。まずは、比較的おだやかな展開である、1-4 巻の感想からですね。

第 1 話で 80%

Wikipedia によれば、第 1 話「それは星のカタチ」の時点で、ストーリィの 8 割くらいとラストが決まっていたそうです。

なるたる - Wikipedia

それはもう、再読すれば一目瞭然ッ!

玉依シイナ(たまい──)が自分の名前を気に入っていなかったり、自分の夢を描くには地球くらいの大きさが必要──と言っていたりする。また、遭遇した未確認物体につけた、「ホシ」という名前もイヤミったらしい。

「え、こんなにヒントを出しているのに、わからないの? どうして?」と作者に頭上から言われている気がします。

こうなると、シイナが着ている水着だけタイプが違う(ほかの女子は旧スク水)ことや、シイナの体形が男子と大差ないことまでもが、なんらかの意味が込められているのでは──と思ってしまう。

(──あ、なにげなく書いたけれど、ナウシカの胸が大きい理由とは逆の意味を込めているのかもしれない。やっぱり深いな。谷間は浅いけど)

置いてきぼりの謎

謎を謎のままにして話が展開する──というミステリィ的な要素があります。ただ、やっかいなことに、説明不足(説明する気がない)なのか、謎なのか、ハッキリしない部分が多い。

たとえば、鶴丸丈夫(つるまる たけお)と古賀のり夫(こが のりお)という 2 人の若者が、シイナの父親・玉依俊二(たまい しゅんじ)が操縦する飛行艇に搭乗して登場します(ダジャレ)。

このタイミングで、わざわざ飛行艇に2 人とも乗っている理由が、よく分からない。単なる顔見せのためなら地上でもいいはずです。そして笑えることに、あとで 2 人ともシイナから忘れられているという……。

でもこの、「一度会ったことがある人物同士でも、忘れることがある」のは面白い! この要素を盛り込んだミステリィを書くと、一風変わった作品に仕上がることでしょう(読者に受け入れられるかどうかは別)。

すべてのキャラクタが、初対面の時に聞いた名前を漢字の書き方まで含めて記憶する──。それがミステリィ界の常識ですからね。自分なんて、何度お会いしても名前を覚えられない方がいらっしゃいます……。

まぁ、この作品の一番の謎は、鶴丸が異常なまでにモテることですねッ! なるべく客観的に見ても、どこにモテる要素があるのかが分からない。

あまり謎を追いかけるような読み方をするよりも、感じるがままに、素直に読むことをオススメしますね。謎解きは読み終わったあとでいい。何しろこれは、童話なのですから……。

多重構造の人物描写

どのキャラクタも、単純な性格をしていません。読む人によっては、ヒネくれている──と感じるかも。しかし、そもそも、そんなに一本調子な人間はいないでしょう。語尾が毎回同じ人なんて、普通はいないってばよ!

4 巻までの描写で、自分が気に入っているキャラクタは、小森朋典(こもり とものり)です。ベロ出しと帽子・90 年代なファッションがイカス! 彼のことは、「イカ王子」と呼びましょう。

そして小森は、じつに素晴らしい中二病患者ですね! あんたは どうする? 俺は 世界のカタチを 変えるよ、なんてセリフを呼吸と同じレベルで吐く。背中がゾクゾクしますね!(夏風邪かも)

小沢さとみ(おざわ さとみ)も小森と同様に、初登場からしばらくは、非ッ常~に、にくッたらしい性格で描かれています。

ほかのマンガでは、モブ(背景キャラ)以外の女性キャラは、かわいらしく描かれることが多いです。商業的な理由からも……(グッズとか)。

ところが、さとみはハナから全力で飛ばします。「自分にとって都合のよい女性像」を求める読者には、さげすんだ目──を向けることすらなく、無視する。自分の利にならない人間は、鼻にもかけないのです。

ぜひとも、さとみの実写版は、栗山千明に演じていただきたく……。

『なるたる』に登場するほとんどの人物は、初対面の時にはイヤな印象を受ける。しばらくすると、別の面が見えてきて、だんだんと好きになっていく──。

右肩上がりで印象が良くなる人のほうが、結果的に好印象を受けるのです。人物の描写に優れた作品にも、この印象操作が多く見られる。

その逆に、「最初だけいい顔をしていて、あとからイヤな本性が見える」人──、

そんな人、近くにいませんか?(あなたのゼロ距離に)

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