『屍鬼』 8 巻 小野不由美×藤崎竜 – 恋も思い出す小芋の思い出

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『屍鬼』 – 原作: 小野不由美, 漫画: 藤崎竜

Nikkorogashi of Satoimo
(煮崩れていない新鮮なモノが良い──小芋も恋も)

ようやく、『屍鬼』第 8 巻の感想まで来ました! いま(2010/08/19)のところ、このコミックスが最新刊になります。

これからも、最新刊が出た直後に感想を書く──ことができたらいいな、と思いながら頑張りたい今日この頃。

今までのコミックスの中では、第 6 巻が大きな転換期だと思っていました。まずは、結城夏野(ゆうき なつの)の一件ですね。それを含めて、尾崎恭子(おざき きょうこ)への愛情たっぷりな感想を、前回に書きました。

『屍鬼』 6~7 巻 小野不由美×藤崎竜 – 生きる苦しみ・不死の痛み : 亜細亜ノ蛾

しかし、8 巻はそれ以上に大きな動きがあります!

また、今回は『屍鬼』の設定について感じた疑問を書きました。なんだか揚げ足を取る(カラアゲ好きのことではない)みたいになりましたが、作品に対する愛ゆえ──と思って見逃していただきたく。

自分がコミックスを購入した(近所にある普通の)書店では、下のカードが付いてきました。桐敷 沙子(きりしき すなこ)のイラストがキュートです!

2010-08-20_011114_Canon EOS 7D_28-75mm

尾崎への不信

尾崎敏夫(おざき としお)に対する不信感が、院内にはびこるようになりました。これは、敏夫にとって手痛いですね。ただでさえ頼りになる味方がすくない状況なのに、人間にまで敵を作っていては、先が不安です。

そもそも、敏夫は他人に頼ろうとしない。いまとなっては、敏夫と一緒に戦えるような味方は、夏野くらいです。室井静信(むろい せいしん)も、「ああ」なってしまったし……。

尾崎医院で、もっともセクシィな衣装(網タイツにガータ・メイド服など)を着るお色気要因・橋口やすよ(はしぐち──)が、最後まで生き残りそうな気がする。それに、けっこう──強そう。

「人狼」の存在

辰巳(たつみ)が語った、屍鬼の亜種──「人狼」の特長は、下記の通りです。

人狼は 呼吸も脈拍もあり 昼間も出歩け ごく普通の食事でも 持ち堪えられる

身体能力も 強化され 五感にいたっては 人の倍以上だ

屍鬼 (8)

ようするに、「人狼」には致命的な弱点・欠点がない。完全に「屍鬼」を超えている。

それなのに辰巳は、吸血鬼モノの映画に出てくるような狼男の下男、と自分たちの存在を呼んでいるのです。

これは、かなり──アヤシイ。

いまの辰巳がいる状況──桐敷家の使いっ走りは、普通なら面白いわけがない。「屍鬼」以上の存在なのに、どうして「人狼」の辰巳が使用人に甘んじているのか。

想像するに、倉橋佳枝(くらはし よしえ)や夏野と組んで、辰巳はクーデターを起こす気なのでは。

辰巳がその気になれば、「屍鬼」である桐敷千鶴(きりしき ちづる)や桐敷沙子(きりしき すなこ)は、昼間に外へ放り出せば済む話です。「ただの人間」である桐敷正志郎(きりしき せいしろう)など、何とでもなるでしょう。

ほかの「屍鬼」たちも、けっして「桐敷家の言うことなら何でも聞く」というワケではないはず。

つまり、いつだって辰巳が頂点に立てる。

ただ──、現在でも、実質的に「屍鬼」たちを束ねているのは、辰巳と佳枝です。桐敷家についていたほうが、何かと自由に動けるのでしょう。だからこそ、あえて「人狼」は下手に出ているし、桐嶋家の人間もそれを利用している──ということか。

それでも──、桐敷正志郎の存在は、いつか不要になりそうな気がしますけれど……。

「屍鬼」の限界

「人狼」の特長が分かったことで、改めて「屍鬼」の存在に疑問が出てきました。

よくある吸血鬼モノの話だと、「人狼」ではなく吸血鬼が特別な力を持ちます。人よりも素早く動けたり、怪力だったりする。

ところが「屍鬼」は、薬物や外傷に強くて不老不死──という以外には、人間を超越した部分がないのです。

何が言いたいのかというと──、単純な話、そんな普通の人間と同じ腕力の「屍鬼」が、何人も襲えるのだろうか、という疑問がある。

「屍鬼」は、一度でも吸血すれば人間を言いなりにできるのですが、その初回はムズカシイのでは? 清水恵(しみず めぐみ)が一晩に何人も襲ってきた──という描写がありましたが、別に彼女はマッチョでもない。

生き残った村人たちの中にも、「起き上がり」の可能性を考えている者が増えている。そんな状況で、夜中に堂々と楽しそうに歩いている人物には、人一倍の注意を払うはずです。なのに、「人間を捕まえようとしたけど逃げられた」という場面がない。

さらに、尾崎敏夫も試しているようですが──、たとえ吸血されても、輸血を続ければ、「屍鬼」にはならないのか? という疑問も湧いてきます。

さらにさらに、律っちゃん(りっちゃん)こと国広律子(くにひろ りつこ)が「屍鬼」になった過程も気になる。彼女は吸血されたあと、過呼吸による死で「屍鬼」になりました。これは「吸血による死」とは言えないのでは?

「起き上がった」あとの律子には、脈がない。このことから、彼女は「人狼」ではないことが分かります。ただ、上記の理由から考えて、「屍鬼」とは違うのかも。人間を含めると、「第 4 の存在」なのでは。

もしも律子が普通の「屍鬼」であれば、一度は吸血したあとに何らかの原因で死ねば(殺せば)、その人間は「屍鬼」になる──という可能性があります。もちろん、「屍鬼」にとっては吸血こそが目的なのですが。

うーん、「屍鬼」の定義がゆらいできたような……。

「招待」の定義

「招待されていない家には、『屍鬼』は入れない」というルールも不思議です。

たとえば、こんな状況ではどうなるのだろう。

  1. A の家に B が遊びに行く
  2. この時点では A も B も招待していない
  3. A が出かけて B だけが家にいる
  4. やって来た「屍鬼」を B が家に招く

さて、この状態で B に招待された「屍鬼」は、「A の家」に入れるのでしょうか? 仮に入れたとして、では、A の家に A だけがいる場合(まだ A は招待していない)では?

あとは、家の定義も気になります。「起き上がり小屋」という場所が出てきますが、あれは家の内に入るのだろうか? 「屍鬼」にとって小屋も家に値するのであれば、犬小屋やテントが簡易バリヤになりそう。

終わりに

今回の「沙子語録」はお休みです。というか──、ワタシの心は桐敷千鶴に傾きつつある! それくらい、今回の千鶴はかわいらしかった。

とくに、千鶴が人間だった時代と、人間に 戻りたいの かしらという感情を見られたことが、とても良かったです。惚れる。

自分が敏夫の立場だったら、すべてを投げ出して、千鶴について行ったことでしょう。

「屍鬼」には絶対に不要な包帯を特大の宝石が ついた指輪でも 眺めてとても 自慢で 嬉しいの! と喜ぶ千鶴は、背景のエフェクトどおりに輝いている。

でも──、桐敷千鶴の行く末が輝かしいモノではないことは、すぐに分かりますけれど……。