スカイ・クロラ
監督・押井守、原作・森博嗣のアニメーション映画『スカイ・クロラ』の感想も、今回で 3 回目です。
前回に引き続き、登場人物の感想を書きます。
『スカイ・クロラ』の主人公、草薙水素と函南優一 : 亜細亜ノ蛾
主人公が魅力的で、視聴者をぐいぐいと引っ張っていく──という(ジャンプマンガのような)作品ではないので、脇役たちの存在感が大きいです。とくに、今回紹介するキャラクタは、スピンオフ作品が作られてもおかしくないくらい。
押井守監督最新作 映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」公式サイト
土岐野尚史(トキノ・ナオフミ)
ユーイチの良き相棒。じつは、本作で一番好きな人物です。
『ときメモ』の早乙女好雄(さおとめ よしお)、あるいは『To LOVEる』の猿山ケンイチ(さるやま)のような存在、といえば人類の 8 割以上が理解できる、と期待しています。それくらい、友人の面倒見がいい(主人公にそれほど感謝されていないのも似ている)。
「うつ映画」と揶揄(やゆ)されることが多い押尾作品の中で、「出てくる映画を間違えたのでは」というくらい明るくてノリがいい。
しかし、同僚の死を多く見てきたようなので、そのつらさを乗り越えるために、わざと明るく振る舞っているのかも。もしくは、キルドレとして長く生きているので、死への恐怖が麻痺しているのか……。
声を当てた谷原章介(たにはら しょうすけ)さんが抜群でしたね!
ほかの俳優・女優さんも同じですが、昨今の「売れているタレントや芸人が声を吹き替えたら売れるんじゃね?」という、中■産のパクリキャラなみに浅はかな風潮を永久に封印できるくらい、キャラに「命を吹き込んで」いました。
それだけに、「子ども」にはまったく見えず、「何か裏があるに違いない」と途中から伏線を逃さないように見ていましたが──、そういう裏はなさそう。
自分がトキノだったら、あんなにも笑っていられるかな……。
三ツ矢碧(ミツヤ・ミドリ)
栗山千明様! が声を吹き替えている、という事実だけでお腹がいっぱいです。森作品に千明様が関わっているなんて、世の中まだまだ捨てたもんじゃないな──、というか、3 回くらい捨てても救われるくらいの奇跡(意味不明)。
全人類の代表的な美貌を備えた彼女(オレ調べ)が演じるのは、意外にも「普通の女の子」。
作中で唯一、自分がキルドレであることに疑問を持って、苦悩している。
まともな精神だったら悩みそうなものなのに、スイトやユーイチたちは、自らの運命を受け入れている──、いや、どこか、あきらめているようにも見える。
そんな中、ユーイチに対して絶望感や不満をぶつけたり、ラストで「仲間」の死に涙をミドリは、「浮いた存在」でした。千明様が演じているから、孤高の存在として浮いている──、わけではなく、キルドレとして生きるのが、本当につらそう。
まぁ、「恋愛映画」的には、「ユーイチを巡ってスイトとミドリ、フーコも参戦してのバトル開始!」が見たかった気もします。「ラブコメ」ではないので、無理だけど。
正直、ミドリがスイトに対して「嫉妬と嫌悪の目を向けている」(パンフレット p.008)理由が分かりませんでした。スイトの「妹」・ミズキに関することなのか、それともユーイチとスイトの関係? 「同じ女として」ならば、ひょっとするとあこがれの裏返しなのかも。
フーコ
要所要所で登場する謎の女。「この職業」は森作品では珍しく、初めのほうで「お店のシーン」が描かれたのはビックリしました。
謎は謎のまま、「あの人は何だったんだろう」で終わった感がするのですが、パンフレット 58 ページの
「スイトとフーコ同一人物」説
は、かなり衝撃的!
もちろん、完全に同一人物として考えると、無理があります。しかし、フーコがスイトを車で運ぶシーンを見ると、意図的に同一人物であることを臭わせていますね。実写なら、一人二役にするところでしょう。
あくまでも演出としての表現だと思いますが、この「本筋外のトリック」が、じつに森作品らしい。
ユーイチが前任者の説明を求めたところ、トキノはフーコを紹介する──という流れが前半の謎でした。後半でその意味が分かると、何とも皮肉な顔合わせですよね……。
ところで、作者の良心というか何というか──。フーコの職業って、それこそキルドレに任せそうなのに、大人が働いているんですよね。まぁ、いろいろと世間的に問題がある描写になるし、なにより、大人たちが子どもを支える、という構図を描いているのでしょう。
それにしても、もしもフーコがキルドレ(子ども)だったら……。という同人誌がありそう。
まとめ
脇役に味があるキャラが多い。というよりも、ユーイチが本当に「語り部」という感じで、キャラクタたちのガイドをしている感じ。
いまでも、振り返ると「いい映画だったな」と余韻に浸れます。DVD が発売されるのを待つ間、もう一度見に行こうかな。
みなさんもぜひ、劇場へ足を運んでください。