HUNTER×HUNTER No.296 『記憶』 (週刊少年ジャンプ 2010 年 11 号)
今週号の『ヘタッピマンガ研究所R』は、前回に引き続き、「冨樫先生へ突撃取材 !!」でした。前回はスルーしてしまいましたが、面白いことがたくさん描かれています。
──ただ、あまりにも冨樫先生ご本人に焦点を当てた内容で、マンガを上達したい人向けの内容ではなかったような……。ファンにはウレシイですケド。
後半に出てくる、話作りのために短編小説をたくさん読んだ、という話がタメになりました。そこから話を広げるにはどうするか、と考えながら短編を読んだそうです。たしかにこれは、メチャメチャ話を作る力が付きそう!
短編小説は、文字数がすくないから書くのが簡単──と思っている人はいませんか? それは認識が甘い! 実際には、長編小説と同じくらいに内容が詰まっていないと、面白い話にはなりません。
短編とは、長編が書けるネタで書く短い作品だと思う。
『森博嗣のミステリィ工作室』 p.239
そう、なぜ『H×H』がこんなにも面白いのかというと、短いページ数に内容がギュッと圧縮されているからです。1 ページ目を読んでいるときには、まるで後半の展開が予想できない。読み終わったあとの充実感も、ほかのマンガと比べて大きいです。
──どこぞの、次回の展開が丸見えなマンガとは、大きな違いですね。どのマンガかは書かないけれど、「やったか !?」なんて言われても、「はいはい、幻術幻術」というのが小学生でも分かる……だと…… !?
何で オレは 撃つ !?
今週の「また作者にだまされたゼ!(ニコニコしながら)」のコーナ、ですよ。
ウェルフィンの「卵男(ミサイルマン)」が初めて登場したときに、こう説明がされていました。
その攻撃が命中して生きている者はいない
『HUNTER×HUNTER (NO.26)』 p.124
それに、先週号でイカルゴは相討ち覚悟の攻撃をしていたので、多くの読者が「卵男は即死系の攻撃」と思ったはずです。自分もそうでした。そのため、「卵男」とは、通常のミサイルと同様に、命中すると爆発・破壊するタイプの攻撃なのでは、と。
──考えてみれば、そんなワケはないのです。自動追尾して当たると死ぬ、という強力な攻撃にしては、あまりにも条件がユルい──というか一方的にウェルフィンに有利すぎる。それに、ウェルフィンの慎重すぎる性格には似合わないのです。
明かされた「卵男」の正体は、ウェルフィンの性格にピッタリと合っている。この能力の一番の特長は、「攻撃の前後で駆け引きに持ち込める」ことです。ミサイルの発射前にオドし、命中したあとでも交渉の余地がある。本当に、良くできた能力ですね。
面白いことに、「ミサイルマン」は、イカルゴが初登場の時に使った「蚤弾(フリーダム)」ともよく似ています。お互いに、直接手を下すことが苦手な、臆病者同士の対決だったという。
──上記の引用文を深読みをすれば、「ミサイルが命中すれば生きていられない──が、いままでに撃ったことはない」ということかもしれません。冨樫先生なら、それくらいの読者をアザムクことは、やる!
望むところ だ…… !!
「卵男」は、いわば「黒百足(クロムカデ)」の注入装置でした。さて、「黒百足」を埋えつけられた
イカルゴを見て、ソボクな疑問が出てきます。──彼の頭部って、中身はどうなっているんだろう……。
今回の描写からすると、イカルゴには頭蓋骨がありそうです。おそらく、「黒百足」は頭の骨と頭皮の間に入り込んでいるのでしょう(想像したくない!)。
ただ──イカルゴは、数センチメートルのスキマにも潜り込めるんですよね。そんな彼の頭に、骨が入っているとは思えないのですが……。そのあたりは、深く考えないようにしましょうかね。
何て 楽… !!
ブロヴーダを撃てなかったイカルゴは、ウェルフィンに対しては何発もライフル弾を放っている。それはなぜかというと、ウェルフィンを殺す気がないことと、自分の命と 引き換え つもり
だから。
──カッコイイ! なんという格好いいタコ(「タコってゆうなーーー!」)でしょうか。「抱かれたいタコランキング 2010’」があれば、間違いなくイカルゴが 1 位です。
それにしたって、前回の時点では、ウェルフィンの攻撃は「食らったら即死」とイカルゴは思っていたはず。一発食らって、はいサヨナラ──だったら、相打ち狙いでライフルを撃つのは分かる。でも、今の状況で引き金を引くには、かなりの覚悟が必要ですよね。
こんなに脆いとは…
上のほうでも書きましたが、ウェルフィンは誰かを殺したことがないのかも。そうだとすると、本当にイカルゴとよく似ている。それでも 2 人とも師団長になれたということは、キメラ=アントの中でも念能力者は希少なんでしょうね。
そう考えていくと、いままでのウェルフィンは、自分の念能力に絶対の自信を持っていた。「卵男」は彼の性格に良く合っているし、単純に考えれば強い能力ですよね。ところが、自分の命を 全く省みず 突っ込んでくる奴
の存在は、想定外だったのです。そりゃ、コワイですよね。
たぶん、ウェルフィンもイカルゴも、この場で初めて「死を覚悟して戦った」のではないでしょうか。
解除できねーん だよォ !!
本当だ !! 信じてくれよ !!
などという言葉は、ウソつきの定番です。ウェルフィンも、何万回とこのセリフを言ってきたはず。まさか、本当に本音を言うしかない状況に追い込まれるとは、考えたこともなかったのでしょうね。
ウェルフィンは追い込まれたことで弱気になり、相手をだます余裕もなくなり、本音を語り出す。それを聞いたイカルゴが、人間だった頃の 記憶
について聞く。──この話の流れは、本当にスゴい。何をどう考えたら、こんな話を思いつくのだろう。
「キャラクタの設定と 1 ページ目のネームを渡されて、その後の展開を考える」ということがきわめて難しいマンガです。前に『バクマン。』の感想でも同じ事を書きました。この 2 つのマンガは、ほかの誰にも描けません。
「まだ 覚えてやがった」
ウェルフィンが過去を語る場面は、かなり分かりにくかった。想像力が試されます。
とくに、すげー 似てたんだ… ジャイロに ……
というウェルフィンのセリフが分かりにくい。単純に「ジャイロは、血のつながって ない弟
に似ていた」と考えるのが普通でしょう。
ただ、NGL の王であるジャイロと自分の弟が似ていることを、イマゴロ思い出すものでしょうか。子どものころのトラウマはしっかりと覚えているのに……。
あと、ちょっと戻って、こいつと 似た奴を 知ってる…
というモノローグもまぎらわしい。これを思ったのは、イカルゴなのかウェルフィンなのか。じつはどちらとも取れる。
「似た奴」について思ったのがウェルフィンだとすると、「イカルゴと弟・ジャイロ」が似ている、とも取れそうな気がします。──でも、血がつながっていないとはいえ、弟のことを「知ってる」なんて言い方をするのはヘンですよね。
やはり、普通に考えて「ウェルフィンは、ジャイロと弟が似ていると思った。一方、イカルゴは、ウェルフィンを誰かに似ていると思っている」ということでしょう。
そうすると、イカルゴの過去が気になります。ここでまたひとつ、たたまれる予定のない風呂敷が広がりましたね……。
もう一度… 会いてぇな ……
かなり疑問は残りますが、ウェルフィンはこの時点で初めて、ジャイロや弟のことを思い出した──ということでしょうか。真の王を目指していたのは、キメラ=アントとしての本能に従っていただけかも。
たぶん、アリになってから初めて正直に話したウェルフィンは、じつにスッキリとしています。先週号までは想像もしていませんでしたが、ゴンたちの仲間になる可能性が出てきたのでは。
──いや、ジャイロが人類に悪意を持っている以上は、ウェルフィンもそちら側に立ちそうですね。
人間とした はな…
一瞬のデキゴト──しかも、ネテロは油断したわけでもないでしょう。それなのに、王の一撃がネテロの右足を飛ばした。
──多くの読者は、「それでもまだ、『百式の零(ゼロ)』がある」と思ったことでしょう。自分もそう思いたい。しかし、作者のことだから、次回あたりで、
- ネテロ:
- 「ふっ まさか 零を 5 発も直撃して 無傷とはな……」
みたいな会長のモノローグが流れたりして。そう、すでに零は王に試して、無効化だった、と……。しかも、百式観音の零とは何だったのか、いっさい描かれない。──それは、イヤだー!
そろそろ、王対ネテロも、終局でしょうか。ジャイロという懐かしい名前も出てきて、新しい展開になる予感がします。できれば、永久に続いて欲しい……。