バクマン。 #123-2 「ピザとお茶」 グラデトーンとベーコン

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『バクマン。』 123 ページ 「ピザとお茶」 (週刊少年ジャンプ 2011 年 14 号)

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(まるで──スクリーントーンで描かれたような世界)

才能・評価・努力・挫折・絶望──という世界からは遠ざかって、さわやかな青春時代を送っている平丸と蒼樹です(※2 人ともけっこうな年齢)。

「『バクマン。』とは、サイコーこと真城最高と亜豆美保との恋愛を描いたマンガである」──なんてことは、読者の 98% が忘れている。彼らの役割は、そのまま平丸・蒼樹が引き継ぎました。

なにしろ、つきあっているのに「会わない」といった無理難題なんて、蒼樹は言いませんからね(普通は考えもしない)。気軽な気持ちで平丸も会いに来られる。そして、蒼樹と平丸は同じ道を歩いているのです。──理想的なカップルですね!

いままで ありがとう、亜豆──。

1 話目 おしまい です

前回、蒼樹紅のアシスタントとして、平丸一也はやって来ました。これは、七峰透の仕事場に中井巧朗が来る伏線──というか対比させる描写だったわけです。

どちらの助っ人も頼りになるし、いてくれると楽しいと言われている。しかし──、まわりの態度は対照的です。平丸は人間的に歓迎されているが、中井は──仕事の評価しか受けていない。

元・「ジャンプ」で連載していた 2 人のマンガ家について、作者も徹底的に比較して描いています。1 人は、何でもそつなく こなすし、人から好かれる。もう 1 人は、(人物を除いた)絵が上手──なだけ。

ただ、この描き方が逆に、「アシスタント(や作画担当者)は、絵が描ければ良い」という作者からのメッセージにも思えます。絵がうまいというだけで、マンガの世界では生きていける。それで良いじゃないか──と聞こえました(耳鼻科に行こうかな)。

顔 赤くして カワイイ

マンガでありがちな「目をつぶって笑う」笑い方を、蒼樹は よくします。とくに、この笑顔は平丸に向けられる。

どうも最近、この蒼樹の笑顔には「ウラ」がありそうな気がします。「目が笑っていない」笑顔もこわいけれど、「目がない」のも おそろしい──。

平丸もそれを感じ取ってか、蒼樹の駄目という言葉に過剰反応している。このおびえ方には、なんだか「嫌われたくない」以上の意味が込められているように見えます。『バクマン。』の中では描写がないだけで、お仕置きでも されているのでしょうか。


上記のようなことを考えながら蒼樹を眺めていたので、「本当に、蒼樹は平丸のことが好きなのかな──」と思ってしまいました。仮にも「お付き合いしている人」に向かって、平丸さんも すぐ 帰りますよねなんて言っているし。

ただ、今回のもーーっと赤面する蒼樹の反応を見ると、ちゃんと「好き」という感情はあるようですね。かつてのシュージンくらいには。

蒼樹と平丸とのラブ・ストーリィが本格的にスタートするのは、まだまだ これからです。──恋愛って、それくらいの時期が一番楽しかったりするよなぁ……。

でも、できればこの 2 人には「今日よりも明日・あさってのアナタが好き」と(顔を真っ赤にしながら)言えるような恋物語を刻んで欲しいです。


昔の話だから今は分かりませんが、自分や知人の体験談を、蒼樹はほぼそのまま作品に生かしていました。いまの彼女は、まさにラブコメのヒロインです。良い話が描けそうですね。

実生活とマンガがリンクするのは、平丸も同じです。ただし、ネガティブな方向へねじれている。そこが面白い。考えてみると、プライベートの成功は幸せとして感じられて、失敗は作品を昇華させる。どちらへ転んでも良いわけです。どこまでも、恵まれている。


今回の平丸がナイスなのは、女性アシスタントには目もくれていないところです。どこかのラブコメなら、いろんな To Loveるが起こっても おかしくない状況なのに……。

女性たちも、蒼樹・平丸の両先生を応援している。この相乗効果は強力です。この仕事場に平丸がずっといられたら、蒼樹との仲も深まっただろうに、残念でしたね。


先生達は もっと 疲れて くださいねと言いながら、女性アシスタントたちは帰って行きました。さりげなく、このセリフは『バクマン。』史上でもっともキワドい言葉だと思います。いままでは、せいぜい「チュー」か「ポイン」(『バクマン。 (12)』 p.63)くらい。

この言葉の真意を蒼樹が感じ取っているかどうか、ちょっと(いや、かなり)気になりました。さすがに平丸は気がついている。

蒼樹紅先生は、「ジャンプ」でトップクラスの「お色気マンガ家」ですからね! しょj ──少女のような彼女も、それなりの知識を持って作品に挑んでいると思います。

そうやって考えていくと──、「なんだお茶だけか、ガックリ」という今回の場面も、また違って見えてくる。ティー・カップと落ち葉のコマは、時間の経過を表しているわけで──その間に「何か」があったかもしれない。

あとは、読者(あなた)が自由に想像するだけだ──!

2 話目にぶつけるのは いい手だよ

蒼樹の新連載・『神様がくれた…』は、爽やかだなと評価される内容らしい。いつの間にかバトル要素まで盛り込めるようになっている。着実に蒼樹は進化していますね。

自分の中では、『いちご100%』を描いた河下水希先生が、蒼樹紅のモデルだと思っています。

『いちご100%』は、単純なセクシィさを描いただけで終わらなかった。もうご存じのとおり、ビックリするような展開があったのです。「『ジャンプ』のラブコメは、みんな『きまぐれオレンジ☆ロード』か桂正和作品のクローン」という段階から脱出できた輝かしい作品でした。

蒼樹の作品にも、同じように奥深さがあると期待しています。いまでは信じられないですが、一時期は男性不信になりかけていましたからね……。その負の感情を上手に処理して、作品に描くと深みが出るはず。

僕は口出さない方がいい

かなりブランクがあったはずなのに、中井のテクニックは おとろえていません。変わったのは、体形だけだったのか。人間、何か 1 つは輝くモノを持っているのですね。自分は──なんだろう……。

この場面は「また七峰がいつものように調子の良いことを言っている」という感じに見せています。しかし、自分の目から見ると、七峰は本当に中井の画力を認めていると思う。実際に、中井がいなければ七峰の原稿はレベルが低いから、頼りにしているはず。

七峰・中井の「NN コンビ」は、良いパートナ同士です。じつは、この 2 人の関係は、「普通の原作者と作画担当者」とあまり変わりません。いや──「作画だけができる 2 人」とも言える。このあたりは、また明日書きましょう──。


差別的な中井の態度を非難するアシスタントの気持ちは、よく分かります。この場にいれば、誰でも同じことを思うはず。

しかし、自分たちも可愛い子とそうじゃない子という目で、女性たちを見ている。態度に出さないだけで、腹の中は同じです。だったら、ハッキリと表に出す中井のほうが良い。

いい仕事しています

この場面から急に七峰がヘッドセットを身につけだしたのには、ちょっと違和感がありました。その理由は次のページを見れば分かるけれど、わざとらしいかな。

まぁ、前号までの展開をぶち壊す超兵器が出てきたり、「転送の準備をしていた」とか言い出したり、都合良く「一番の口癖」が変わったり、──という某・マンガよりはマシですね。

いまの「ジャンプ」で頭を使うバトルは、冨樫義博先生しか描けないのか……(『保健室の死神』に期待)。