バクマン。 #41-1 「テコと我慢」 それぞれの意見と明日の決断

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『バクマン。』 41 ページ 「テコと我慢」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 29 号)

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作品内で「バトル方向へ進むのは最悪」と繰り返し描かれると、ジャンプ内で連載されている作品を変な目で見てしまう……。アレとか、ソレとか。

そういえば、『遊戯王 』がヒットしたあとでも、安易に「カードバトルマンガが乱立」しなかったのは良い。低年齢向けのマンガ雑誌(コロなんとか・ボンかんとか)だったら、どうなっていたことか……。

まぁ、マンガから設定とキャラだけ抜き出して、いまもカードは売られ続けているのだが。

カードバトルの作品が増えなかったわりに、いまだに「人気が落ちたらバトル」へ移行する。ほかに手はないのだろうか──?

とはいえ、お色気路線が増えるのは雑誌の色ではないし、バトルってる『トリコ』は面白いしな! けっきょく、「マンガによる」ということだ。

このままじゃ駄目だと思う

高木が自らネームを描き直すのは、たいへん珍しい。それほどの危機ということだ。

小河は、『疑探偵 TRAP』ではアニメ化できない、と思っている。マンガを見る目がないと自嘲しながらも、他人の作品は冷静に見ているのだ。完全に仕事と割り切って描いているのは、プロと言えばプロらしい。もちろん、小河のような人、しかも仕事ができるチーフは ありがたい存在だが──、

でも、「マンガを描く」って、そういうことじゃねェだろう! ──そう思ってしまった。

ここで面白いことに、サイコーが「どう変えるんだよ」とシュージンに聞いている。ネームを変更する意見を最初に言いだしたのは、サイコーのほうなのに……。

これは、サイコーは話を作る立場ではないからだ。本作品を通して読んでいる人には、素通りするコマだろう。しかし、「主人公の 2 人はマンガ家」という設定からすると、違和感がある。2 人でマンガを作っているんだから、お互いに意見を出すべきではないか、と。

DEATH NOTE (13)』のインタビューを読むと、大場先生と小畑先生との間で、キャラクタの設定などを話し合ったことが分かる。L が完全な美形ではないのは、小畑さんからの提案だ(p. 62)。

おそらく、『バクマン。』では作品として分かりやすくするために、「話はシュージン・絵はサイコー」と完全に役割分担させているのだろう。

急がないと

上でも書いたが、高木は「最悪やっぱりバトル方向」という考えしかないようだ。ジャンプでは探偵物の大ヒットという前例がない。だから、ほかのマンガと同じような方向転換では成功しない、と思わないのだろうか。

そもそも、連載の当初と方向を変えて成功したマンガは、あまり覚えがない。

『トリコ』が「冒険物からバトル物へ変わった」と言えるくらいか。しかし、初めから戦いも視野に入れていたはずだ。まさか、「トリコが のんびりとフルコースメニューを完成させていくまでを描いた作品」にするつもりではないだろう。同じ冒険・バトル物である『HUNTER×HUNTER』が、初めは「ゴンがオヤジと隠れんぼする心暖まる家族愛の作品」のつもりだった、とか(ないない)。

挙がるとしたら

シュージンからの電話を受けて、港浦があせる。港浦は相田に相談するが、返ってきた反応は意外であった。

亜城木夢叶の連載は、次回の会議で打ち切りの可能性もある、と相田は思っているようだ。

相田の見解は、冷たすぎる。──そう感じた。

この場面で相田は、『疑探偵 TRAP』の方向性は間違っていないが、それで 駄目なら 仕方ないと言っている。ここだけを見ると、「いくらやってもダメな作品」と聞こえてしまう。

しかし、これまでの相田の言動からは、高校生の 2 人をプロのマンガ家として応援している様子がうかがえた。今週号を最後まで読めば、そこまで冷淡に『TRAP』を見ているのではない、ということも分かる。

このページでは、とつぜんのことに港浦が動揺している──という演出のために、「相田からも見放された」ような感じを描いたのだ。折り返しの電話も急がなければならない。本当に、細かいところまで神経が行き届いている。

明日でいいか?

結果論だが、打合せを明日に廻したのは、港浦の英断である。

さらに、打合せ通りの ネームを描くように、シュージンへ指示を出したのも良い。ネームの描き直しが間に合わない という保険にもなるし、代替案との比較もできる。

猪突猛進タイプに見える港浦だから、ここは「今すぐそっちへ行く!」となりそうなものだ。そうしなかったのはエラい。

これは、「判断の先延ばし」ではないのだ。決断のために必要な時間を取ったである。先延ばしとは、「決断する──ための時期は、また今度決める」ことを言う(その時期は永遠に来ない)。ここでの港浦は、打合せをするのは明日と明言している。

時期を決めて行動する、という話で面白いのは『捩れ屋敷の利鈍』での西之園萌絵だ。彼女の「思いつき方」は面白い。作者も同じように話を思いつくのだろう。以前にも記事を書いたので、そちらをご覧いただきたい。

「毎日ブログを更新する方法」 asiamoth(自分)流 : 亜細亜ノ蛾

港浦も雄二郎も溜息をついているが、両者の悩みは まるで質が異なる。

──このアフロは、担当する作品に恵まれすぎだ!

どんな風に

港浦からネームの変更について聞いた雄二郎は、それが当たり前という態度だった。アンケート結果が微妙な位置であれば、テコ入れするのは当然、というわけだ。

タイトルを見ても分かるとおり、このテコ入れの善し悪しが今週のテーマである。

『TRAP』の方針について、雄二郎と吉田が議論する場面が面白い。

雄二郎はテコ入れ推進派であり、吉田はテコ入れ反対派だ。編集者らしく、マンガについて熱く語っている。そこへ相田は「オトナの意見」で割り込んだ。服部はというと、「オレは港浦に任せたから余計な口を出さない」という態度である。

あたふたする港浦を含めて、キャラクタが勝手に動き出した──という感じだ。原作者の大場つぐみさんが、この場面はとくに描いていて楽しかったのでは、と想像する。

まぁ、マンガ家は全員、楽しんでマンガを描いている──と思いたいところだが……。

コメント

  1. K2nd より:

    ども。お久です。
    こちらのブログの記事をずっと読み続けていますが、今回はちょこっと解釈に違和感があったので一言二言。
    >この場面で相田は、『疑探偵 TRAP』の方向性は間違っていないが、”それで 駄目なら 仕方ない”と言っている。ここだけを見ると、「いくらやってもダメな作品」と聞こえてしまう。
    この「いくらやってもダメな作品」というasiamoth氏の解釈は、ここだけ読んでも僕にはそうは思えないんですよね。どちらかというと、人事を尽くして天命を待つという感覚に近いかなと。
    要は、「漫画は面白ければいい」というジャンプの鉄則において、商業誌という市場原理主義のメカニズム(アンケート至上主義も含む)の宿命があるというところでしょうか。
    漫画家自身が、自分の漫画が最高に面白いと思って描いているということは大前提で、かつ、読者に対して今我々が生きている時代も含めて、その面白さを共有できる提示の仕方が重要なのかなと。
    なので、方向性はあっているが提示の仕方の問題なのだから、このベクトルでやれるだけのことはすべてやって、それでも時代的に早過ぎたとか、時間も含めたリソース的に限界があったとか、ジャンプの読者層には「面白さの方向性として」受け入れられなかったというのであれば、仕方がないというニュアンスかと。
    あ、もちろんそもそもリアル世界ではどう頑張ってみても「人事は尽くせない」という身も蓋もない話もありますけどねw

  2. asiamoth より:

    お久しぶりです。そして、ありがたいご指摘ですね。こういうご感想を待っていました。
    じつは! この行は「自分がイタコ状態になって、港浦の視点・感情で書いた(書こうとした)」のです。「──と港浦は聞こえた(だろう)」と書くべきでしたね。
    自分が『TRAP』を全然ダメだ、と思っているのではありません。相田からダメな作品だと言われている、と港浦が感じただろう──と書きたかったわけです。
    ただ、自分が港浦の立場で あの状況だったら、負の感情しか出てこなかったのでは──とは思いますね。
    この部分を書き直すとすると、
    > この場面を見ると、相田は『TRAP』のことを「いくらやってもダメな作品」と思っている、と(自分には)聞こえてしまう。港浦も そう思ったかもしれない。
    と冗長になるので、
    > 相田は『TRAP』に それほど思い入れがないのだろうか。そう言っているように聞こえた。
    くらいの意味しかこめられないですね。
    うーん……。すぐあとの行で相田のフォローをしているし、勢いを重視して、このままにしておきますね。
    こういった、誤解を受けやすい文章が好きです。しかし、今後は分かりやすい文章を書けるようにしたいですね。

  3. K2nd より:

    まぁ、確かにこれまでの鋭い洞察力で書かれた感想からすれば、
    不思議なくらい違和感のある解釈だなとも思ったんですよね。
    これまでも時間の関係で書きこそなったコメントが沢山ありますが、
    今後は思った時にすぐに書けるように時間を作りたいと思います。
    で、今週号の感想で一番楽しみなのがエイジの視点の解釈だったりします。フフフ。