HUNTER×HUNTER No.299 『再生』 (週刊少年ジャンプ 2010 年 14 号)
いやはや、今週号はスゴかった!
あまりにもスゴすぎて、「作者はくる──クレイジィになったのかと心配しました」(英語だと許される不思議!)とか「少年誌に載せる内容ではない」という感想をウェブ上で見かけたほどです。
HAHAHA! 何をおっしゃる! 昔からこうですよ!(最近の読者は『レベルE』を知らんのだろうな)きっと作者は、心の底から楽しみながら、ペンを走らせたことでしょうね。
ますます、「キメラアント編」がどう終わるのか、ますます分からなくなってきました。すでに終わっているような、これから始まるような……。今回、「新しく生まれた生命」がどう動くのかが見どころですね。
不吉な全て
シャウアプフはともかく、あのモントゥトゥユピーが泣くとは、よっぽどのことです(プフは玉座の間で踊りながら泣いていた)。ユピーにとっては、生まれて初めての涙でしょう。
そういえば、護衛軍以外のアリたちは、何人か「人間だったころの記憶」を持っています。過去の記憶を懐かしんだり、苦しんだり……。護衛軍の 3 人には、人間(ユピーは魔獣)だった記憶はあるのでしょうか? そして、王は?
ついでに以前から不思議だったことは、「キメラアント一体につき、人間は一人」で成り立っているのか、ということです。
アリたちは、明らかに「人間 +動物・魔獣」の姿をしていますよね。そして都合よく、同じ動物キャラは 2 人以上いない(ハズ)。これは、「女王がいままで食してきた動物たちの遺伝子情報と、人間とが合成された」と解釈できます。たまたまカメレオンと相性のよかった人間が、メレオロン(旧ジェイル)になった、と。
そうやって考えていくと、何百何千と食われていた人間の中から、たった一人だけが一種の動物と交わったのか、という疑問がわいてくる。つまり、たとえばメレオロンには、何人かの人間と何匹かのカメレオンとの「遺伝子と記憶・魂」が合わさっているのではないか、と思うのです。
このあたりを突き詰めていくと、それだけで一本の作品にできそうだし、少年誌で描ききれるのか、という問題も出てくる(冨樫先生ならできるだろうけど)。要するに、「キメラアント一体には、人間と動物・魔獣のペアが、一対ずつ組み合わされている」と見たほうが良さそうです。そうしないと、いろいろ混乱する。
──と書いてすぐに思い出したけど、レオルって「ライオンだったころの記憶」のほうが色濃く残っていましたよね。そうなると、「ライオンだったころと、人間だったころの記憶が混ざり合う」という状況が起こるのでは……。うーん、これ以上は、考えないようにしよう……。
息がある !!
王は生きていた! しかし、ほとんど「息をしている(だけ)」という状態です。いまの王の姿を初めて見たときは、とてもショックでした……。
そして、どうやったら助けられるのか、ユピーと一緒に考えたのです。ネフェルピトーのいる宮殿までは遠いし、なにより王の治療をジャマするでしょう。それこそ、本当に「ゴンが王を討つ」ことになりそうです。
私が王を 救う !!
モラウの「監獄ロック(スモーキージェイル)」をすり抜けるほど、プフの「蝿の王(ベルゼブブ)」は自身を小さく分散できる。それならば、どんな敵であろうと「体の内部から破壊できる」のでは? と思っていました。今回の描写を見る限り、それは可能そうですね。
ところがプフの分身能力を、治療のために使うとは思いも寄らなかった! プフ自身も(作者も?)、いままで考えていなかった事でしょう。
プフの細胞によって癒やされる王と、王を抱くユピーの姿は、まるで「天使と赤子」のようです。つい数分前までは、ともに化け物のような容姿をしていたのに……。
このように、同じキャラなのにまったく別の印象を持たせる見せ方は、冨樫先生の真骨頂です。ほんの数分・数秒前とは、ガラッとイメージが変わる。『幽☆遊☆白書』の仙水忍と樹には、シビレタなぁ……。
そしてそれは、現実世界の人間と同じです。いつでも同じ印象の人間なんて、そうはいませんよね。でも、冨樫先生くらいに「キャラクタを 120% 動かす」ことができないと、人物の印象を急に変えようとしたって、「キャラ違うやん!」と読者から突っ込まれて終わりです。
えもいえぬ 美味…
現在の王は、目が見えなくなっているのでしょうか。自分が「妖精の霧(ミスト)」をどうやって味わっていて、「材料」がなにかを分かっていないように見えます。
そんな瀕死の状態で、久しぶりのレアモノを食しているのに、まるで料理マンガのような「解説」をするとは──さすが、王のカンロクです(そうか?)。
王の御言葉を聞いたプフは、まるで『ハチミツとクローバー』に出てきそうな顔をしている。──あ、というかひょっとして、「作画協力:
武内直子(奥様)」なのでしょうかね?
さすがにこの絵柄と演出は、キャラ崩壊だろう──と思ったけど、そう、自我が崩壊するくらいにプフはうれしいのだから、これはこれで良いのです!
こちらも 御賞味 下さい !!
まだまだ「何のマンガやねん!」のターンは続く……。
ユピーの「アイデア料理」に嫉妬するプフの表情と解説・王の実況は、料理マンガ全開です! くっ… 考えたな ユピー !!
というセリフなんて、料理マンガのノリそのままで笑いました。
「天使の雫」を出す直前の、プフの表情も最高ですね! カワイらしすぎる。
この上ない至高 !! 極上の歓び !!
ごく普通に見れば「沙汰の外」としか言いようがない場面が続くわけですが、素晴らしい! こんなの、正気と狂気の堺を何度も行ったり来たりしていないと、描けないですよ。
──いや、作者は、ディスティ・ノヴァ教授の境地に立っているのでしょう。
この世に 「正気と狂気」など 無い
あるのは 一千の貌(かお)の狂気 だけですすべての精神状態は 狂気の別々の側面に すぎない
自己追求の 極限の果てに 限界を超えた 自由の地平がある『銃夢 8』 p.117
これこそが
さて、プフとユピーは、種の頂点 女王の域
に到達したようです。王もまた、死と再生を経て、母の愛を知ったことでしょう。仲間はずれになりそうなピトーも、コムギを護る一心で、母親のような愛情に近づきました。
これは──どうなるんだ? ほんの少し前までは、(ごく一部を除いた)全人類を抹殺する悪魔が 4 体いたはずです。それが今では、種の頂点から全体を優しく見渡す、無償の 愛
を学んだ。
いや、まだこの「種」というのが、人類を含む全生命体のことなのか、キメラアントだけを差すのかが分かりません。ネテロに対して王は、やはり人間は食料として見なしているように言いました。その考えが根本的に変わったのかどうかは、これからですね。
それにしても、ものすごい話です。全人類に害をなす悪魔として生まれ、人間の悪意という爆弾を食らって死にかけた王が、同じく悪魔たちの自己犠牲によって再生し、ともに愛を歓びを分かち合う──。何をどうやったら、こんな話が描けるのか、想像を絶します。
──などと言いながら、「これって『ラストハルマゲドン』だよなぁ」とも思ったのでした。
コメント
先週、今週と凄い展開でしたね。
先週は、ジャンプ、しかもバトル漫画で奥の手として大量殺戮兵器を使ってしまえることに、冨樫は普通じゃないと思いましたが、
今週は、人間という巨悪に打ち滅ぼされそうになった王が、瀕死の状態から復活するというまるで神話のような展開で。
でも、キメラアント編の作者の力の入れようを見ると、今後、父親探しという主軸や旅団などの他の話に移ることができるのかが心配ですが^^;
キメラアント編が始まったころは、「えーなにこれ……。グリードアイランド編 2 が始まらないかな……」と思っていました。正直なところ。
ところが最近の盛り上がりようは異常です!
いったい作者は、どこまで描くつもりなのか……!
たしかに、このアリ編をまとめ上げたら、作者としても「もうええやん?」と(ダウンタウン・松っちゃんの顔で)言いそうです。
それでも良いような、もっと続けて欲しいような……。うーむ。