『バーテンダー』 作: 城 アラキ, 画: 長友 健篩
飲み口が優しくて、のどごしはスッキリとした味わいのマンガです。心が疲れた時に読みたいマンガですね。
この本は、バーテンダーの女性から借りました(借りてばっかり)。そのひとがどういう思いを込めて貸してくれたのか……。それを想像するのも、酒のツマミになりそうです。
それにしても、自分にはバーテンダーは勤まらないな、と思いました。サービス業の中でも、かなり高度な想像力が要求される仕事です。人の心、というモノが分からない自分には、とてもじゃないけど、できない!
第一印象が悪い
出てくるキャラクタたちは、ほとんどが「第一印象: サイアク」なのが面白い。自分が大好きなマンガであり、感想を書くことがライフワークとなっている『バクマン。』と似ていますね。
第 1 話目からイヤミなホテルマンが出てきます。また、あまりにもキビシすぎる「ミスター・パーフェクト」と賞されるバーテンダーは、初登場時のインパクトが強烈でした。ほかにも、バーテンダーたちの初登場は、ほぼ全員が「イヤなヤツ」に描いているんですよ。
でもそれは、主人公である佐々倉の視点──つまり、バーテンダーから見た印象なんですよね。客から見れば、どのバーテンダーも一流のサービスを提供してくれる。その差異に、プロとしての仕事の厳しさを見られるわけです。
それに、話が進んでくると、だんだんとバーテンダーたちの持ち味が見え始めてくる。そうすると、彼らのカクテルに対する情熱が分かってきます。初対面では冷たい印象だったのに、じょじょに温かさを感じる。
ひとりくらいは、本当に根性が曲がった人が出てきても良さそうな気がする。しかし──、なるほど、そんな性格だと、バーテンダーはやっていけないのでしょうね。性格の悪いサービス業は──、うーん、違うマンガになりそうです。
初恋の味
好きなエピソードがいくつかあります。借りている 12 巻までの中から一つ挙げるとすれば、『バーテンダー 9 巻』に出てくる「バーテンダーの恋」(前・後編)です。
幼馴染みで兄のような存在の男性に、女性のバーテンダーがハイボールを作る。男性の希望で、ウィスキィにはジョニー・ウォーカーを使った。ところが、そのカクテルはチーフからダメ出しをくらい、けっきょくチーフが作ったハイボールを飲んでもらうことになります。
その理由は単行本に書いてあるとおりで、納得はできます。だけど、その女性が使ったジョニー・ウォーカーは、じつは男性との思い出の酒であることが分かるんですよ。
この場面では、とくに「思い出を大事にした」とは書かれておらず、女性も無意識でカクテルを作ったようです。──そう、無意識の内に「そのジョニー・ウォーカー」を選んだのではないか、と。
カクテルに正解があるのかどうかは分からないけれど、ここは「思い出のジョニー・ウォーカー」を使って良かったのでは、と思いました。
みな違う
少年マンガ的・または料理マンガの王道展開的には、「主人公とライバルとの戦い」がありそうなものです。ところが、『バーテンダー』には、ほとんど「対決」がないんですよ。「乗り越えるべき敵」もいない。
──それはなぜか?
その答えは、作中に描かれています。バーテンダーという生き方を知れば、なぜ「敵」がいないのかが分かるでしょう。