『バクマン。』 小特集 – 性格が変わらない登場人物たちへ愛を贈る

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『バクマン。』 原作: 大場つぐみ, 作画: 小畑健

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(いつも変わらない君を──愛する)

今回は緊急特別企画(※後述)です。

『バクマン。』という素晴らしい作品を振り返り、ほかのマンガとは何が違うのか・どこに魅力があるのか、思いつくままに書きました。あらためて考えてみると、自分が好きな作品の傾向も見えてきて面白い。

『バクマン。』の魅力とは

自分が『バクマン。』で好きなのは、登場人物です。

「ぼくは、ばくまんは、きゃらが、すきだと、おもいました」──なんて、まるで小学校低学年の感想ですが、でもだって、すごいんだもん!


『バクマン。』の何がすごいのかと言うと、下の一行に集約されます。これは、大場つぐみ小畑健の両氏が創り出した前作の『DEATH NOTE』や、自分が好きなほかの作品でも感じました。

「登場人物の性格は変えずに、印象だけを変える

どういうことか、説明していきます。

サイコーとシュージンの性格

主人公の真城最高(ましろ もりたか)は、第 1 話では「イヤなヤツ」という印象を受けます。クラスメイトの秀才・高木秋人(たかぎ あきと)から話しかけられても、心を閉ざして冷めたことばかりを考える。

その 2 人が、いまでは「サイコー」「シュージン」と呼び合って、この先ずっと離れられないような関係になっています。サイコーもすっかり処世術を身につけて、初対面の人に「感じワル!」と思われなくなりました。

ところが! サイコーの性格はあまり変わっていない。

いまでも時々、サイコーの体内には液体窒素でも流れているのでは──と思うくらい、冷たさを感じるのです。だいぶ丸くはなりましたケド。


シュージンも学生時代には、ちょっと油断すると「オレって天才! お前らは■■」という空気をまとっていました。それでも彼は他人を気遣えるから、上手に脱臭できます。同級生のほとんどは、「高木はいいヤツだ」と思っていたはず。

最近のシュージンは、かんたんに言えば「オトナになった」ため、人を上から見るような目線はなくなりましたね。でも、自分に才能があると思っていなければ、創作活動なんてできません。他人を思いやる彼は、それを感じさせないだけでしょう。


──なんだか、「イヤな性格は変わらない」ことだけを取り上げているようになりました。

そうではなくて、「サイコーには冷たいところがある」・「シュージンは気配りが上手」という本質は変えずに、印象を大きく変える演出が素晴らしいのです。

冷たい性格であるはずのサイコーは、あたりを焼き尽くすくらいに根性を燃やすこともある。温厚派に見えるシュージンは、親友のためなら冷え切った目を人に向けます。

これは、2 人の性格が急に変わってしまった──のではありません。誰だって、優しい口調で話しかけることもあれば、冷たい態度を取ってしまうこともあります。怒っていれば、支離滅裂な言葉を吐くでしょう。

それでも、「普段とは違う彼・彼女」を見た人は、大きく印象が変わります。『バクマン。』では、この効果をスパイスにして、毎回おいしい料理に仕上げている。

天才・新妻エイジ
リアルアクションヒーローズ No.529 バクマン。 新妻エイジ[メディコム・トイ]《予約商品07月発...

リアルアクションヒーローズ No.529 バクマン。 新妻エイジ[メディコム・トイ]
《予約商品: 2011 年 07 月発売予定》

常にマンガばかり描いていて、ヘンなことを言う。

──これが、新妻エイジから受ける印象です。彼はいつも「シュピーン」と奇声を発してばかりいるから、企画の意図からは外れるのでは?


ところが、彼にも印象が変わる場面は多いです。

自分と同年代であり、才能を感じたサイコーには、名前に「先生」を付けてエイジは慕っていました。そのわりには、サイコーとシュージンの作品に打切りの危機が見えてきた時には、実力の世界 ですからと言って助けません。

さらには、「マンガ家をやめたい」と言う人間を、まったく引き止めなかった。普段は優しそうに見えるエイジなのに、これはどういうことか?

すべて、「エイジは、マンガにはきびしい」という性格から出た行動です。遊びでマンガを書いているのではなく、プロとして──人生のすべてをマンガにかけている。だからこそ、上記の行動が出てくるのです。


ただ──、いま思えば、初登場時にエイジが言った下の有名なセリフだけが、マンガを愛する彼の性格からはズレている。あとで分かるように、彼は無意味なウソをつく人ではないから、この時の心境がいまだにつかめません。

もし僕が ジャンプで一番人気の 作家になったら

僕が嫌いな マンガをひとつ 終わらせる権限を ください

バクマン。 (2)』 p.46

エイジの洞察力の鋭さから考えると、編集長の性格を試したのかもしれませんね。

おわりに

疑問に思う例を最後に出してしまいましたが、『バクマン。』は「性格を変えずに、印象を操作する」をほぼ完全に実現しています。

できの悪い作品になると、「いつも同じ印象(同じ語尾)のキャラクタなのに、話の都合で急に性格が変わる」となってしまう。こういった描写を目にすると、その人物が表層だけでできていて、中身が空っぽであることが分かります。

それは、作者も同じかもしれない。


新妻エイジが、マンガ家は名作映画を観るべきだ──と発言しています。これは、マンガ家を志望している読者に向けた言葉でしょう。

劇場映画は、2 時間という限られた枠しかない。この短い時間の中で、心を揺さぶるドラマを見せる。たった 120 分間で、一生残るような傷を観客の心に刻みつける映像こそが、映画です。

わずかな時間で感動を演出するには、登場する人物たちの性格がコロコロと変わっていては台無しになる。観客も話に集中できません。そのため、徹底して台本が研ぎ澄まされるのです。

一方、比べものにならないくらい長い間、週刊連載のマンガは続く。「だから、すこしくらい性格が変わっても──」という甘えが入り込む余地があるのでしょう。

その甘えを押さえ込んで、登場人物の性格ではなく印象を変えて読者を楽しませているのが、自分の好きな作品たち──『バクマン。』・『HUNTER×HUNTER』・『SKET DANCE』です。

「緊急特別企画」の意味

なぜ、今回のような記事を書いたのか。

──明日・2010/12/29 は『バクマン。』のコミックス 11 巻の発売日です。いつもコミックスは近くの書店で購入していますが、たまには Amazon で予約してみよう──としばらく前に思いました。

それがいけなかったのです……。

一緒に予約した『キャラマン』(なんというタイトルだ)も含めて、どうやら本の到着は来年になりそう。そこで、今回の企画をでっち上げました。


「Amazon で予約することは避けましょうね」と書いて終わろうとしましたが──、そう言えば、同時に日用雑貨もいくつか注文しています。そのどれかが遅れているのかも。

とはいえ、下の日記で書いた CD も、予約していたのに到着が遅れたよなぁ……(ぶつぶつ)。

友人が作詞で全国デビュー! MACK 『Call it life』 – 亜細亜ノ蛾 – ダイアリー

余談

いつものように、タイトルはゲーテのマネっこです。

Twitter / @ゲーテ名言集: いつも変わらなくてこそ、ほんとの愛だ。一切を与えられても、一切を拒まれても、変わらなくてこそ。

性格も愛も、変わらないことが最上ですね!

ちなみに、冒頭の写真に付けたキャプションは、吸引力の変わらない、サイクロン式掃除機に向けた愛ですので、お間違いなく……(こんなご時世だから)。