バクマン。 #156-4 「余裕と修羅場」 効率とキッチン

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『バクマン。』 156 ページ 「余裕と修羅場」 (週刊少年ジャンプ 2011 年 50 号)

Kitchen test
(普段は楽しいキッチンも──今日は地獄の入り口)

本編では地獄絵図のような展開になっています。『DEATH NOTE』ですら、ここまでグロい描写はなかったのでは? 子どもが見たら、トラウマになるな……。

そこで息抜きのために、毎度おなじみ森博嗣氏の著書から、作家に関連するクイズを引用します。「社会的算数」と題された、こんな問題です(『MORI LOG ACADEMY (13)』 p.300)。

  1. 締切まで 48 時間しかない。仕上げなければならないのは、原稿用紙 100 枚。自分は 1 枚書くのに平均 30 分かかる。さて、このような状況下において、睡眠時間は最高何時間取ることができるだろう?
  2. 締め切りまで仕上げなければならない漫画の原稿は、あと 8 枚である。2 人のアシスタントを使うと、24 時間かかる。だが、それでは締切を 6 時間もオーバしてしまう計算になることがわかった。では、どうすれば良いだろう?

──答えは最後の お楽しみ!

もう 今日も 終わりか

小河が言うように、仮眠だけでもしたほうが絶対に良い。効率なんて 無意味と森屋は言うけれど、1 人でも倒れたら、それこそ完成は遠のいていく。

現時点で、サイコーもアシスタントも、どうやっても締切には間に合わないことを自覚しているはず。それでも、ただただ作業に没頭している。

デスマーチは、コンピュータ業界だけの話ではなかったのか……。いや、マンガ・小説の世界のほうが、何十年も前から「死の行進」が続いていたはず。


妖怪じみた──というか化け物そのものと化したサイコーの絵は、作者からすれば「シリアスな笑い」のつもりで描いたのでしょうか? 自分は笑えなかった……。修羅場を肌で味わった作家の人も、笑えないでしょう。

誰だって楽しい物語のほうが好きだ。いわゆる「ライトノベル」的な、「快楽」しかない作品の愛読者は、「どうしてマンガや小説でイヤな思いをさせられるんだ!」と余計に感じる。

たとえば、『なるたる』という「暴力的メルヘン」を真剣に読むと、心の奥底から苦痛が わき出してきます──。

『なるたる』 1~4 巻 鬼頭莫宏 – 海に沈むホシと出会う少女 | 亜細亜ノ蛾

ただし、「快楽とは苦痛を水で薄めたようなものである」(by マルキ・ド・サド)という言葉があるように、ほどよい心の痛みは、逆に心地好かったりする。だから、『なるたる』を読んで愉快になるかもしれない(でも、あまり人前で言わないほうが良いよ)。

──ということで、「妖怪・漫画描き」になったサイコーの絵は、やっぱり ないわー(笑)。ちょっと好きになれませんでした。サイコー自身も、快楽に変わるような苦痛のレベルなんて、とっくに越しているはず。

こんな彼でも、「フ」な女子なら受け入れられる──?

チーフの 考えでは

この戦場から抜けだし、自宅という楽園へ帰って行く小河のことを、非情な人間と思う人も多いでしょう。しかし、家庭を大事にしている人なら、彼の気持ちも よく分かるはず。

サイコーも、森屋に「憎まれ口をたたくな」とは言えなくなっている。これまで文句の 1 つも言わずに作業を続けてくれただけで、感謝の気持ちしかないでしょう。

ガクッと ペース落ちます ね

小河のことをちょっと冷たい──とアシスタントの誰かが言っている(加藤かな?)。しかし、サイコー先生は、人類で もっとも絶対零度に近づいた お方であった──。

イヤミっぽく(おそらく森屋が)フォローしているように、プロとして・仕事としてアシスタントをやるなら、決められた量を決められた時間で こなすことが肝心です。アシスタント・トリオは、親身に なりすぎだと思う。

この作品に出てくるアシスタントたちは、ほぼ全員が「いい人」ぞろいですね。とくに、福田真太と、彼を手伝い続ける安岡とは、もう家族同然の仲に なっている。

「良い仲間に恵まれること」は、少年マンガの主要人物には必須の条件です。サイコーも、シュージンに出会わなければ、いまごろフリータになってブラブラしていると思う。

手だけは 足りると

小河が連れてきたアシスタント仲間・沖野と宮川は、いかにも猛者(もさ)といった感じに見えます。『HUNTER×HUNTER』でノヴとモラウが初めて登場したシーンみたい。オーラが出ているなー。

すぐさま「キッチンと風呂場」で陽気に作業を開始するなんて、この 2 人は ただ者ではありません! もちろん、小河から事前に状況は聞かされていると思うけれど、どれだけ修羅場に身を置いてきたんだよ……。


最終的には「小河の おかげで助かった」という終わり方でした。さすがはチーフ! 頼りになるな──と普通は読み流してしまう。それだけだろうか?

森屋の影響も大きかったと思う。彼がハッキリと小河に不満を ぶつけ続けてきたから、じわじわとジャブのように効いてきて、たまらず小河はヘルプを呼んだ。森屋が いなかったら、いつまでも作業が終わらなかったかも。

サイコーとシュージンは、何もかも自分ひとりで背負いすぎる。その結果、他人にまで迷惑をかけてしまう。

不平・不満を腹に ため込んでいるくらいなら、思いっきり吐き出したほうが良い。ただし陰口ではなく、本人に向かって言うべきだ

森屋のように、自分の思ったことを素直に言える人間が好きです。ちょっと今回の一件とは意味あいが違うけれど、下の日記で書いた言葉を思い出しました。

素直さは最大の知性、とは – 亜細亜ノ蛾 – ダイアリー

おわりに

冒頭に出したクイズの答えは、こちらです!

  1. 48 時間
  2. 気合を入れる

1 問目は冨樫先生ともかくとして、2 問目は今回の『バクマン。』とシンクロしていた、ような……。