『新釈 走れメロス 他四篇』
この本は、大切な友だちから借りて読みました(そればっかり)。
最初は「新訳(しんやく)」かと思って、なんだかお堅いイメージがあったのですが、よく見ると「新釈(しんしゃく)」となっている。「新しい解釈」のことで、ようするに「パロディ物」ですね。「生まれ変わった釈由美子」──のことではありません(書いて後悔した)。
本の題名にもなっている『走れメロス』の新釈は、パロディらしく思いっきり笑える話になっています。自分が過去に読んだ 2 作品と同じで、オモシロオカシイ大笑いできる内容になっている。
ところがほかの短編は、シンミリとしたセツナイ話に仕上がっているんですよね。そういえば、上に名前を挙げた作品も、芯の部分は切なさが流れています。それをオモチロイ要素でコーティングしてある、という印象でした。
全 5 篇の中で自分が一番好きな話は、『桜の森の満開の下』です。笑える部分を徹底的に削ぎ落とし、正体の知れない不安が全編を包み込んでいる。そして、最後のなんとも切ないこと……。
森見さんが書く小説は、ほかの作品とリンクしているところが面白いです。『走れメロス』の 5 篇もそれぞれ同じ人物が出てくるし、ほかの本ともつながっている。ファンサービスというよりも、「自分の子ども」たちに対する作者の愛情を感じました。