バクマン。 #111-1 「口出しと信頼」 後釜と文章力

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『バクマン。』 111 ページ 「口出しと信頼」 (週刊少年ジャンプ 2010 年 52 号)

日本立體橡皮(釜飯)
(「鳥」も「釜」も──おいしい印象しかない)

今週号も『バクマン。』は面白かった!

何度も書き続けていますが、大場つぐみ先生は「印象のコントロール」が上手です。同じキャラクタでも、場合によっては印象が大きく変わる。現実世界でも、そうそう同じ印象の人はいません。それでいて、各キャラにはブレない芯が通っています。

──まぁ、「氷の仮面をかぶった蒼樹」や「暗黒面に墜ちた白鳥」・「きれいな中♯」といった変わりすぎの例外もありますけれど……。

今週号のラストで、印象の変化をお楽しみください。

ライバルに なるんだから

前回の終わりと同様に、シリアスな始まり方でした。

サイコーの言っていることは、マンガ家として──仕事でマンガを描いている者として、当然のことです。とくに、読者アンケートによって人気を競い合っている「ジャンプ」では、ライバルとして意識し合うことで、お互いの励みになる。

亜城木夢叶として最後に、業界の厳しさをサイコーは白鳥に教えた。すこし突き放すような口調も、白鳥を自分と同等だと認めた証拠ですね。──彼が冷たいのはいつものことだけれど……。

とか言いながら、ゆるふわな空気が直後に流れて、面白かった。自分に対してはどこまでもストイックにがんばれるサイコーですが、他人には案外ゆるい。それに、以外と計算高かったりする。それが彼の持ち味です。

この場面は、サイコーとシュージンの立場が逆だったら、また違った展開になったことでしょう。シュージンは意外と勢いで話します。「じゃあ 次に会う時は 連載後の新年会だな(キリッ」などと即座にクビ宣告をして、今週分の原稿が苦しくなりそう。

香耶ちゃん 大丈夫?

マンガ的に分かりやすく落ち込んで、めっきり老け込んだように見えるカヤです。でも、心に負担を受けると、本当に人間は歳を取ったようになる。このようなことが続くと、カヤは加齢が進む一方です……。

サイコーは、自分の読み切りを手伝ってもらう目的では、シュージンに連絡をしない。それなのに、カヤのためなら、すぐにシュージンに電話をしようとする。お互いに気づかいあう関係は、美しいですね。

白鳥は連載を目指しているため、いつかは亜城木夢叶の仕事場を出ていきます。そのことを考えておかなかったのは、服部にしては珍しい。

アシスタントの手配が遅れたのは、服部のミスとまでは言えないけれど、いまは「負の連鎖」に取り囲まれています。一手でも間違えると、致命的な状況になりかねません。

そう言えば、『走れ! 大発タント』の連載時には、アシスタントは高浜と折原しかいなかった。片方は新連載を立ち上げて出ていくつもり満々の高浜で、もう片方はいまだにネームも描けない折原という……。

あらためて考えると『タント』は、奇跡の連載でしたね。そして、港浦の力量が分かるというものです。

おー そうか よかった!

すっかり、白鳥と同居中のシュージンです。

このページに来るまでのシュージンは、ピースに──と言うよりも白鳥に張り付いている印象が深かった。ようするに「シュージンと白鳥は仲がいい」と思わせる描写が多かったです。

そのわりには、この場面のシュージンは白鳥に「スパルタ教育」(死語)をしている。まるで、教育熱心な家庭教師です。ここでは、シュージンが何を考えているのか、まだ見えてきませんでした。

帰っても ひとり だけどさ

一人さみしく帰って行くカヤと、その背中を見送ることしかできないサイコーは、どちらも悲しく見えます。

このマンガが『お・と・な・の・バクマン。』だったら、カヤのさみしさをサイコーが埋めてあげるところだけれど──ところがどっこい青年誌じゃありません……! 少年誌です……! これが少年誌……!

参考: 破戒録/一条 – 福本AAWiki

それはさておき、シュージンの行動は徹底していますね。「逆ストーカ」という感じで、ちょっとこわい。

ものすごく自然な流れで描かれていますが、FAX のピピッという電子音だけで──カヤは引き返している。これは、さみしいカヤの気持ちを的確に表しています。本当に、ひとりぼっちの家に帰りたくないんだなぁ……。

そうそう、海外(アメリカ)のドラマや映画を観ていると、こういう時に、異性の友だちや同僚が普通に肩を抱いたりしますよね。女性ひとりの家へ、夜中に男性が来たり。文化の違いにドキッとします。

ネームを 急がないと

マンガ作品を読み慣れてくると、だんだんと目が肥えてくる。その結果、多くの人が「批評家」になります。勢い、「自分でもマンガを描けるのではないか」と思い込んでしまう。

優秀な原作者の近くにいて、多くの作画をこなしているサイコーなら、読み切りくらいは描けそうな気がしますよね。ところが、そう簡単ではないようです。

シュージンが『恋太』に力を入れているため、サイコーは遠慮しているのかと思いました。ところが、シュージンに聞くのは何か悔しいとのこと。気持ちは分かるけれど、これも負のスパイラルに飲み込まれている。

あいかわらず、顔芸の達者なサイコーです。夢に見るくらい、シュージンを白鳥に取られて悲しいのか……。