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鬼頭莫宏 『のりりん』

1999 Ford Mustang Cobra rear detail
(出会いは偶然──別れは必然)

なるたる』・『ぼくらの』といった「すこし(どころじゃなく)・ふしぎ」な作品を世に生み出し、メルヘンチックな世界を想像した少年少女の心をへし折った鬼頭莫宏先生が、まさか「自転車乗り」を描くとは思いませんでした。

生まれて初めて幼稚園のころに買ってもらったのは『ウルトラマン』が描かれたイカす自転車で、それ以降はママチャリばかりだった──という自分でも楽しめるマンガです。

新年そうそう・2012 年 1 月 6 日『のりりん (4)』に発売されるこのタイミングで、3 巻までの感想を書きます。

同じ日に発売される『なにかもちがってますか (2)』みたいな世界観になっていないか期待──もとい不安ですけれど。きっと、いままでのような「邪悪な路線」は『なにか』で描ききって、おそらく『のりりん』は平穏無事な展開でしょう。たぶん。

作者である鬼頭莫宏氏のウェブ・サイトを見ると、最近は見事にロードバイクの一色で染まっています。よっぽど好きなんだなー。

パズルピースがこんなとこ
パズルピースがこんなとこ

講談社の作品紹介ページから、『のりりん』の第 1 話が試し読みできます! 自転車の好き嫌いを置いておいて、純粋にマンガ作品の初回として最高レベルの仕上がりをご覧ください。

イブニング|のりりん|作品紹介|講談社コミックプラス

世界に広げたくなる輪

自転車を 1 台 出してきてと母親に頼まれて、「猫のクチ」状態になっている織田輪(おだ りん)が大好きです!(第 1 話)

主人公の あだ名と名前が、それぞれ「ノリ」と「りん」だから『のりりん』──かと思いきや、思わぬ所からセリフとして登場しました。下のページによると、博多弁では なさそうですね。

人が死なない鬼頭莫宏の自転車マンガ、だが面白い!『のりりん』1巻 DAIさん帝国/ウェブリブログ

こんなキュートな子(高校 2 年生)がレーサ・パンツを履く姿を想像すると──、全身全霊を込めて世界平和を祈りたくなります(?)。──平和だからこそチャリに乗れるからね。

高校の制服の下にレーサ・パンツを履いている輪(『のりりん (2)』 第 11 話など)も良いけれど、去勢されて いない モンスターのような本気の姿が美しい。とくに第 16 話の扉絵が まぶしかった。お尻の部分がハート形に見えますね。

汗だく状態なのは運動系の部活に入っている子も同じだから、学校のシャワーを利用するか、制汗剤で何とかするのだろうな──と(キモいことを)考えていたら、第 16 話で描かれていましたね。やはり更衣室を借りているようです。

なぜ自転車に乗っているのかと丸子に聞かれて、「そりゃ 楽しいけんに 決まっと ろーが」と当然のように答える輪も良かった。自転車乗りが嫌いだったはずの丸子も笑顔になっている。

性格は丸くない

俺 自転車 乗ってる ヤツが 嫌いなんです」──から始まる丸子一典(まりこ かずのり)の長い長い恨み節は、ネットでは かなり有名です。下のページから引用文をお読みください。

鬼頭莫宏『のりりん』の表現力(或いは言語化能力)には惚れ惚れする - マンガLOG収蔵庫

「好きの反対は嫌い──ではなく無関心」と言われるように、自転車が好きな人じゃないと、ここまで呪いの言葉は吐き出せませんよね。作者は もちろんとして、自転車に対する ひねくれまくった愛情を丸子も持っているのでは?

第 7 話で杏真理子(からもも まりこ)をエスコートする丸子を見ると、しっかりとした心配りは できるようです。ただこれは、仕事が営業職だからかもしれません。

入力してるエネルギーが 摩擦で無駄な熱に なってない感じ

「計算高くて性格が悪い」という丸子だからこそ、『のりりん (3)』で等々力に善戦できた。この「横断歩道の裏技」は笑ったなー。輪ですら思いつかなかった──というか、自転車乗りなら考えもしないでしょうね。

陽気に読める少年マンガみたい

「ライバル登場!」という 2 巻への「引き」が見事でした。等々力潤(とどろき じゅん)という名前も、いかにも好敵手という感じで、彼を主人公にしたスピンオフも作れそう。

丸子は、水泳を やっていたため昔から体力だけは ある(第 1 話)とはいえ、本気でロードバイクに乗っていた等々力に勝てるのか? ──と読者を引っ張っていく展開が楽しかった。

載っているのは青年誌ですが、『のりりん』は少年マンガの文脈で描かれている。3 巻までの展開であれば、子どもに読ませても安心ですね。ここから先に地獄が待っているかもしれないけれど……。

ここまでは、輪の母親である織田陽子(おだ ようこ)の持論を展開する──といった内容でした。彼女が「真の主役」と言っても間違いではありません。

丸子と等々力との勝負については、2 巻の時点で伏線が仕掛けてある。時代遅れの フレームじゃ 話にならないという等々力のアオリ文句に、内心はブチ切れていたに違いない。

もしも丸子と出会っていなかったら、輪と競走させていたでしょう。そうしたら等々力のプライドは地に落ちて、道ばたの軍手みたいになっていた。

そういえば、陽子さんが見せてあげると言っていた自動車って、どんな怪物なんだろう……。

東の国の熱い男

サブ・キャラのなかでは、東均(ひがし ひとし)が一番好きです。良いキャラしてるよなー。

飛ばない デブは──」のセリフは(いまだにブルーレイが出ていなくて驚きの)『紅の豚』のパロディですね。「飛ばない──」と間違えていない。

ポルコは「飛べない豚はただの豚だ」なんてこといわない | 亜細亜ノ蛾

普段は「アタマ空っぽなバカ」っぽい発言をしている東ですが、本当は頭の回転が速い人物だと思っています。友だちとして丸子のことを深く思いやっているし、「カラモモさん 惚れ直す ねー」(第 20 話)と恋のハッパを掛ける点も渋い。

あと、マリコマリコヒガシミナミはワロタ。

おわりに

なるたる』を最初に読んだ時は驚きました。やはり過去の作品を振り返ると、『のりりん』も恐ろしい展開になるのでは──と思ってしまいます。

たとえば、丸子の同僚である善寺修(ぜんじ おさむ)が怪しい。「勉強も運動も、すべては女にモテるため」という分かりやすい心情の持ち主で、上司の伊豆伸介(いず しんすけ)にも遠慮なくズケズケ言うところが、サッパリとしていて好印象です。

でも、そこが逆に「腹の底では違うことを考えていそう」な感じがする……。


もしくは──、輪の父親である織田栄(おだ ひさし)は、「トモダチガ輪」と書かれたタンクトップを着ていた(第 1 話)。

某・長寿番組の合言葉を模した──と見せかけて、父親は輪のことを「友だちのように濃厚で親密な態度で愛している」という比喩なのです!!!1 ということは──。

──とか考えている人はキモいよね。


一番アヤシイのは、第 1 話です。初めて輪の自転車を見た時に、丸子は離れているから大丈夫と思っていた。しかし、次の瞬間には接触しかけている。

あれは「ロードバイク(に乗った輪)は思ったよりも速い」という表現──ではなく、本当は事故を起こしていたのでは?

そう、この作品は織田輪の走馬灯なのだった──。

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