『アレックス』 悪意と悪趣味の固まりのような超暴力映画

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『アレックス』

[これはひどい]

ただただ不快で、もう、速攻で記憶を封印したくなる映画。こんな映画は久しぶりだ!

──と、むかつきながらベッドで寝ようとするのだが、眠れない。何度も、いろいろなシーンを思い出す。何度も、始めから終わりまで(終わりから始めまで?)反芻する──。

そのうちに、「ひょっとすると素晴らしい作品なのかもしれない」と思うようになった(寝不足で壊れたのかもしれない)。

──そんな作品って、ない?

映画でもマンガでも、始めは つまらないと思っていた作品に、気がつくと のめり込んでいる。そして、いつの間にか お気に入りだ。

『アレックス』は、始まった瞬間から観客を選ぶ作品だと思うので、「後からじわじわ好きになる」人は少ないと思うけれど、自分はハマった。ギャスパー・ノエ監督作品、また見ようかな。

ストーリィは単純

あらすじは二行で書けるような、単純なもの。

──なのだが、ネットで感想を見ると、意外なことに、悪趣味な仕掛けに気がついていない人が多いのでビックリ。

見終わったあとで、「冒頭の男カップル」をもう一度見てみましょう!

どうしても意味がわからない人は、Hugo 氏の記事をご覧ください。

Hugo Strikes Back!: Cena do extintor de incêndio do filme Irreversible(キャッシュ)

──どこまでも救いのない話だよな……。

『時計じかけのオレンジ』

「アレックス」と「暴力」といえば、どうしても思い出すのが『時計じかけのオレンジ』。

そもそも、「アレックス」は、モニカ・ベルッチが演じている女性の名前。ここでまず驚いたのですが、「フランスではアレックスは女性の名前なのか」とスルーしてしまいました。

ところが、ちゃんとそのあたりは考えて作られていたそうです。

日本題『アレックス』はモニカ・ベルッチの演ずる役の名前だが、本来女性の名前ではない。では何故アレックス?。想像するに『時計じかけのオレンジ』の主人公の名前からきている。(……)

ギャスパール・ノエのこの映画はいわばこの『時計じかけのオレンジ』のアレックスの位置に観客を置く映画なのだ。

『アレックス』ギャスパー・ノエ監督(仏2002) – ラッコの映画生活 – 楽天ブログ(Blog)

この見事な解説のおかげで、『アレックス』という作品を深く味わえました。胃液が上がってくるほどに。

逆行

この映画は、各場面ごとに切り取り、時間列を逆にして繋げてあります。なにしろ、オープニングがエンドロールから始まる、という徹底ぶり。

冒頭にすべてが終わった最悪な状況が映り、ラストに(おそらく夢の中と思うけど)幸せの絶頂という場面。

普通、始めが幸福で最後が最悪、という見せ方の方が見終わったあとに気分が悪くなるものですが、この映画では効果的に観客をどん底に突き落としていますね。

どんなに幸せな過去を見せても、最悪な未来は変わらない。

どこから見ても最悪

DVD 特典として、時間順に場面を並べて再生できます。

メメント』も時間列を並べ替えて効果を高めていますが、こちらは時間順に並べると普通の映画として見られる。

しかし、『アレックス』は時間順に並べても、最悪に不快ということは変わらない。どこから どう見ても最悪な気分にさせてくれます。

さらにいうと、始めのほうは「いいひと」っぽかったアレックスの元カレも、後半はひたすらキモい。この気持ち悪さは、一見の価値ありです。彼の言葉を受け流す余裕がある、アレックスと彼氏はレベルが高い!(なんの?)

最後の方の「事件の数時間前、恋人同士の楽しいひととき」も、映画として見るなら不快。わざわざ「妊娠検査薬」を使うところまで映すという……。

教習所のビデオのような

この映画をプラス方向に考えるのであれば、

「自動車教習所で見せられる事故のビデオ」

のようにも思える。

「教訓: 女性は夜道をひとりで歩かないようにしましょう」みたいな。

なんでこんなことを書くかというと──、

冨樫義博氏の『レベル E 』で、「人間の女性だけを食べる宇宙人」の話があって。

不良のバカ男同士が事件の真相を知って、一人が彼女を心配して電話をかけるシーン、あれが凄く好きなんですよね。仲間の前だとつっぱっていても、ちゃんと彼女のことは心配している、という。

『アレックス』を見た後、彼女に電話したくなりませんか?

コメント

  1. ライティライト より:

    現実そのもの。天国と地獄が散りばめられている。
    ラストの眩しくなるフラッシュ映像と音が良かった。
    一度見てからコマ送りで見ると、静寂の中で、また違う良さが感じられる。
    ここまで現実の残酷さを見せつける監督はなかなかいない。