バクマン。 #16-3 「速報と本ちゃん」 落ち込む二人と天才・エイジ

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『バクマン。』 16 ページ 「速報と本ちゃん」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 01 号)

申し訳ないことに、まだ先週分の感想です(誰に対しての謝罪?)。

もう今週の『バクマン。』を読んでラストに驚いている中、先週分の感想を書いた。なるべく、「16 ページ」を読んだ時点での自分を呼び起こして、イタコ状態で書くのは大変だった。

同じような、それでいて似ていないような話で、野火ノビタさん(榎本ナリコ – Wikipedia)が旧・劇場版エヴァの制作サイドにいながら、それを忘れて作品を批評した、というエピソードが最高に面白い。どんな心理状態だったのか、想像も付かない。このあたり、また書こう Q。

さて、「16 ページ」終盤の見どころは、サイコー・シュージンと新妻エイジとの差を見せつけられた場面である。この差は大きい。とうてい、すぐに埋められる差ではないように思える。二人がエイジに迫り、追い抜く日は来るのであろうか……。

ビックリさせたい

ますますノッてネームを描いた場面が興味深い。第三者から見れば、連載を急ぐための戦略であり、100% 自分たちの勝手な都合だ。それでも「服部を驚かすため」にがんばっている、という姿勢が良い。

作家は編集者のために作品を書いている、という側面はあると思う。自分が好きな作家──冨樫義博さんや森博嗣さんも同じことを言っていた。なにより、一番目の読者は編集者である場合が多い。作家の中で編集者が占める割合が大きいのも当然である。子が親を選べないのと同様に、編集者とウマが合わないと苦痛だろうが……。

想像するに、この「デビュー前」や「次回の連載の前」が創作の一番楽しい時期ではないか。編集者から、そして読者からどんな反応があるか分からない。早く読んで欲しくもあり、不安でもあり……。その楽しい時期が続くのは、どこまでだろうか? 10 週打ち切りを回避できた時? コミックの 1 巻が発売された時?

──ジャンプの場合は、長期連載になったあとのほうが怖い。いわゆる「もうちょっとだけ続くんじゃ」(『ドラゴンボール』)や「魔界トーナメント」(『幽☆遊☆白書』)状態である。これって、下手な打ち切りよりもツラいらしい……。サイコーたちが目指しているのはアニメ化なので、左記の例に続かないことを祈る。

本ちゃんの順位

服部の驚く顔を楽しみにして、二人は集英社にやって来た。そこに思わぬ先制パンチを浴びる。この服部が登場する場面は、少ないコマとセリフでサラッと書かれていて、じつに効果的だ。ウマい。服部の「にゅっ」という擬音も笑える。

アンケートの結果は、どう考えても他人から見れば上出来である。「亜城木夢叶(あしろぎ・むと)」のデビュー作としては、文句のない結果だろう。それでもサイコーは落胆する。

目の前が真っ暗になる、という経験は自分にはない。頭の中が真っ白になったことはあるので、想像はできる。初めてこのような体験を言葉にした人は、スゴい。そうでなければ、このような状況になったときに、パニックになるかもしれない。人間、言葉や概念を知っているだけで安心できるものである。

失恋のショックは、マンガや小説で疑似体験していないと──耐えきれない恐れがある。存分に脳内で準備をしておくべきである(いつの間にか そちらにハマってしまうのも一興だ)。

当然ながら、アンケートの順位は新妻エイジの耳にも届く。ここでも、エイジと二人との差が決定づけられた。少しベタな気もするが、本当に「マンガの天才」らしい反応だ。いろいろな要素があった上で初めてマンガに本気を出せる二人と、常にマンガのことだけを考え続ける天才……。勝負は初めからついていたのかもしれない。

ただ、気になるのがエイジを担当している編集者だ。彼って、作品作りにはまったく関与していないように見える。見えるだけではなく、このエイジが作品のことについて他人の意見を聞くとは思えない。この辺りがエイジの弱点になってくるのだろうか。

新作のネーム

「赤マル」での順位を聞いて落胆するサイコーに対して、服部の言葉は優しい。編集者としてだけではなく、年長者からのアドバイスのようにも聞こえる(実際、その通りだが)。

ああ、サイコーはシュージンと服部に巡り会えたことが最高にラッキィだな、と思った。もちろん、亜豆にも。

よくよく考えてみれば、服部は友だちとして会ってくれているわけではない。わざわざ仕事中の時間を割いて、服部は二人の前に顔を出している。それなのに持ってきたネームを見せない、というのは失礼だと思う。幸いにして、アンケートの結果を聞かせる・傾向と対策を三人で考える、という機会でもあったから良かったようなものだ。

二人の弱点は、サイコーの意固地なところだろう。意地を張る・我を通すのは、ジャンプの主人公では良い方向に働くことが多い。それを期待しよう。

王道で勝負

また大場つぐみにやられた! という展開になった。

今までの流れから『バクマン。』とは、「マンガ家は博打打ち(ばくちうち)」と「博打のような邪道マンガで天下を取る」の意味、と誰でも考える。それが、ここに来ていきなりの方向転換をするとは思わなかった。並の作家だったら「急に路線変更をしたのだろうな」と思うが、この作者でそれはあり得ない(と思う)。おそらく、初めからこの紆余曲折を考えていたのだろう。

俺達 王道なめてたじゃん ただ戦わせて コマと必殺技の名前 でかくすればいいって

──スンマセン、それ、オレもです……。

そう、王道マンガって聞くと、なんとなく「あー『○○』は良かったけど『●●』はダメだね。最近、マンネリすぎじゃね? w」のような、物知り顔と含み笑いで語って終わるマンガ読みは多い。そうじゃないスか?

サイコーが改めて思い知ったことを、同じマンガ好きとして共感する。

王道でも絵が上手いだけじゃない 作者が透けて見えるっていうか 強烈な個性が出てるんだよな

ベタな王道マンガだって、ちゃんと読めば面白さは いくらでも引き出せる。だからこそ人気があるのだ。──うう、ゴメンよ、今までバカにしていて>『BLEACH』(いちおう自己フォローしておくと、好きな作品だからイジってるんだからね! ////)

──とサイコーの言葉に感動した直後、この作品で一番批評が集まりそうな行動に出る彼がイカす。サイコー、地球に優しく(笑)しろよ! クリーン(笑)