バクマン。 #114-3 「恋路と歩道橋」 ハイヒールと「よく聞け」

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『バクマン。』 114 ページ 「恋路と歩道橋」 (週刊少年ジャンプ 2011 年 03・04 合併号)

Red heels
(恋の逃走劇には──あまりにも高すぎる)

今回は、吉田が平丸に愛の告白をする話です。

いや、いやいや、おっしゃりたいことは分かりますが──、どう見ても、そんな感じの展開なんだよなぁ……。すくなくとも、吉田は平丸に惚れたんだとハッキリ言っている。


冗談抜きで、編集者とマンガ家という立場であれば、編集者のほうがマンガ家の才能を伸ばすように努力するべきでしょう。全員が港浦のような編集者ばかりなら、日本のマンガ界は終わりです。

吉田は、平丸の成長を的確に助けてきました(アメとムチとの使い分けで)。それも、吉田が平丸(の才能)に惚れ込んでいるからです。

平丸と吉田の未来に、幸あれ!

バイクに 追いつかれる…

まさかこのマンガで、カーチェイスが見られるとは思いませんでした。『DEATH NOTE』にも車とバイクとの競走が出てきたし、作者が好きなのでしょうね(なんとなく、小畑健さんが車好きな気がする)。

いま気が付いたけれど、「ジャンプ」にはカーチェイスの場面をあまり見ません。それは当然で、ほとんどのマンガに出てくる登場人物たちは、読者層と同じくらいの年齢──中高生が多いからです。自転車同士の競走すらない。

福田の『ロードレーサー GIRI』は、よくアニメになるまで人気が出たよなぁ……。よっぽどキャラクタに魅力があったり、レースの迫力が描けていたりするのでしょうね。今の時代でレース物が読者にウケるなんて、ちょっと信じがたいですケド。


この蒼樹といる瞬間のために、ポルシェを 2 台も捨てられる平丸が格好良すぎます! さらに、蒼樹さんと ドライブできたんだ 安いもんです !! なんてことを、手を握りながらサラッと言っている。

──これがつい最近まで、デートのシナリオを他人に頼んでいた男の行動とは、とても思えませんね! 今日という 1 日のために、平丸がどれだけ命を賭けているか、よく分かる。

意思さえあれば、人はいつでも変われるものです。


ここまでされたら、そりゃ、蒼樹紅──青木優梨子さんも、平丸に惚れてしまいますよね。じつは、平丸は吉田から逃げているだけですケド。

それにしても、彼女の人生の中で、恋愛ドラマの 主人公みたいに扱われたことがない──というのが信じられません。よっぽど、ろくな男がまわりにいなかったのか……。

でも、蒼樹の通う大学に、夜神月がいなくて良かった。

逃げても 無駄だ!

平丸と吉田のコンビは、本当に面白い。

この 2 人は、いつでもどこでも、普段どおりに話をするだけで──コントになる。平丸の金銭欲(働きたくない欲)と、吉田の出世欲との両方を満たしたいなら──、

2 人でお笑い芸人になったほうが早かったりして。


これだけせっぱ詰まった(笑える)状況なのに、蒼樹が言ったセリフを都合良く改変できる平丸は、やっぱりすごい。自己中心的な彼の一面が、こんなところからもよく分かる。

平丸の見ている世界は、人とは違うのかも。

同じできごとを同じように見ていても、受け取りかたが大きく異なる──。これは、よくあることですよね。

たとえば──、とある事件をウェブやテレビで知った時に、「ミクシィ日記の公開範囲には、充分に気をつけよう……(ガクブル……)」と思う人もいる(あなた?)。

でも──、「浮気にはリスクがある」や「殺人は良くない」と感じるのが、常識的なとらえ方だと思う。

あなたの見る目は、ゆがんでいませんか?

幸せなことだ!

蒼樹まで巻き込んだ平丸と吉田との──茶番劇を、通行人たちは冷ややかな目で見ています。都会の人間からすれば、テレビや映画の撮影などで、「変わった風景」には慣れているのでしょうかね?

よく会話を聞けば、「ジャンプ」で連載をしている「平丸一也先生」であることは、丸わかりです。ここに彼のファンがいたら、ややこしくなったでしょうね。それとも、「どっきり企画」だと思うだけかも。


蒼樹をエサにして平丸にマンガを描かせようと、吉田は策略を練ってきました。でも、今回はあっさりと蒼樹自身が、マンガを描かないのは駄目ですよと言っている。初めから吉田は、蒼樹に頼めば良かったですね。

または──、「平丸」「さん」「大好き」「だから」「お仕事」「がんばって(はぁと)」──といった蒼樹の発言を細切れで録音しておいて、合成する。吉田なら、これくらいはやりそう。

この場面でちょっと気になるのは、平丸先生と蒼樹が呼んでいること。学校の教師みたい。「仕事モード」から出た発言だから──だとは思いますが、まだまだ 2 人の間にはカベがあります。


君は 2 ~ 3 年に 1 人の逸材なんだ!

──こんなセリフは、なかなか出てきませんよね。平丸が言うとおり、もうすこし甘めの評価で良かったのでは? いつもは 嘘偽り だらけなのに、ヘンなところで正直な吉田です。

吉田がウソをつくのは、仕事の場だけなのでしょうかね? でも、編集部にいる時の吉田は、まともなことを言っているように見えます。ほかの編集者も、吉田の発言をおかしいとは思っていない。

やはり、平丸の前にいる時だけ、普段とは違う吉田の顔が表れるようです。それが彼の本性なのかも……。

吉田の奥さんの前では、どっちの顔をしている?

そんな先生はほかにいない

以前からこのブログで描いてきましたが、平丸の才能を一番認めているのは、吉田です。マンガ家・平丸一也の才能に、吉田は熱中している。

思えば吉田は、デビューの前から、平丸の売り込みに熱を入れています(『バクマン。 (4)』 p.160)。たんたんとした口調でありながら、自信を持って平丸のことを語る吉田からは、力強さを感じました。

将来の平丸がいやいややっつけで てきとーに 描いているなんて、あのころの吉田には、想像もつかなかったのでは? ──いや、新年会ですでにその兆候は出ていたか……(『バクマン。 (5)』)。


自分の苦しさを心の底から吐き出す平丸は、いつもとは違うふんいきです。ここまでマンガを描くことをいやがっているのに、一度も原稿を落としていないことは、もっと評価されても良いと思う。

(『バクマン。』に描かれている限りでは。また、亜城木夢叶のために、集団でボイコットした時は除く)

あんたにわかるか!

人生で 1 番幸せな 1 日を、その日のうちに実感できるなんて、平丸は幸せですね。自分の場合は、あとから振り返って「あのころは良かった」と思うばかりです。

こんな魂の叫びを聞いて、すぐに「ごっつええセリフ」を返せる吉田はすごい。どンだけアドリブが上手なんだよ!

これだけ素晴らしい言葉(ウソ)がスラスラと言えるのだから、吉田は編集者だけではもったいない。作家を目指したら良いと思う。