『バクマン。』 56 ページ 「大人と子供」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 45 号)
数年前から、いろんな「モンスタ」が登場して騒がれています。ハンタが出てくるゲームの話だったり、親のことだったり……。
今回の話は、「モンスタ・エディタ」──つまりは、ちょっとやっかいな編集者の話と言えます。本人が良かれと思ってやっている所が、周りからすると、よけいにツラい。
そう、世の中には、明確な悪意よりも迷惑な、善意があるのです……。
両方 面白いな
亜城木の 2 人がこれほどまでに時間と熱意を注いでいるのに、港浦が言うことは変わらない。もう、なんというか、スガスガしいまでに「お笑いが好き」な姿勢を崩しません。編集部では小心者な彼は、作家の前では神経が太いです。
この時点では、港浦は『Future watch』(未来時計)のことを知りません。もしも、この場に『未来時計』の原稿があったとしても、港浦は『HITMAN 10』を選んだのでしょうか? ──たぶん、選んだのだろうな……。まったく態度を変えず、何十とネームを持ち込んでも、お笑いを取るでしょうね。
シュージンは、シリアスな SF 調の話が得意なだけではなく、笑いのセンスも持ち合わせています。普通に考えれば、原作者として強力な武器を持っている。それが、まさか悲劇の始まりになろうとは……。
戦うはずだった
サイコーが感じたとおり、何を言っても無駄
という表情の港浦です。そうか、コイツがラスボスだったのか……!(←?)
たぶん、港浦は悪気があるのではなく、本当に『HITMAN 10』の方が良いと思っているんですよ。それが、逆にタチが悪い。少しでも、ムリに笑いを選んでいる感じがあれば、まだ反論ができる。しかし、港浦は心から良いと思ったことを言っているのです。
それに、あまり望ましくない作風とはいえ、なんだかんだ言ってシュージンが描いたネームなんですよね。否定するのもオカシイ。
マンガ家が持ってきたネームを、面白そうに読んでいる編集者を描いて、「恐ろしい……」と思わせる展開がスゴいですね。本来であれば、お互いに楽しい時間になるはずなのに。
原稿は返すから
とうとう、月例賞へ応募した『未来時計』が、編集部内で話題になりました。
面白いのが、この原稿を打合せの場へ持ってきたのが吉田、というところです。ちょっと叱るような口調と表情ですが、吉田のことだから、内心は楽しんでいるに違いない。こういった反骨精神は、大好きなはず。
港浦は常識で考えろ
と言いますが、「どうしても読み切りで試したい」、という気持ちは常識外れなのでしょうか。頑なに連載ネームを描かせ、しかも笑える作風しか受け付けない、という港浦には言う資格がないと思います。
賞はいりません
月例賞へ作品を送るかどうかを、港浦に対して吉田が聞く。ここは、ジャンプ編集部の象徴のような場面です。
まず、違反行為ではないから、亜城木夢叶の投稿をすぐには却下できない。そして、原稿をどうするのかは、担当の編集者である港浦に決めさせています。吉田は班長なのだから、彼が判断しても良さそうですが、あくまでも担当に任せているんですね。
まさに、この「マンガ家の将来は担当者が握る」というシステムが、今回の騒動となった原因です。すべての原稿は、担当者を通さなければならない。そのため、どうしても担当者と意見が合わなければ、今回のように抜け道を見つけ出す必要がある。
サイコーとシュージンのように、過剰なまでの根気がなければ、描きたいモノもろくに描けない──。そうやって消えていったマンガ家もいたのかな、と思ってしまいます。
やる気は あるんだよな
亜城木夢叶と港浦とを仲立ちさせるため、編集長は服部を向かわせる。──さすが編集長、分かっています。たしかに、この場を収める役目は、服部が適任ですね。佐々木や瓶子が出向いたら、大ごとになりすぎるし。
当の服部は、仲裁へ向かうことに納得していない様子です。それでも、編集長命令となれば、向かうしかない。服部は、見た目通りに体育会系で、自分の立場や上下関係を重んじているのです。
それにしても──。亜城木夢叶の担当が、ずっと服部だったら、どうなっていただろう。サイコーが倒れないような、体調管理も服部ならできたのか。もし入院しても、打切りにならないような「何か」を、服部ならやれたのでしょうかね。
そう考えると、あまり港浦ばかりを責める気も薄らぎます。ただ、服部が亜城木夢叶の担当者なら、今回みたいな騒ぎにはならなかったでしょうね。